二回戦の相手は武術を嗜む猛者のチームだった。真島となまえは一方的に攻められ、苦戦していたが、なまえが決死の覚悟で相手に飛び込んで行き、捨て身で相手の防御を崩したのである。なまえが隠し持っていたのは、威力を最小限に抑えた手榴弾で、それは特別なルートで手に入れた特注品だと言う。なまえが組織から追われ、自身のアジトから真島組の事務所に転がり込む前に個人で接触を図ったのは、とある武器商の兄弟だった。裏社会で名の通った二人との接触はある程度のリスクを孕んでいたが、顧客の一人であったなまえの動向は伏せるとして、二人はなまえの望む武器を用意すると、連絡先を添えて協力の意を示してくれた。
上山兄弟特注の手榴弾は、見た目の破壊力で相手の不意を突いたが、実際は拍子抜けするほどの軽い威力だった。しかし、その一瞬の不意を突いたことで、真島が攻撃を決め込む為の隙が生まれ、なまえは真島の動向に注意しながら二人の足止めに徹していた。中華包丁を手にした一人には高い火力を誇る改造ライターによる包丁の熱源化および当該武器の破棄を。リーチのある棍棒の使い手には、相手の扱う武器の長さ故に中々距離を詰められずにいた。警棒で一撃を凌ぐに手一杯で戦況は不利のままだったが、ここでなまえが一つ閃く。それは真島が相手の一人を撃破したのを目にし、なまえは再び相手目掛けて駆け出す。
その身に一撃を数発食らいながらも警棒で攻撃をいなせば、目前に敵の姿がある。長物の特性として、リーチが長いと相手との距離が保てるが、いざ近くまで詰められると扱いが困難になる。棍棒の攻撃の肝はリーチを活かした薙ぎ払いだった。だが、今はなまえに詰められ、その長さが活かせない状況になってしまった。そして、次になまえがとった行動は警棒を捨て、素手で棍棒の動きを封じることだった。敵の攻撃の手が止まった瞬間、なまえは真島に呼び掛ける。すると、真島はなまえから手渡されていた金属バットを振り下ろし、相手の持ち手へ直撃させる。痛みに棍棒から手が離れたのを機に、真島による猛攻が始まった。かつて、その手捌きを習ったかのように金属バットをまるでヌンチャクのように軽快に扱う姿は鮮やかという一言に尽きる。
それからは一方的な戦いとなり、相手二人はどちらも戦闘不能、なまえと真島は勝利を手にする。こうして二人は苦戦を強いられたものの、二回戦を突破し、決勝戦である三回戦へと進んでいく。決勝戦は観客を大いに賑わわせる対戦相手が待ち構えていた。それは人型の機械で、何でもとある博士が試験体として闘技場に送り込んだロボットらしく、二人は予測不可能な攻撃に翻弄されることとなる。対戦用ロボットということもあり、ボディの耐久性は生身の人間と比べて並々ならぬ強度を誇り、プログラムされた戦闘データを元に二人に襲い掛かる。
「ちょ、ちょっと、こんなの聞いてないわ……!」
「まさか、ロボットと戦わされるとはなァ」
「悪趣味なもの送り込んできて、一体何なのよ!」
「ぎゃあぎゃあ喚いてもしゃあないで。やるしかないんや、俺らは」
真島の一言に、なまえは神妙な顔で頷く。そして、先程の戦いの傷が癒えていない肉体で、もう一度覚悟を決める。それは勝利を手にする為の絶対条件だった。
「……多分、私じゃあ倒せない。組長さん頼りよ」
「なんや、今更やないか」
「でも、さっきみたいに相手の気を逸らしたり、邪魔したりは出来る」
「それがロボット相手も効くかどうかは博打や」
「ええ、そうよ。それに私の手数もそんなに多くない。だから、組長さんお願いね」
「何考えとるか知らんが、ここに立っとるのはどっちかだけでええっちゅうことや」
「なら、立たせてくれる?私のこと」
「おう、なんぼでも立たせたるわ」
それ以上は交わさず、互いの知らぬ間にこさえた傷を抱えて二人は再び背中を預けるように戦いに身を投じる。硬い装甲に何度も一撃を弾かれ、プログラムされた定型の戦い方が厄介で仕方がない。生身の人間ならば、不意の反撃に備えて攻撃のモーションを中断するところを、相手はテンプレートのまま押し通してくるのだ。ロボット相手に戦闘のリズムを崩すことはおろか、戦闘不能に追い込むまでのダメージを与えられないでいた。なまえの持ち込んだ武器は相手の一撃を凌ぐのに摩耗し、真島は勝利の糸口を探りながら攻める手を止めない。だが、一向に防御姿勢から脱却出来ないでいると、先に限界を迎えたのがなまえだった。
小さな悲鳴と共に強い一撃を叩き込まれたのか、容易に吹き飛ばされた体が闘技場の柵に打ち付けられる。二人の間には黒い破片が散らばっており、愛用していた警棒が摩耗の末に折れたことを知るが、真島はその場を離れることは出来なかった。仮に真島がなまえの傍に駆け寄ろうものなら、二対一の構図が出来上がり、この戦いは敗北を迎えて終わるだろう。視界の片隅で地に伏せるなまえの姿を捉えながら、状況を打破するべく思考を働かせる。しかし、来たるべき天啓は訪れず。その一瞬に手痛い攻撃を食らい、真島は大きくよろけた。
「……お、お姉ちゃんは、」
敗北が姿を現す。これ以上は無理だと諦観を覗く寸前、闘技場の檻の中に奇怪な音が響き渡る。それはなまえが吹き飛ばされた方向から聞こえ、闘技場の観客達の視線が全てそこへ集中する。そして、敗北を悟るよりも先に真島が見たのは、轟々と燃え盛る火柱の煌めきを手にしたなまえの姿だった。火炎放射器のように強烈な炎を吐き出すライターの持ち手にはスタンガンが括り付けられており、常時電源が入っているからか、バチバチと火花が四方へ飛び散っている。
なまえが手にした即席超強力改造ライターの限度を越えた高熱の炎によって、ロボットの頭部が焼き焦げていくのが見えた。どろどろと溶けていく装甲の一部から中枢部と思われる機構が覗き、挙動のおかしくなったロボットを蹴り倒したなまえはそのまま頭部の全てを焼き尽くしていく。敗北が真隣で舌打ちをする、終わらせられなかった戦いに勝利の糸口を掴んだ真島は、食らった一撃の重さを忘れ、残り一体となった相手と対峙する。
「面白くなってきたやないか、なァ!?」
口が裂けんばかりに口角を吊り上げた真島がいやらしく響く大きな笑い声を上げれば、なまえも共鳴して大きく口元を歪ませて笑う。既に事切れた機体を蹴り捨て、火炎放射器相当のライターを手に真島の元へと駆け出す。なまえが駆け出したのと同時に真島はロボットに捨て身でタックルを仕掛ける。そして、もつれ込むように倒れた狂犬は機械の両足にしがみつくと、その時を待つ。フリルの可憐なドレスはすっかり激しい戦いに傷んでしまい、スリットのように裂けたスカートからすらりとした足を覗かせる。突き刺さるほどのヒールが機体の胴体に荒々しく添えられ、後は燃やし尽くすだけだった。
それが終わる頃、闘技場一帯に高温の熱気が漂っていた。今にも肌を焦がすような、炎と同等の熱が体に纏わりつき、決して冷めやらぬ。沈黙の後には大歓声が二人を、三回にも渡る激闘を制した勝者を称えている。なまえは張り詰めた緊張感が解かれ、その場に座り込む。体のあちこちが痛いと愚痴を零せば、自身に差し出された手に気付く。見上げれば、自身と変わらず傷だらけの真島の姿があり、……立たせてくれるの?と問えば、言うたやないか。と返され、なまえは満更でもない顔でその手を取り、暫くは数多の歓声をその身に浴び続けていた。