CASE3 リンウェル
ダナ人なのにレナ人を憎んでいない、包帯で片目を隠した頭のおかしい妊婦。それが正直な私の第一印象だった。だって、シスロディアに一緒に付いて来るし、レナ人のシオンに嫌な顔ひとつする素振りがないんだもん。狂ってるんじゃないかって思った事も、実はあった。
ジルファやアルフェンに気遣われながら、いつもお腹に片手を添えて後ろを歩いて付いて来る。
戦えないふりして守って貰っている私の隣に居るのに、話しかけても絶対に喋らない。無視して嫌な人だなって、そう思った。
やっとの思いで村に辿り着いたのに、すぐ蛇の目に見付かっちゃって、村の人の近くで戦闘になっちゃったのにジルファが戦おうとしなかった時、その人が隣でほんのちょっと声を漏らした気がした。でもなんて言ったのかまでは、聞き取れなかった。それどころじゃなかったし、私はジルファを連れて行かれたくない一心で、散々父さんと母さんに隠すよう言われてた星霊術を使って。頭の中がぐちゃぐちゃだった。
星霊術使っちゃった、どうしよう、見られた――でも、今は逃げなきゃ。
村から無我夢中で離れて、途中で休憩した小屋に辿り着くとアルフェンが抱きかかえていたその人を降ろしてた。中に入って外を警戒しても誰も追って来なくてひとまず安心したけど、シオンに銃を向けられて。やっぱりさっきの星霊術の事を訊かれて……別に銃を向けられたのが怖かった訳じゃない。それでも私の一族の話をしたのは、アルフェンがいたから。アルフェンなら信じて大丈夫なんじゃないかって思ったのと、ジルファを助けたかったから。それだけだ。だから私はずっと隠していた一族の星霊術を使って一緒に戦うって決めた。
でも、シオンの銃がその人にも向いた時、私は驚いた。レナ人のシオンに向けられるのよりも鋭い目を、私に向けられたから。なんで?どうして自分に銃口を向けてるレナ人じゃなくて私をそんな風に見るの?
「妊婦を連れてはいけないわ。足手まといはいらないの。ここに置いて行く。けど、その前に……あなた、いったい何者?」
答えるために、その人は初めて私達の前ではっきり、しっかり声を出した。
「今教えられるのは、ひとつだけ。私の親はその子と同じダナの魔法使いの一族だった。星霊術を理論的に考えて考察するのが子どもの頃から大好きだった。でも、それが異端だって同胞だけじゃなく親兄弟からも虐待されて、五歳で追放された。はぐれズ―グルの群れの中に放り込まれたって聞いてる……それだけ」
知らなかった。隠れて生活するのはレナがダナを支配するより前からだって、私の一族はレナ人からもダナ人からも虐げられているんだって、そう思ってたのに。私が生まれるより前に、そんな事があったなんて……聞いた事、一度もなかった。当時の事を知ってる人達はみんな口を閉じたのかな。それとも、気にもしてなくて忘れちゃったのかな。私が子どもだから教えてくれなかったのかな。
アルフェンは反対してたけど、本人がもう一緒に行く気がないみたい。
だから私達は、その人を小屋に置いて私達は首府シスロデンへ歩き出す。
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ほたるび