03
「ハルカがこちらに来た時に聞いた声に、カプワ・ノールでアイナに重なった声、それに今回アイナの夢で聞こえた声……どれも無関係ではなさそうだな」
「実はヘリオードで会う前に寄った遺跡?で同じような事があって」
ハルカはカプワ・トリムから北西にあったカルボクラムでの出来事を思い出しながら、ひとつずつ説明した。カプワ・トリムを発つ前に墓参りをした事、それからアイナの様子が変だったので戦闘をしていなかった事、紅の傭兵団(ブラッドアライアンス)を追ってそこに辿り着いたものの居たのは魔狩りの剣だった事、フェイタルストライクを初めて見た事。
そして奥に進んで行くと突然カロルと手を繋いで歩いていたアイナが、声をかけても聞こえていない様子で、ひとりで勝手に奥に進もうとした事。
「ユーリが正面に回り込んで肩を掴んでね、怒鳴るみたいに呼んだらやっと止まって返事してくれたんだ。その後、地下で逆結界?とかいうのを見付けてね、そしたらアイナがまた光って、声が重なって聞こえて……それで、なんか変な事を言ってたよ」
「変な事?」
「逆結界の中に大きい魔物が居てさ、それを見ながら、あの子を逆結界などというふざけた物に閉じ込めたから、ここは滅びてしまった……とか、なんとか。その後も何か言ってたけど、ごめん。覚えてないんだ。もしかしたらユーリ達は覚えてるかも知れないけど……その後、逆結界が解けてその大きい魔物と戦う事になって、もう強くって強くって、とにかく必死だったから」
「そうか……わからない事は多いが、まずハルカ達が無事でよかったよ」
「……そうだね」
わからない事が多いどころか、増えていく。それが怖かった。なんだか、アイナを失ってしまいそうで。
けれど並んで立つフレンの存在が、なんだか心強かった。
人が寝静まった夜も深い時間。アイナはラピードと共に宿屋の前に居た。
「遅いね、ラピード」
寝ているラピードにそう声をかけると、彼はほんの少し尾を振って答えてくれる。アイナはいつまでも待つつもりだった。音を殺して出ていった彼が戻ってくるまでは。
夜闇の中から黒い影が浮かんでくる。
「……アイナ、ラピード」
「おかえりなさい、ユーリ」
立ち止まったユーリをアイナがそっと抱き締める。すがるように回された腕に、アイナも抱き締める力を強めた。
彼が何を決め、何をしたのかわかっている。その全てを受け入れるかのように、アイナはただ黙ってユーリを抱き締める。
足元のラピードの目は、開かれていた。
朝が来ると、ハルカはカロルとリタと共に宿屋の前でエステルに別れを告げていた。
ユーリとアイナ、それにラピードは来なかった。アイナは、会っても帰り辛くさせるだけだと苦く笑っていた。会おうと思えばいつでも会えるから、と。
そうかも知れない。エステルにもそう伝えた。けれど、それでもハルカは見送りたかった。
「ここでお別れなんて残念だね、エステル」
「今度、お城に遊びに来てください」
「ガキんちょは、ほんとに行くわよ」
「え、行っちゃダメなの?」
カロルが驚くとリタは呆れた様子でため息を零す。確かに帝国とギルドの間で友好協定は結ばれたそうだ。ギルドの人間も帝都に入り易くなっただろう。けれど早々に浸透していく事ではない。カロルやエステルは大丈夫だと思っているようで、出入りが楽になると思っているようで楽しそうに話しているが、思っている程すぐには無理だろう。
「姫様、そろそろ」
後ろに控えていた評議員のひとりがそう声をかけると、エステルは返事をして、真摯な表情で改めてハルカ達に向き直る。
「ラゴウの件は、私からもお願いしてみます。正当な処罰を下せるように」
「姫様、その事なんですが……えぇと、ラゴウ様は昨夜から行方不明なのです。詳しくはまだわかりません。今も足取りを追っている途中なものでして……」
「どういう事なの……」
「どうせ、びびって逃げたんでしょ。さて、あたしも行こうかな。エアルクレーネってのを、色々調べて回りたいし。調査が済んだら、あたしも、その、帝都に、い、行くから」
照れながらもしっかりそう宣言するリタの前に回り込み、エステルは酷く嬉しそうに、けれど無理やり握手をする。
「はい、楽しみにしています!」
「じゃ、じゃぁね!」
終始顔を真っ赤にして視線を逸らしたまま、リタは走り去ってしまった。出会ったばかりの頃よりいい顔をするようになったな、と温かい気持ちでそれを見送っていると、エステルがハルカとカロルに声をかける。
「ふたりは、これからどうするんです?」
「ボクはギルドを作りたいな……ユーリや、ハルカと一緒に」
「それ、いい考えだと思います」
再度後ろに控える評議員に呼ばれたエステルは、困ったような笑顔で謝って「もう行きます」と言う。また会えるといいね、なんてありきたりな言葉しか、ハルカは言えなかった。
一方でユーリは、未だ宿屋のベッドの上に居た。アイナの膝を枕に寝転がり、目を閉じている。
「エステル、もう行っちゃっただろうね。もしかしたら、リタも」
「そうだな」
「今追えば、まだ間に合うかも知れないけど、どうする?」
「わかってて訊くなよ」
「……うん、ごめんね」
「謝るのもなし」
「はぁい」
目を閉じたままのユーリとそんな風に会話していると突然、外から耳が痛くなるような轟音が響いた。跳び起きたユーリと共にアイナはラピードと並んで宿屋の外に駆け出す。どうやら街の上空に燃えるような赤い突起が特徴的な、巨大な鳥のような魔物が飛び回っているようだった。
突然、外から爆音が鳴り響く。
「カロル!ありゃなんだ?知ってっか?」
「ううん、ボクもあんなの見た事ないよ……あ、降りてくるよ!」
「行こうハルカ、カロル」
「え?あ、待って!」
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ほたるび