「一六くんは、恋をしたことはありますか?」
あまりにも急な問いかけに、道後は一旦思考停止した。
こい、鯉、故意、濃い。
恋?
「えっ、ええええええ!? え、あっと、俺はっ!」
「ふふふ、冗談ですよ。そんなに慌てないでください」
「あっ、俺、俺はその…………! って冗談、ですか……なんだ……びっくりした……」
一瞬で沸騰したように、言葉らしくもない言葉を紡ぐ道後に、和倉は読めない顔で微笑んだ。
お茶を一口飲んで口を潤すと、何となく言葉を投げる。
「僕は恋が判らないんです。勿論それらしいことはしたことはありますよ、相手のことを考えて、頭をいっぱいにしている間は間違いなく楽しかったですし。でも失くしても何も悲しくならないんです。相手に恋人がいて、恋が終わった時も、僕は納得してしまうんですよ。ああそうか、良かったねと。失ったところで、ちっとも苦しくならないんです。僕は、」
一度止まってから、小さく零れ落ちたような言葉を付け足した。
「失くして悲しくなるような、恋がしたい」
最後のは、ちょっとした願いだった。何でこんな繰り言を、と反省すると、和倉は「まあ嘘ですけどね」と笑おうとした。
「――俺はっ!」
ガタリ、と席を立つと、道後は真っ直ぐに和倉を見つめた。いつもなら見下ろしている道後に見下ろされ、何やら不思議な気持ちになる。
「俺の恋は、話せるだけで嬉しいし、隣にいれたら幸せだし、考えてたらあっという間に一日終わっちゃうくらい楽しいです! でもって、他の人と楽しそうだと何かもやーってするし、特別扱いしてるの見ると羨ましいし、いなくなっちゃって終わったって思った時は苦しかったです! これが俺のしてる恋です、七緒先輩!」
「……君の恋は、何やら騒がしくて幸せそうですね」
「だから!」
何を言い出したのやらと思いながら、適当にまとめようとすると、道後は大きく息を吸い込んでから、和倉を見つめる大きな瞳に熱を灯した。
「俺と恋、しませんか!」