「はあ?お前ら、それマジで言ってんのか」

 大きな溜め息が目の前で逃げて行った。場所は八神探偵事務所、つまりはいつもの場所だ。しかし、そんな『いつもの場所』に何故東が居るのかと言うと、彼は兄貴分である海藤に用があったらしく、ここを尋ねてきたらしい。だが、不在と知り、引き返そうとする東を止めたのは八神で、あの話を持ちかけたのは杉浦である。

「え?どういうこと?」
「東、なんか知ってんの?」
「知ってるも何も、松金組にいた頃からあの人は兄貴に首ったけだった」
「あの海藤さんに?!」
「そりゃあ、兄貴にだって良いところの一つくらいはあるだろうが」
「そうかな、相手はヤクザでしょ……?」

 大体な、そんな心配いらねぇんだよ。あの人に。と言い切る東に二人は前のめりになって話を聞く。

「たかだか最近のヤツだろ?そんな風貌のヤツ、百人集めたところであの人は靡かねえよ」
「だから、なんで東がそんなこと知ってんの」
「うん。海藤さんの弟分だったとは言え、ちょっと詳しすぎない?怖いくらいだよ」
「馬鹿、変なこと考えんな」

 俺ぁ、あの人の相談役だったんだよ。どうしてもって泣きついてくるから、ほっとけなかった。と東はカラーレンズの奥の目を閉ざした。その様子に八神と杉浦は東の良い人オーラが隠し切れていないと互いを見やる。

「いいか、これは兄貴には言うなよ。あの人にとっちゃ、兄貴は完璧な理想の男だ」
「え?!」
「うそ!?」
「顔もタイプ、見た目も良い、性格も悪くない。なんなら、ちょっと可愛いとすら言ってた人だ。今どきのヤツになんか興味ねえよ」

 東によって明かされた彼女の秘密に二人は唖然としていた。あのような、正に極道という人間を可愛いと認識しているとは想像しておらず、走った衝撃がまだ抜け切らない。もしやと思い、海藤について聞いてみれば、これまた衝撃的なことを東が明かす。

「兄貴?そりゃあ、兄貴もベタ惚れだったさ。目に入れても痛くねえって感じで」
「だった、ってヤクザ時代から?」
「当時から、兄貴はあの子はいい子だって言ってた」
「ねぇ、海藤さんの恋バナもっと聞きたいんだけど」
「おい、杉浦」
「僕、こういう話好きなんだよね。こう、初々しい感じっていうか、好きなんだけどもどかしい感じとか」
「お前、もう面白がってね?」

 もっともっととせがむ杉浦、それを面倒そうな顔であしらっている東、ちゃっかり他にも聞き出そうと画策する八神。これは海藤が八神の計らいによって早々に帰らされた後の話である。



| 帰宅後の八神探偵事務所にて |


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