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「ありがとう。アイナの事、すごく大切にしてくれて」
「別に、オレがそうしたいだけだって」
「そっか」
「そうだよ」
「でも、ありがとう」
「ハルカも、ありがとな。アイナの親友でいてくれて」
予想外の返しに言葉を失う。目を丸くしたまま三回ほど瞬きを繰り返して、それからハルカは微笑んだ。
「あたしが、アイナを大好きなだけだから」
それじゃぁお互い様かとユーリが笑う。ハルカも笑う。
ふたりはしばらく話を続けた。下町での暮らしぶりをユーリが話せば、次にハルカが幼い頃の思い出を話して、争うみたいにアイナの話を言い合った。普段ユーリとどう過ごしていたのか聞けば聞く程、彼がアイナを心から愛しているのだと感じた。
「(悔しいなんて思うの、もうやめよ)」
こんなにも彼女を愛してくれているなら、離れていた十年の中でユーリがアイナの傍に居てくれてよかったと思わなくては。けれど、ずっと取られているのはやっぱり悔しいから、時々ユーリからアイナを取っちゃおうなんて考えて空を仰いだ。
嗚呼、この世界の夜空は呼吸を忘れる程キレイだ。
近くで話し声が聞こえて、ハルカは目蓋を押し上げた。どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。頭の下に温かくてフサフサした何かがあるのに気付いて起き上がる。見てみると、自分の頭があった辺りにラピードが横になっていた。彼が枕になってくれていたようだ。
「ラピード、ごめんね。重かったでしょ」
「ワフ」
平気だ、とでも言っているようにユラユラと尾を振る。そんなラピードの頭をお礼の意味を込めて撫でているハルカに、おはようと声がかかった。ハルカが間違うはずかない、アイナの声だ。
「アイナ!おはよ。具合、大丈夫?」
「もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。朝ご飯もうすぐ出来るから行こう?」
「うん!」
とても久しぶりに手を繋いで歩く。すぐユーリの背中が見えた。しかも彼の方から味噌の匂いがする。その少し手前の辺りではエステルとカロルが天幕の片付け中だ。こちらに気付いて、わざわざ手を止めてくれた。
「あ、ハルカ。おはよう」
「おはようございます」
「おはよー。エステル、初めての野宿はよく眠れた?」
「はい。思っていたよりぐっすり眠れました。ハルカもよく眠れていたみたいですね」
「あはは、まぁね。ラピード枕が気持ちよかったから」
「でもさ、どうしてハルカは外で寝てたの?」
「あー、なんかね、アイナが心配で眠れなくてさ。そんで不本意ながらユーリとアイナの話しまくっちゃって、知らないうちに寝てたみたい」
「知らないうちにって……」
「なんだか素敵です!」
カロルが呆れた顔をしたのと対照的に、エステルガ目を輝かせる。何がどう素敵なのかハルカにもアイナにも、もちろんカロルにもわからなかった。ちょっとコメントに困っていると「出来たぞー」なんてユーリが言うから、タイミング見計らっていたんじゃないかと少し疑ってしまう。けれど四人揃って返事をすると、パタパタと駆け寄った。
ほれ、と器とおにぎりを差し出される。立ち上る湯気と鼻をくすぐる独特の匂いが、ハルカの顔を緩めた。
「(豚汁、だ)」
円になって座って、いただきますと声が揃う。ハルカはまず豚汁に口を付けた。口の中に広がる味は、ハルカにも覚えがある。
「ねぇ、これ作ったのってもしかしてアイナじゃない?」
右隣に座るアイナを見て問うと、彼女はきょとんとしていた。数回瞬きを繰り返して、それから小さく首を横に振る。
「私じゃなくて、ユーリだよ」
「え!?でもこれ、アイナのお母さんの味にすごく似てるよ?」
「そりゃ、四年も一緒に住んでれば料理の味も似るだろうな」
アイナの隣でユーリが言う。彼はハルカと、それからカロルとエステルの視線を受けながら呑気に自作の豚汁をすすった。
「そういうものなんです?」
「そういうもんなんです」
エステルが訊けば、言葉を真似てユーリが答える。今度はおにぎりに噛り付いていた。
「ユーリとアイナって一緒に住んでるの?」
「あとラピードもな」
「結婚してる訳じゃないのに?」
「する予定、とか言ってみる」
「え!?そうなの!?」
真意を確かめるべく勢いよく首を動かしたカロルがアイナを見る。するとアイナは、食べかけのおにぎりを持ったまま、ちょっと悪戯っぽく笑った。
「ユーリが職に就いてくれたらね」
「ユーリ無職なの?」
「そう。だから生活費は私が稼いでるの」
「ユーリ……それって男としてどうなの」
「さぁ?いいんじゃねぇの」
「えー……」
散々質問したカロルが白い目でユーリを見る。しかし別に気にした様子もなくユーリもアイナも食事を続ける。
すると突然、エステルがクスクスと笑い出した。不思議そうに目を瞬かせながらカロルが問う。
「どうしたの?エステル」
「いえ、ユーリとアイナの食べる順番もタイミングも息がピッタリだったので、つい」
「え?そ、そうだった?」
「やっぱり無意識だったんですね」
ニコニコと楽しそうに笑うエステルと、指摘されて恥ずかしそうに視線を逸らすアイナ。カロルは興味深そうに彼女とユーリを見ながら止めていた食事を再開し、とっくに朝食を終えているラピードは退屈そうに伏せて大きな欠伸をしている。
相変わらずハルカ達の視線を気にした様子もないユーリは、一足先に食事を終えていた。しかも左手でアイナの髪を遊び始める。しかも無言なのに顔だけ緩んでいた。なんだかいちゃついているみたいだ。だってアイナが、頬をほんのり赤く染めて照れているのに、すごく嬉しそうで幸せそうだ。
「(……やっぱ、なんかやだ)」
ユーリばっかりがアイナと絆が深いみたいで、やっぱりずるいとハルカは心底思った。
to be continued...
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ほたるび