たまたま立ち寄ったコンビニで、お目当てのスイーツを見つけたなまえはコーヒーとそれを丁度二人分買い、行きつけであるゲームセンターシャルルへと向かっていた。まさか今日になってようやく買えるとは思っていなかった為、なまえはどことなく嬉しそうに見える。一つは自分、もう一つは行き先であるシャルルのあの人にだ。見た目、本職共にヤクザなのだが、意外と親身に接してくれる彼に日頃の感謝も込めて、二人分。
早く食べたい気持ちをぐっと堪え、なまえはゲームコーナーシャルルと書かれた古めかしい看板の掲げられたビルへと入っていった。ピンクと水色のレトロなネオン照明がチカチカと点滅する入口の階段を降り、見慣れたガラス扉に手をかける。どうやら今は無人のようで、念の為にカウンター後ろのドアを開けてみれば、一人の驚いた声が聞こえてきた。
「お、お前、何勝手に入ろうとしてんだ」
「姿が見当たらないから、いないのかなって思って」
「……あのなぁ、ここは気軽に遊びに来て良いところじゃねぇんだぞ」
「でも、ここってゲームセンターですよね?」
「ゲームセンターのバックルームに入って良い店なんかあるわけねぇだろ」
「あ、確かに」
「来ちまったもんはしょうがねえ。こっち来い」
「はーい」
東の大きなため息を聞きながら、なまえはバックルームに上がらせてもらい、近くの椅子に落ち着く。東は手にしていた煙草を灰皿に預け、席を立つとスタッフが使用している冷蔵庫の前で立ち止まった。
「あ、お構いなく」
「うるせえ、客は客だ」
悪態をついてはいるものの、しっかりと対応しようとしてくれるあたり、やはり人が良いのだろう。なまえも早速、買ってきたスイーツの話を伝えようとしたのだが、それよりも先に東が持ってきた物に驚いてしまって話し出せなかった。
「ほらよ」
「え、これって……」
東がテーブルに置いたのは、なまえがコンビニで買ってきたスイーツと全く同じものだった。え?え?と混乱しているなまえに、東は怪訝そうな顔で再びソファーに腰掛けていた。
「お前言ってたろ、『それ』がどこもかしこも売り切れで食えてねえって」
「た、確かに前にそんなこと言いましたけど……」
「なんだよ、もっと喜べよ。あんなにぎゃあぎゃあ騒いでただろが」
「わざわざこれだけの為にコンビニ行ってくれたんですか……?」
「違ぇよ。たまたま煙草が切れてたんで、そのついでに買っといたんだ」
東の言い分になまえは頬が熱くなっていくのを感じた。その言い分におかしなところは一つもない。だが、なまえは気付いてしまった。恐らく東が買いに行ったコンビニは、なまえが今日立ち寄ったのと同じ場所だろう。そのコンビニでは、レジカウンターとスイーツが並んでいる棚は真逆の位置にある。つまり、東は煙草を買いに行く前にスイーツの棚を見てくれたのではないだろうか。そう思うと、自分の頬が熱くなるのは自然なことだった。
「ありがとうございます。いただきます」
「なんか飲むか?」
「あ、それなら買ってきてるので……!」
その袋か。と東の向けた視線に、どきりとする。自分も同じものを買ってきていることが知られたら彼に悪いと思い、胸の内にそっと抱き抱える。
「み、見ないでください」
「ああ?何言ってんだ、お前」
「とにかく見ないでください」
「そう言われると逆効果だろ」
「いや、でも、私の言う通りにしてください」
そうかよ。と吐き捨てた東は、不意にバックルームの入口を見やると、あ、八神。と口にした。意外な人の名を聞き、なまえもつられて同様に視線を向けたが、その先にあるのは開いてもいないドアだった。状況を理解するよりも早く胸の内の袋が引き抜かれ、反射的に視線を戻した頃には遅く。東は袋の中身をまじまじと見ては眉間に皺を寄せている。
「お前、これどうした」
「……買ってきました。二人で食べようと思って」
「ご丁寧に俺の分までか?」
「その、日頃からお世話になってるので……」
例えそれなりに親しい間柄であっても、本職のヤクザに凄まれれば怖い。東が何も言わず、こちらをじっと見ている時間が辛い。そして大きなため息を吐き、袋から缶コーヒーを二つ、自分の手元にはなまえの買ってきたスイーツを一つ置いた。そして、また冷蔵庫まで歩いていくと残りの分をしまい込み、戻ってくる。
「あ、あの、」
「……ったく、変な気ィ遣いやがって」
「だって、折角食べるなら東さんと一緒が良いって思って」
「馬鹿、誰がそこまで言えっつった」
通りすがりに頭を小突かれたものの、どこか満更でもなさそうな顔をしているから、よければ一緒に食べませんか?とダメ元で聞いてみれば、わかったよ。とぶっきらぼうに返されて安堵する。内心、断られたらどうしようと脅えていたのだ。彼の面倒見の良い性格を知っているのに、ふとそんな不安を抱いていた。だから、だろうか。
「そんな嬉しそうな顔すんじゃねえ」
自分の顔が思っている以上に緩んでしまったことを知らなかった。そして、そんな自分を見る東の顔も照れ臭そうに見えてしまって、心が満たされていく感覚がした。それはじんわりとほのかに温かくなっていく感覚、そのものだった。
「東さんも本当は嬉しかったりして」
「追い出すぞ、コラ」
「ああっ、ごめんなさい……!」
冗談を交えながら二人は手元にあるそれがなくなるまで他愛もない話をしながら過ごしていった。決して豪華で今どきなゲームセンターではなく、寧ろ店の人間も強面で近寄り難い筈なのに、不思議とここに来たくなるのだ。だから、明日もまたここへやって来るだろう。面倒くさそうに構ってくれる彼の元へ。
「つーか、買ってくるなら買ってくるで何か言え」
「でも、わたし東さんの番号知らないですよ」
「なに、ちゃっかり電話しようとしてんだ。こちとら、ヤクザだぞ」
「なら、メッセージの方が良いですか?」
「いや、いい。次からここにかけろ」
「これは?」
「ここの番号だよ。大抵は店に居るからな」
「わかりました」
なまえがシャルルの番号を通じて東に連絡をとるものの、やはり面倒だの何だのと最終的にメッセージでやり取りをすることになるのは、もう少し後の話。余談だが、バックルームの冷蔵庫にあるスイーツを食べに、なまえは明日もここへやって来る予定だ。今度こそ、ぴったり二人分になるよう、コンビニに立ち寄ってから。
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