爪先を揺らしたり、ちらちらと視線を送ってみせたり。
ずっと落ち着かない様子の道後を見て、和倉は心でため息を吐いた。
部室に来たら、いたのが道後一人だった。別段気にすることはない、と普通に席に着いていたのだが、その瞬間からこんな調子で。なんと言うか、そろそろ精神に異常でも来しそうだ。
「い、」
「なっ、七緒先輩っ! 俺、お茶入れますか!?」
「いえ、龍馬くんが来てからで大丈夫ですよ」
「あ、そうですか……」
『…………』
異様な沈黙が落ちる。道後の心臓が、物凄い勢いでポンプしているのが見えるような気がした。
「あの、一六くん。少し出ていますね」
一度出直そうと席を立つ。
軽く微笑んでから、部室を後にしようと背を向けた瞬間、右手をぎゅっと掴まれた。
「こ……、ここに、いてください!」
「……はい?」
思わず聞き返すと、我に返った様子の道後は、和倉の手を勢い良く離した。
「うわ、うわうわ! すみません、俺っ、何かあの……、七緒先輩怒らせちゃいました?」
「特に怒っていませんよ。ただ、お手洗いに行ってこようと思っただけです」
嘘だけど。
「……ト、トイレですか……なぁんだ……」
良かった、とゆるむ頬を見て、和倉はそっと首筋を掻いた。こうも好意を浮かべられると、いじめたい気持ちがまた妙な形に変わりそうになる。
「なんですか、僕に嫌われてないのがそんなに嬉しいんですか?」
霧島なら「えっ、あっ、違……くはないですけど……」と期待通りの大慌てを披露してくれるだろう。
そんなからかいを込めた言葉を受けて、道後はばっと顔を赤くしたあと、いつもの元気さはどこへやらな小さな声で答えた。
「……………………えっと……はい」
いや、もう本当に勘弁してほしい。
和倉が席に座ると、「あれっ、七緒先輩トイレは?」と聞かれたが、そんなこと知ったことではない。
幼い頃から、人には好かれやすかった。
中身を知って尚好いてくる奇特な人間だって大勢いたけれども、道後のそれは、他とは一線を画している、ような。
熱っぽい視線、というのはこういうものを指すのだろう、と言いたくなるような視線は、真っ直ぐに和倉を射抜いていた。
どうせなら僕の目を射ればいいのに、意気地無しだなぁ、一六くんは。