楽しい時間はあっという間、とは真理だ。
次々と打ち上がる花火を見上げ、帝統は知らず知らずのうちに笑っていた。この時間は間違いなく終わりへ向かっているのに、始まった時と変わらず心が躍っている。幻太郎の呟きは上手く聞き取れなかったが、伝わってきた雰囲気はどことなく楽しそうで。多分、前向きなことを言っていたのだろう、と思いたい。
「帝統」
轟音の幕間に、幻太郎の呼ぶ声がした。何だよと、視線を向ける。
幻太郎は微笑んでいた。微笑みにすべてを隠して、溶かして、さらけ出して。
――愛おしい。
その笑みに、言葉を失った。誰よりも巧みに言葉を操るくせに、こんな時だけその武器を置くなんて狡い。言葉にしてくれた方がどれだけよかったか。
瞳が瞬いている。花火が映り込んだだけだと判っているのに、まるで虹彩そのものが光を放つように見える理由なんて、ひとつしかない。
「……幻太郎、」
「帝統、あなたはいつまで鼻にイカ焼きの欠片をつけているつもりなんですか?」
「は? マジか!?」
ぱっと鼻に触ったが、欠片の気配はない。ここかここかと顔を撫で回してみるが、一向に何も取れない。四苦八苦している最中、そう言えば今日はイカ焼きを買ってないことを思い出した。
「って嘘じゃねぇか! つーか今日イカ焼き食ってねーだろ!」
「そうですね。だのに帝統と来たら、素直についたイカ焼きを探すものですから、些か心配になりましたよ」
「自分でやっといてよく言えんなそんなん……」
「小生、お茶目なので。キラッ! キラッ……キラッ……」
「お茶目とかそういう問題じゃねぇしエコーやめろ!」
「……ふふっ」
人が振り回されている様を見て笑ってやがる。なんて奴だ。そう思うのに、同時に笑ってくれて嬉しいような気もしてしまうのだから、恋慕とは厄介極まりない。忍び笑いを零す幻太郎の瞳が、柔く緩む。
「……幻太郎!」
轟音の幕間、彼の名を呼ぶ。なんですか、と向けられた視線へ視線を送る。
本当は言葉にしたいけれど、折角なら同じ土俵に立ってやる。こういうのは、その方が面白いから。
――好きだ。大好きだ!
言葉を瞳に、声を視線に。すべてを込めて笑うと、幻太郎が少しだけ瞠った。それから、やんわりと視線が逸らされる。
「少々小腹が減ってきましたねぇ。帰りにベビーカステラでも買って帰りましょうか」
「おっ、いいな! 俺にも一つくれよ!」
「お断りします。一つを許せば二つ、二つを許せば三つ、そして四つ五つ……と全部食べられてしまう未来が見えましたので」
「そんな食い意地張ってねーよ! 今日は散々メシ食ったしな!」
至っていつも通りの会話にやり取り。けれど、込めた想いはきちんと届いたらしいし、伝わったらしい。
「……花火、今ので最後か? 幻太郎、早く行かねーと出店引き上げちまうぜ」
「はいはい、只今」
何食わぬ顔で帝統の先を行く彼を見て、ふふんと笑みを深める。にやけている、なんて指摘されてしまうかもしれないが、構わない。そのままの飛びつくように肩へ腕を回す。
「そういう時は『俺も!』って言やぁいいんだよ」
「な、何のことやら、妾にはとんと判りませぬ……」
「へへっ、そういうことにしといてやんよ」
「……野暮な人」
ふいと視線は逸らされたが、腕を解かれはしなかった。店仕舞いを始めようとしていたベビーカステラの出店へ飛び込み、揃って叫ぶ。
――【目は口ほどに物を言う】、違いない。できることなら、【ついでに耳も】と付け足しておいてほしいものだ。