03.


雷門中サッカー部に帝国学園サッカー部が練習試合を申し込んだらしい。
そのニュースはすぐさま学校中を駆け巡り、豪炎寺の耳にも入ってきてた。
サッカーはもうしない、もう俺には関係ない、見るつもりもない…そう思っていた筈なのに豪炎寺の身体は気が付いたらグラウンドの見える木の下まで来ていた。
彼の視界の奥には円堂達が集まっているのが遠目に見える。どうやらギリギリ11人揃ったようで、最低限の人数は確保出来たようだとひとりごちた。もう俺には関係ないのにと思うものの豪炎寺の胸は何故かざわついていた。
そうこうしてるうちに、帝国学園が来たようで装甲車のようなバスから帝国サッカー部が降りてくる。

___そういえば、あいつも帝国学園なんだよな

ふと頭を過ぎるのはサッカーを辞めると誓ったあの日、豪炎寺に辞めるなと引き留めようとしていた幼馴染。誰よりも自分の事を分かってくれていて、一番近くにいてくれたであろう彼女に声を荒らげさせてしまった。滅多に汚い言葉を使わないあいつに"馬鹿"と言わせてしまった。
大好きで大切だった筈の彼女との最後のやり取りを思い出して後悔が募る。

登場する帝国イレブンの最後尾に、スコアブックと見た事のあるパソコンを抱えた緑のジャージ姿の彼女を見つけた。思い返す事はあっても姿を見るのは一年ぶりくらいなのに、その姿は変わっていないように見えて少し安心したような気がする。
スクイズやタオルの準備をする彼女を眺めていたら不意に目が合ったが、どんな顔をすればいいのか分からずにすぐに目を逸らしてしまった。



ホイッスルと共に試合が始まった。
試合、というにはかなり一方的なものだったが。トラップにパス回し、ドリブルやシュートに至るまで何もかもが雷門よりも一回りふた回りも上手だ。雷門イレブンはボールに触れることすら許されず、放たれるシュートはGKの円堂を傷付けていく。
サッカーというにはあまりにも一方的な試合展開に豪炎寺は思わず目を逸らしたくなって、サッカーを愛しているはずの幼馴染へ目を向けた。
彼女は淡々とした表情でスコアブックに書き込みながら試合を眺めていた。
かつて自分のサッカーを観ていてくれた彼女はあんな目をしていただろうか……否、そんな筈は無かったと思い直す。一年前、敵のチームでありながらキラキラとした目で自分のプレーを見守ってくれていた筈だ。彼女も変わってしまったのだろうか?モヤモヤとした気持ちを抱えたまま前半戦が終了した。
前半戦での点数差は10-0。帝国の圧倒的リードで後半戦を迎えた。


「いくぞ、デスゾーン開始だ。」

鬼道の合図により鬼道、寺門、佐久間が上がる。去年のFFの決勝で豪炎寺が戦うはずだった相手の強力なシュート技の体制だ。

「そしてヤツを引きずり出す…!!」

そう言った鬼道はこちらに目をやり、ニヒルな笑みを携えてシュートを放った。放たれたシュートは円堂の顔面に直撃し、彼の身体ごとゴールに入った。
帝国学園が雷門中に練習試合を挑んだのはやはり自分の力量を測る為だと認識させられた豪炎寺は、サッカーはやらないと誓ったことと人を傷付けるサッカーはサッカーじゃない、と思う気持ちで揺れていた。
試合は前半戦とは打って変わって、帝国の必殺技の応酬が続きパフォーマンスの如く雷門イレブンを傷つけていった。
試合は続き17-0。立っているのは円堂ただ一人となり、彼を潰すべくシュートをぶつけ続ける帝国の選手達の猛攻が続く。

「こんなの…こんなのサッカーじゃねぇ!」

そう言って陸上部員の助っ人、風丸が体を張ってシュートを防ごうとした。
自分が思っていた事を代弁してくれたかのような台詞に豪炎寺、そして焔の心が揺れ動いた。しかし風丸の体を張ったブロックを呆気なく破り、無情にもボールはゴールへ吸い込まれた。
そんな風丸の活躍を目の当たりにした円堂は強い意志を瞳に宿し、帝国の必殺技に臆することなくゴールを守るために手を掲げた。
…しかしその行動も虚しくボールはゴールに叩き込まれ、とうとう雷門イレブンで立っているのは目金欠流ただ1人となってしまった。
雷門からのキックオフにも関わらず、余りの恐ろしさに逃げ出す目金。彼が脱ぎ捨てていったユニフォームは何の因果か豪炎寺の目の前に落ちた。
豪炎寺は暫くユニフォームを見つめた後無意識的に帝国学園のベンチに座っている幼馴染に目を移した。
彼女の目はこちらに来いと言わんばかりの強い意志を感じるようなものだった。それは喧嘩して別れたあの日、あなたのサッカーが見たいと言っていた時と同じものだった。
目を閉じれば浮かぶのは最愛の妹と、大切な幼馴染である少女。ゆっくりと目を開ければその黒く鋭い目に迷いはなかった。



脱ぎ捨てられた10番のユニフォームを見に纏いグラウンドに降り立った豪炎寺は円堂を助け起こし、審判の許可を得てピッチの中央に立った。帝国のベンチにいる彼女の方をちらりと見てから真っ直ぐにゴールを見据えて走り出す。
雷門中のゴールには円堂がいる。豪炎寺はきっと彼が止めるだろうと信じてフォローには回らない。
そしてその円堂は眩く輝く必殺技と共に帝国のシュートを止めてボールは豪炎寺の元に。
受け取ったボールは豪炎寺の足に吸い付くかのように離れず、帝国のディフェンスをものともしないままゴール前へ。
炎を纏い、回転するボールはキングオブゴールキーパーと言われた源田に反応を許すことなくこの試合で初めて帝国のゴールネットを揺らした。


____ふと焔の方に視線を移すとそこにはかつて自分のサッカーを妹と共に見守り続けてきた優しい表情を浮かべている大切な幼馴染の姿があった。