U Einladung
玉座の間を後にして、自分にあてがわれた部屋へと向かった。本当は何も言わずにとんずらするつもりだった。あんな状況で、しかもいろいろな国の人がいる場所で自分がこれから不利になることを口走るとは思わなかった。私はカッとしてしまったのだ。自身が非力なことを認めず、ただ傲慢に他人に縋り、自分の手柄とするような横暴さ。大嫌いだ。人間の屑だ。気がつけばもうこの国から出て行くという宣言をしてしまっていた。言うつもりなんてなかったのに。むしろ、宣言したのなんて初めてだ。自分は馬鹿か。さっさと荷物をまとめ、ここを出なくては。あーあ。大きくため息をついて、部屋を出た。あの場にいた偉そうな異国の物は誰だったのだろうか。もし自分が次に潜りこむ国の者だったら私の命はそこで尽きるのだろう。
出国するならそう、裏からだなあ。そう考えながら背に背負った荷物を抱え直す。かれこれもう5年ほど調べ物をする旅をしていた。そのおかげでもぐりだった部分はだいぶ無くなったが、調べ物は全くと言っていいほど収穫なしだ。まず魔法とか意味のわからないものがある時点で、今までの知識が通じるところじゃないことは痛感していた。迷宮ってなんだ。金属器ってなんだ。魔導師ってなんだ。そんなの、そんなの、デタラメ人間万国ビックリショーじゃないか。意味も理屈もさっぱりだ。勉強するにも魔法なんてものは日常にあるものじゃないらしく全くもって謎だった。旅の途中に魔導師とやらに会えればよかったのだが、今まで行った小国にはいなかったのだ。魔法とやらはどんなものなのか、それすらもわからない私はまだまだ世間知らずだった。
「おや、貴方は…。エンプティ、でよかったかな?」
考え事をしていたせいだろうか、相手に気がつかないなんて迂闊だった。いや、私はそこまで落ちぶれていないはずだ。この男達が、それなりの人物だということだ。彼らは先ほど玉座の間にいたもの達だった。
「ええ、いかにも。」
「君はこの国の者じゃあないね。何者だ?この城で何をしていた?」
「私は王に雇われた、そうですね、便利屋とでも名乗っておきましょうか。」
「ほう、それはそれは、こんなお嬢さんが便利屋ね。」
「非力だと思っていたら、痛い目を見ますよ。」
「それは恐ろしい。ああ、そういえばアブマドが言っていたね。君には特別な力があると。」
そういって彼はニコリと美しく微笑んだ。そう、美しすぎるほどだった。夜色の髪を靡かせながらこちらへゆっくりと歩み寄ってくるその姿はまるで舞台俳優のようだ。彼の家臣たちはその後ろで注意深くこちらの様子を伺っていた。彼の服装、そして家臣たちの様子からして、彼はどこかの国の重役か、もしくは王。これは大物がかかったのかもしれないと心の中でほくそ笑んだ。
「ええ、それはとびきり特別な力を。」
そういってニコリとこちらも笑みを浮かべれば、彼はベールの上から私の頬を撫でた。その動きはゆっくりとベールを払いのけようとするので、そっと彼の手を取りひざまずいた。
「是非とも、その力を俺に見せてはくれないだろうか。」
「…貴方が私の望みを叶えてくれるのであれば。」
そういって、私は彼の手を額に押し付けた。