CASE6 テュオハリム
出会ったのが五年前。人柄に惹かれ、愛を乞うようになったのが四年前。妻となってくれたのが二年前――私と妻の過ごした時間だ。私は義両親の話を聞いてから常々、出産には必ず立ち会いたいと願い、妻にもそう言っていた。
義両親はあらゆるものから隠れて生活していた。妻が産まれる時も、義父がたったひとりで義母を助け、支え続けたという。しかし妻と出会った時には既に、義両親はこの世にはいなかった。そのため私は妻が義両親から聞いた話を、彼女の口から聞いただけなのだ。又聞きした知識だけでは不安だった私は出産の立ち会いをするにあたって、何に気を配ればいいのか、何をすればいいのか尋ねて回った事もある。そうする程には、私は義父を尊敬している。私も義父のように、我が子を出産してくれる妻を助け、支えたかった。
しかしメナンシアから妊娠している妻の姿が消え死んだと聞いた半年程前、それは叶わないのだと酷く絶望したのを今でも鮮明に覚えている。それがこのような形で叶う事になろうとは、あの頃の私なら想像も出来なかったであろう。
再会を喜ぶ間もなかった。既に陣痛が始まっていたのだ。私はこの時のために尋ねて回り、集めた知識を総動員して妻の出産を助け、支えた。どれだけの時間がかかろうが関係ないのだ。この瞬間は私の希望だった。
妻はロウの父ジルファと共に、アルフェン達が最後に会ったというシスロディアに居た。シスロディアの解放後、ジルファは妊娠している妻にこれ以上無理をさせないため共に残ったのだそうだ。ジルファは、母子諸共亡き者にしようという計画を知ったミキゥダが妻を託した男だった。ミキゥダは私の妻と子の危機を知り、たったひとりで信頼のおける者の所へ逃がしてくれていたのだ。しかし生きている事を知られては危険と考えたその判断力には、脱帽しひたすら感謝するしかない。
このような時に私の我儘を快く聞いてくれたアルフェン達には、本当に頭が下がる。お陰で私は我が子誕生の瞬間に立ち会う事が出来たのだ。汗に濡れた妻の額を拭い労いつつも、私は涙を止める事が出来なかった。
しかし感動している時間もない。これ以上アルフェン達を待たせ、事態が悪化するのは避けなければならない。名残は惜しいが行かなければ。
「いってらっしゃい、リム」
妻だけの、特別な愛称で私を呼びながら非常に助かる品を託してくれた。義両親が生涯かけて調べ続けた「レナとレネギスとダナの支配や社会の仕組みと矛盾について」がまとめられている手帳だ。義父は私でも噂を聞いた事があるくらい、レネギスに居た頃「神童」と呼ばれる程、頭の切れる人だった。義母も負けず劣らずだと妻が言っていた。神童ふたりが生涯をかけた仮説だ。これは何より信頼出来る。今後重大な助けとなるだろう。
そしてレネギスの禁域にて神童ふたりの仮説の一部が当たっていたのを知った時、私は残っている仮説も当たるであろうと予感していた。だからこそこの手帳は今レネギスに必要であって、最も信頼出来る者に預けなければならないと考えた。そうなれば、心当たりは和解したばかりの古い友人、アバキールとフィアリエの他に居ない。手帳には仮説以外にも今のレネギスに必要になり得るであろう事が様々記されているのだ。私は専門外でよくはわからなかったが、アバキールなら活かしてくれるはずだ。だから私は義両親の手帳をふたりに託したのだ。落ち着いたら妻と生まれたばかりの我が子に会って欲しいという言葉と共に。
「テュオ、お前それは……」
「あなたね、本当にそういう所よ!?」
呆れたような、怒ったようなふたりの反応は未だに解せない。
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ほたるび