※事後
一度目が覚めてしまうと、布団が素肌に当たる感覚がちょっと気になってくる。道後は頭を押さえると、やっちゃった、と呟いた。
昨日は珍しく疲れていた。だから、簡単に言ってしまえば、歯止めが全く効かなかったのである。おかしくなる、と啼き叫ぶ声にも耳を貸さず、欲望の赴くままに和倉を抱いてしまった。
ちら、と見下ろした和倉の肩についた噛み痕が、その証拠だ。
とりあえず冷やさないと、とベッドから降りようとすると、「んっ……」と鼻にかかった呻き声がした。
「……い、ちろ、くん?」
「あ、お、お、おはよう、ございます……。あ、あのあのあのっ、七緒先輩っ、昨日はその!」
「どこ、いくんですか……?」
「えっ、あ、えっと、とりあえず、水か冷たいタオル持ってこようかなって……。その、肩のところ、昨日俺が噛んじゃったんで。痕残ったら不味いですし」
謝るよりも先に別の言葉が入ってきてしまい、うっかり謝り損ねた。そうだ、とりあえず、とりあえずそう、冷やさなくては。
改めてベッドから降りようと背を向けると、和倉が絡みついてきた。
「な、七緒先輩っ?」
「……いいですよ、このままで」
「え、よ、良くないですよ! こんな綺麗なのに! 前に俺が犬に噛まれた時太子言ってたんです、こーゆーのはちゃんとしないと一生残る傷になるって!」
「一生、残してくれないんですか?」
「えっ」
する、と腕がお腹から胸元を這って、抱き寄せられた。背中に和倉の滑らかな肌がぴたりと触れると、一気に血が集まってくる。
「だ、だってだってだって……」
「こっち、見てください」
促されるままに振り向くと、和倉がうっとりと微笑んだ。真っ白な肌に、歪な赤が映えている。道後が残した、赤色。
「ふふっ、所有印みたいでしょう。あぁ、所有印って判りますか? 要は、」
頬を滑った指先が、耳をなぞる。和倉は身を乗り出すと、道後の耳へ吐息混じりに囁いた。
「僕は君のモノ、って証です」
反射的に、ごく、と喉が鳴った。意識していなかっただけに、自分の欲深さが恥ずかしくなってくる。これ以上聞いたらダメだと判っているのに、縫いとめられたように体が動かない。さっき反省したばかりなのに、また繰り返してしまいそうだ。
そんな道後の思いなど知らずに、和倉の唇は弧を描く。何もかも投げ出したくなるほど、艶やかに。
「もっともっと、ほしいなぁ?」
――ぶちん、と何かが切れた音がした。
道後は和倉を押し倒すと、足を開かせた。どう見たって不利なのは和倉なのに、随分と余裕そうに、楽しそうに笑っている。いいだろう、その余裕がいつまで持つか試してやる。半ば苦しいだけの暴力的なキスをしてから、お望み通りに肌に食らいつく。できたばかりの窪みが、徐々に赤く色づいていく様にくらくらした。
ゆらり、と誘うように伸ばされた指を絡める。あつい、と思ったが、これが一体どちらの熱なのかは、とうに判らなかった。
目の前の道後が、いつもの優しさも気遣いもかなぐり捨てた獣へ変わっていくのを眺めながら、笑う。和倉の体を貪るその背に腕を回すと、【それ】をなぞった。
――人間、自分の背中を見ることはできない。だから知るはずも、気づくはずもない。
これで君は、僕のモノ。