右手が幽かに震えた。なんだ、ビビってんのか?と胸のうちで笑ってみせたけれど、震えは止まない。ため息を一つ吐くと、一郎は自らの頭に問いかけた。
――お前、何が怖いってんだ? 負けることか?
返事はない。
「兄ちゃん!」
「一兄!」
ふと弟たちの声がした。震える右手をそっと隠すと、一郎は二人に笑いかける。
「どうした? 二郎、三郎」
「聞いてください一兄、さっきから二郎の奴がうるさいんです。『オオサカになんかぜってぇ負けねー』とか威勢のいいことを言った次の瞬間に『負けねーよな?』『大丈夫だよな、大丈夫大丈夫』とか泣き言言い始めるんですよ」
「んだと! 三郎だってさっき『今回こそ勝つ』っつったり『負けたらどうしよう』っつったりしてたじゃねーか!」
「なっ……! それは言わない約束だろ!」
「先に約束破ったのはどっちだよ!」
「なんだと!?」
「おいおい、終わったばっかだってのに二人とももう回復したみてぇだな……」
叱らなくては、とは思いつつあまりにもいつも通りな二人に笑いが込み上げてくる。ふは、とひと息分だけ零してから、一郎は二人の頭に手を置いた。
「大丈夫。今の俺たちが出し切れる全部を懸けたんだ、負けるわけねぇよ」
「そうだよね、兄ちゃん」
「はい、一兄」
一郎に、二郎と三郎の視線が注がれる。揃いの緑が、ちかちかと瞬いているように見えた。
――不意に、二人の手が、一郎の頭に置かれた。
思わず呆気に取られた一郎へ、弟たちは不敵に笑いかける。
「だから大丈夫だよ、兄ちゃん」
「だから大丈夫ですよ、一兄」
ぴたり揃った声に、一郎は一瞬息を忘れた。
は、と零れた笑い声が自分のものか弟たちのものかは判らないが、空気に溶けた声は、確かに誰かの笑い声だった。
「そうだよな。大丈夫だ、絶対。勝つのは俺たち、バスターブロスだ!」
「うんっ!」
「はいっ!」
注がれる眼差しの優しさと温かさに、何となく気恥ずかしいような、嬉しいようなそんな感じがした。逸らしたいけど、逸らすのは惜しくて、ぐっと堪えて見つめ返す。
――雲の切れ間から、ゆっくりと光が揺らいだ。それは陽光か、はたまた月光か。それが判るのはきっと、もうすぐのこと。