「……やべぇ」
 思わず本音が、浮かんだ言葉のままで零れた。ぱっと口を塞いだが、自宅なんだからいいかと思い直す。
「明日は調理実習です。家からエプロンと三角巾を持ってくるように」
 家庭科の教師に言われた時、「やばやばやば! うちねーかも!」と騒ぐ道後と違い、万座は何一つ慌てていなかった。中学で作ったエプロンも、当時使っていた三角巾の位置も思い出せた為だ。早速大捜索に乗り出そうとする道後に、「精々頑張れ」とエールを送り帰宅。さて準備しようとエプロンを出した瞬間、とんでもないことに気づき――冒頭に戻る。
 エプロンそのものはいい。だが、問題なのは図柄だ。確か、沢山種類がある中から選べるタイプだった覚えがある。シンプルに一色の物、ワンポイントが入っている物、総柄の物。色々なデザインがあった。そしてその中から一つ、自分で選んだ覚えもある。
「……なんで、龍なんか選んでんだよ……!」
 中央で悠々と舞い上がる龍のイラストに、万座は大いに頭を抱えた。この龍、鎖まで巻いてやがる。
 なんで、と言ったが、選んだ理由もちゃんと覚えている。至極単純、【一番かっこよかったから】だと。今だってちょっとは――いやまあ、かなり――かっこいいと思っているが、高校生が身につけるには幼すぎるだろう。
 これを、明日使うのか。クラスメイトの前で。冷静で落ち着いていて、優等生の万座太子が。
 ……嫌だ。絶対に嫌だ。何とか手を打たなくては。
 部屋をうろうろと歩き回りながら、策を考える。忘れたと言ってみようか。いや、忘れ物なんて印象が悪くなる。弟の物を押し付けられたと言ってみようか。いや、道後にすぐバレる。どうすればいいのだろう。
 うろうろと彷徨い続けること、二分。
「百均……」
 ぴん、と【百均】というワードが浮かび上がる。まるで天啓のように、唐突に。
 そうだ、百均だ。百均で買ってくればいい。きっとシンプルな何かしらがあるはずだ。これしかない。
 財布をポケットに押し込み、家を飛び出す。無駄に悩んだ所為で時間がない、ここの店は閉店が早いから、あと三十分ほどしかない。
「っ、間に合え……!」
 世界でも救いそうな勢いで百均に駆けていく万座だが、果たして【まともな】エプロンは買えたのか。
 それを知るのは、翌日のクラスメイトと本人だけである。