怖い。いやもう、凡ミスというか自己防衛力の低さというか、そんな感じだけど。
 道後は布団の外で一人、膝を抱えた。
 防衛部でお泊まり会をしよう、となったのは先週のことだ。楽しみで楽しみで夜も眠れない日々を過ごしてきただけあって、それは本当に楽しかった――「お泊まり会と言えば、怖い話?」と修善寺がとち狂ったことを言い出すまでは。
 それから長々と二時間ほど、散々怖い話をし続けた修善寺と万座の所為で、道後はちっとも眠れなくなってしまった。さっきまで一緒に震えていた霧島も眠ってしまい、完全に独りぼっちだ。
 布団に潜っても、中が暗いのが怖い。正直外にいても怖いけれど、月明かりがあるから多少はマシな気がしている。
「……一六くん?」
「っひ!?」
 急に聞こえた誰かの声に、道後はぴょんと僅かに跳ねた。「よく体操座りで跳べますね」と笑われ、恥ずかしくもほっとする。
「な、七緒先輩……脅かさないでください……」
「脅かしてないです。それにしても、一体どうしたんですか。もう遅いですし、布団に入った方がいいですよ」
「そ、そそそれは……まあ、そうなんすけど……」
「けど?」
 言えない。布団まで怖くて寝られないなんて。何て返そうと、と大汗をかいていると、和倉は静かに視線を彷徨わせた。それから、何か思いついたように微笑む。
「一緒に寝ますか?」
 そんな言葉と共に、ふわりと持ち上げられた布団と、自分の為に空けられたスペースを交互に見る。
 一緒に。同じ、布団で。
「い、いえいえいえ! あの、大丈夫です! 俺、ひ、一人で寝れるんで!」
「本当ですか? 遠慮しなくていいんですよ?」
「え、遠慮とかそーゆーんじゃなくて……!」
 遠慮とは違う。だって、今感じている【これ】は、申し訳なさや後ろめたさなんかじゃないから。あわあわと口を開いては閉じていると、和倉はぽつんと零した。
「……君がもし本当に困っているなら、助けてあげたいなぁ、なんて思ったんですけど……。すみません、差し出がましい真似をしました」
「っ!」
 僅かに傾けられた眉が、何となく悲しそうに見えて、道後は考えるより先に和倉の袖を掴んでいた。
「……一六、くん?」
 きょとんとした感じの声に、道後は慌てて顔を伏せた。掴んだ袖は、何となくそのまま。
「……あ、あのあのあの!俺、ほんとは今めちゃくちゃ怖くて……! ね、れなくて、布団も怖くて……寝れなくて……だ、から、あの……えっと……」
 全部言った。もうここまで来たら、あともう一言。
 道後はきっと顔を上げると、一度むぎゅっと唇を結んでから、勢いでぶちまけた。
「い、一緒に寝たい! ……です……」
「……」
 返事が、ない。気まぐれだったんだろうか、傷つけてしまったんだろうか、と脳内でぐるぐると色々な何かを駆け巡らせていると、ふっと空気が和らいだ。
 恐る恐る顔を上げると、和倉は柔らかに頬をゆるめていた。
「ええ。どうぞ」
 もう一度布団を持ち上げてくれた和倉の傍に近づくと、そっと隣に滑り込む。匂いが、温度がいつもよりずっと近くて、どきどきした。
「ほら、もっと寄ってください。お布団から出ちゃいますよ」
「えっ!? いや、あの、えっとえっとえっと……!」
「はい、四の五の言わなーい」
「っっっ!?」
 急速に詰められた距離に、心臓が破裂しそうになる。何だこれ、寝れないかも。
「君、あったかいですね……。子供体温で……いい湯たんぽです……」
「あ、りがとうございます……?」
「…………くぅ……」
「え、な、七緒先輩っ?」
「…………」
 秒だった。いや、本当に。体感三秒くらい。
 ぎゅっと道後を抱きしめたまま、和倉はこてんと寝入っていた。
「……えー…………」
 自分のものとは違うあたたかさ。包まれる感覚。どれもこれも、道後の心拍数を上げるのに一役どころか六役くらいは買っていた。
 これは、外にいた方が逆に眠れたかもしれない。なんて今更出られるわけも、出る気もない。
「……えいっ」
 思い切ってぎゅぅ、と抱きついてみると、何となく和倉が笑ったような気がした。

 さて、この翌朝【同衾する】二人を見て、霧島と万座が大騒ぎすることになるのだが。

「…………やっぱ、いい匂いする……」

 今はまだ、知らなくていいことだ。