どん、と間に置かれた塊肉に、万座はどうしようもなく戸惑った。和倉曰く貰い物らしい。大きさといい、梱包といい、高価なのは間違いない。
「……切りましょうか」
「そうですか。ではお願いします」
「はい」
 耐え切れず手を挙げてしまったが、こんな塊肉を、というかローストビーフを切ったことなんてない。薄く切ればいいのか、厚く切ればいいのか。迷いながら、傍に置かれた包丁を手に取り、そっと刃を滑らせる。柔らかな肉はするすると刃を通し、あっという間にまな板にたどり着いてしまった。……確信した、これぜってぇ高ぇやつ。
 うんうん唸りながらどうにか切り終え――やや厚くなってしまったのはご愛嬌だ――、適当な皿に乗せてから、和倉の方へ差し出した。
「切れました」
「ありがとうございます。折角ですし、いただきます」
 ひょい、と無作法に一切れ摘み上げると、和倉はローストビーフを口へ運んだ。もぐ、と咀嚼し、感心したように頷く。
「美味しいです。太子くんもどうぞ?」
「あ、はい。いただきます」
 フォークか何かを探そうかとも思ったが、何だか面倒になってきて、万座は躊躇いつつも一切れ摘んだ。そっと噛むと、切った通りの柔らかさと旨みに驚く。流石いい肉は違う。いや、多分だけど。
 引き寄せられるように、二枚、三枚と口に運ぶ。が、一方の和倉はあれきり手をつける様子はなかった。どうしたのか。疑問が顔に出ていたのか、和倉が「あぁ」と声を上げた。
「僕はもういいです。太子くん、食べられるようでしたらどうぞ」
「あ……、はい。いただきます……」
 結構な量があるのだが、食べ切れるだろうか。しかし残すのは勿体ないし、ローストビーフにも失礼だ。もぐもぐと咀嚼し続ける万座に、和倉は思い出したようにぽつりと零した。
「こういうの、一六くんは好きそうですよね」
 ぐ、と喉に肉が詰まった、気がした。
 万座は静かに口の中の物を飲み込むと、小さく返した。
「……そうですね」