02.


翌日、朝練と午前中の授業を終えた私達帝国学園サッカー部は雷門との練習試合に向けて軽いミーティングをすべく、部室に集まっていた。
軽い、というのも昨日一通り調べて分かったのだが雷門中サッカー部のデータが圧倒的に少なく、ミーティングのやりようがない為である。

「フォーメーションはいつもと同じ4-4-2。相手は部員数が足りていない様だから、大半が助っ人になるでしょうし注意すべき選手も特にないわ。目的は豪炎寺修也のデータ収集。入部したという情報すらないから、サッカーを辞めている彼をフィールドに立たせてシュートを打たせるのが今回の課題。」

「…総帥は俺達を試しているんだ。豪炎寺をなんとしてでも引きずり出す」

鬼道のその言葉に部員はおう、と返して出発までの間いつものような他愛ない会話を続けている。
__修也を引きずり出すということは雷門中の人達がまた傷ついてしまうのだろう…
焔はいつもの相手を圧倒し、傷付けていくようなサッカーを想像してつい小さくため息を零した。

「どうした?焔、ため息なんて吐いて。」

「…少しでも情報がないかと思って昨晩遅くまで探していたからちょっと疲れたのかも。仕事には支障ないし、気にしないで」

ため息を近くにいた源田に聞かれていたようで、声をかけられてしまった。帝国の皆が影山の指示であのようなサッカーをするのを見たくない、とは言えないのでそれっぽい理由を付けて言葉を返した。彼は焔が嘘を言ったのを気付いているのかいないのか、ふわりと優しい笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。

「俺達の為にいつもありがとな。今日もゴールは割らせないから…ちゃんと見ていてくれ。」

わかったとだけ返しながら、撫でてくれている手のひらに擦り寄る。大きくて温かい手のひらに安心感を覚えると共に、どこか懐かしさを感じる。それはここ一年近く連絡すらとっていない幼馴染に撫でられていた事を思い出させて、少し寂しくなった気がした。


「…お前達人前でイチャイチャするのやめないか?」

一連の流れを見ていたらしい佐久間にそう言われて、源田の撫でてくれていた手が離れる。
私と源田はキョトンとして顔を見合わせてから、そんな事はしてないと答えたのだが佐久間は納得いかない様子。なんて答えるべきだったのだろうかと2人して首を傾げた。
お前は無防備すぎるし源田はそう易々と手を出すな等と叱られる中、辺見達はニヤニヤしているし鬼道は何やら眉間に皺を寄せて頭を抱えている。ハッキリ言ってカオスだ。巷では学校を破壊する等と恐れられている帝国サッカー部も所詮中学生だよなぁ、などと考えながら佐久間の話を聞き流す。「焔、ちゃんと聞いてるか!?」聞き流しているのが何故バレたのか。
そうこうしている内に鬼道が出発の時間だと言って、遠征用のバスに乗り込んだ事でようやく事の収拾がついた。



雷門中に着いてバスを降りる。帝国生がレッドカーペットを敷いた脇にずらりと並び、その間を帝国サッカー部は進んでいく。この登場の仕方は妙に目立つし趣味も良くないだろうにと頭の中でぼやきながら足を進める焔。
考えていても仕方ないので、サッカー部員達の最後に続いてスコアブックとノートパソコンを抱えてグラウンドへ。
鬼道と雷門サッカー部キャプテンである円堂守が挨拶(と言えるのだろうかあれは)を交わしているのを脇目に、スクイズとタオルの準備をする。
雷門中の面々は帝国のデモンストレーションとも言えるようなアップに少々怖気付いている様子。サッカー部には豪炎寺の姿はまだ見えない。帝国が雷門に練習試合を申し込んだとなれば、聡い彼の事だ、自分が目的だとすぐに分かるだろう。そしてきっとどこかで見ているに違いない。…彼はサッカーがまだ好きなはずだから。

「…いた。」

予想通り、彼はグラウンド付近の木からこちらの方を眺めていた。早くフィールドに戻ってきてよね、という思いを込めて彼を見ていると目が合った後俯かれてしまった。
あの日に口論して以来だから、大切な妹を傷付けられて心に傷を負っていた筈の彼に酷い言葉を浴びせてしまったのだから、目も合わせたくないのだろうなと自嘲気味に考えながら目を鬼道達の方へ向けた。列を作って雷門と対峙しているということは…間もなく試合が始まる。雷門のデータが今後必要になるかは分からないが、帝国の能力がどこまで伸びたかは記録を取りたい。
試合開始のホイッスルと同時に、焔は意識を完全にフィールドの方へ向けた。

試合が始まった。
例によっていつものような"一方的"な試合展開。雷門中のサッカー部がどんどん傷ついていくのに対し、余裕の笑みを浮かべる我々帝国。
元陸上部だという風丸一郎太等、何人か鍛えこそすれば良い選手になるであろう人物はいるが本格的にサッカーをやり始めたのが浅すぎるのだろう。手も足も出ていない。
そうこうしているうちに前半戦が終わり、ベンチに対して疲れてもいないだろう選手達が集まってきたのでスクイズの入ったカゴを準備する。汗をかいている様子はない為、タオルは欲しい人だけ持っていくように促す。
未だに出てこない豪炎寺を引きずり出す為にも、後半は必殺技を使っていくという指示が鬼道から出されて、後半戦を始めるべく選手達は各々のポジションについた。