煌びやかな宝石の散りばめられたネックレスやブレスレット、ゴールドやプラチナと言った素材のリングもピアスも何もかもが、目の前にある艶やかな木目調のローテーブルに並べられていた。部屋の隅から隅までド派手な作りのミニドレスが数多く並べられ、その近くにはいくつもの箱が重ねられており、中には女物であるパンプスやヒールと言ったものが入っていた。


 ここは一体何処だっただろうか、確かなまえが呼び出しを貰ったのは真島組の事務所だったはず。隣に居る西田に連れられて来たばかりだと言うのに、ここが事務所の一室だとは思えなかった。黒い革張りのソファーにもたれ掛かるように腰を落ち着けている人物は、何度もうんうん唸っては頭を抱えている様だった。
 この瞬間、西田となまえはお互いに目を見合わせる、真島はまた何かを仕出かすだろうと直感的にそう思えた。西田は無表情に近い顔で一回頷いた、"あとは姐さんにお任せします。"と言っているような気がする。なまえも同様の顔で頭を横に振った、"帰らせて下さい。"と訴える。それに反対する様に西田も頭を横に振る、更にそれに反対する様になまえもまた頭を横に振った。埒が明かないと思ったのだろう、西田は先に人の形をしたパンドラの箱に手を掛けた。


「親父、みょうじさん連れて来ました。」

 前のめりに体を丸めていた真島は待ってましたとばかりに、ソファーから立ち上がってすぐに振り返り、待っとったでぇ〜!と大きく両手を広げ、こちらへと近付いてくる。おう、もうええで。と真島に告げられた西田は安堵の表情を浮べていた。なまえの方をちらりと見れば、また一度だけ頷き、"それじゃあ、親父を頼んます。"と申し訳なさを顔に貼り付けて出て行ってしまった。
 …やられた、と閉め切られた扉を呆然と見つめていると、 突っ立っ取らんとこっち来んかい、と腕を引かれ、あの黒いソファーに座らされたなまえは不安で仕方なかった。

「…あの、今日は一体どうしたんでしょうか、」
「おぉ!そや、今ちょ〜っとおもろいこと考えとってなァ。」
「おもろい、ことですか、」
「せや、そんでみょうじちゃんに協力して貰お思て、西田に連れて来させたんや。」
「それで、何をお手伝いすればいいんでしょうか?」

「俺を可愛くしてくれや、」


 至って真面目な顔で貫く視線が痛い。目と眉の位置も近く、珍しくきりっとした雰囲気が漂い始める。口も真一文字にきつく結ばれ、ああ、この人は本当にそう思っているんだ、と説得させられるくらいに真剣味を帯びていた。しかし、なまえはその場の空気と真島の口にした言葉の相性の悪さに訳が分からなかった。

「…真島さん、可愛くなりたいんですか?」
「そらもう、神室町一のべっぴんさんにならなあかんのや。せやから、みょうじちゃんを呼んだんやないか。」

 なぞなぞの謎が更に複雑になり、どうしてそこで自分が呼び出されたのか、とか、私がどうやって真島さんを可愛くするのか、とか疑問符の増殖が止まらない。

「まァ、つまりは、や。俺には可愛い言うんがわからん。せやけど、俺は可愛いキャバ嬢にならなあかん。そこで、可愛いのわかるみょうじちゃんに助けて貰おうっちゅう訳や。」

 これでええか、わかったか?と長く重たい腕がなまえの肩を抱き、真島の方へと体を引き寄せた。なまえはこくりと頷き、至近距離で笑う真島の笑みに不安を抱くしかなかった。そして、早速ドレスアップや!と気合十分な真島と席を立ち、ギラギラと目に痛い程の派手なドレスの前に並んで足を止める。
 この数を揃えるのに一体いくらのお金と人員を割いたのかなどと言う疑問は聞かない事にする。ハンガーに着せられているのはどれも露出の激しいものばかりだった。胸元が大きく開いたもの、元々のスカート丈が短いのに更にスリットが入っているもの、肩紐などが無く首から胸元まで肌が広く見えるものと中々攻撃的なドレスのラインナップになっている。


「ちなみにですけど、ここにあるのって誰が選んだんでしょう、」
「そりゃあ、もちろん俺や。自分で着るんやから、ええもん選ばな。」
「まあ、そうですよね。でも、ちょっと露出が…、」
「何言うてんねん、みょうじちゃんは全然分かっとらんわ、」
「はあ…、」
「男言うんは単純や、下心丸出しの奴も多い。せやから、大胆な露出で心を鷲掴みにすんねや。」

 なるほど…、苦しい相槌を打つと、今んとこはめっちゃ大事な事やから覚えとき、テストに出るで!と念を押されたが、真島さん的には大胆な露出が良いんだ、と服装選びの為に覚えておく。大胆な露出、なまえは試しに目の前にあるドレスを手に取ってみる。
 肩から胸元までの斜めのラインが特徴的なワンショルダータイプのドレスだった。体のラインを強調するように細身、フリルなどの装飾は無いシンプルな作りで、色は強気な深みのある赤。どうですか?と真島に問い掛けると、ちょい待ち、となまえの手からハンガーごと奪って部屋から出て行ってしまった。なんとなく、嫌な予感がする。



 真島が部屋を出て、数分程してから戻って来た。扉の向こうから、なまえの選んだ赤を纏った真島は微妙そうな顔をしている。なまえもその妙な格好に複雑な表情で佇んでいる。

「…みょうじちゃん、なんやこれ、めっちゃ首回り窮屈で着られへんわ。それにきつくてあかん、次や。」
「でも、きついのによく着れましたね、」
「おう。意地で着てみたら、後ろの縫い目ほつれてもうたわ、」

 ほれ、とくるりと回って後ろ姿を見せてもらうと、ほつれると言うレベルでは無く、最早深いスリットの様にスカートの布地が裂けていた。その裂け目の痛々しさに嘆きつつも次のドレスを物色する。

「もっとボンキュッボンのヤツがええのう、一撃必殺みたいなヤツや!」
「大胆な露出、ですもんね、」

 せや、と頷く赤い真島を横目に、色彩の波を掻き分けていくと、なまえは一つのドレスの前で手を止めた。カチャリとハンガーが鳴り、今度はなまえが自身に当てがいながら、そのドレスを吟味する。それは肩紐などが元々付属していないストラップレスタイプのドレスだった。肩紐が無いお陰で胸元がすっきりとしていて広い、ふっくらとしたシルエットのスカートが可愛らしく、黄色の布地に緑のストライプが走っている。再び真島に問い掛ける、よっしゃ、着替えや!と手を伸ばす。今度こそ、べっぴんさんやで〜!と意気揚々に部屋を出て行った。



 今度は黄色の真島が姿を現した。左右にふんわりと揺れるスカートの可愛さに目を奪われる。だが、真島はまたもや微妙と言うような顔をしていた。今度は控えめだった刺青が、それこそ大胆に露出しており、それはそれでまずいのでは、と不穏な疑問が浮かんでくる。ふんわりスカートを揺らし、真島はなまえの前に立つ。

「これはちょっとあざとい感じや、それにこのふわふわしとんのがうざったくて嫌やな。もっと肉々しい感じのヤツ頼むわ、」
「これは私が気に入ってるんですけどね、そのふわふわが可愛くて、」
「なら、みょうじちゃんも着たらええ。なんなら、俺が着させたってもええんやで、」
「だ、大丈夫です、次行きましょう!」

 みょうじちゃんはこう言うんが好きなんやなァ、と自分のスカートを指先で摘み、ひらひらと左右に裾を靡かせている。やっぱりあの服は可愛い、と内心呟きながら、三度目の色彩に手を潜らせた。

「さっきも言うたけど、肉々しいヤツや!」
「はい!…大胆な露出、と、肉々しい感じ、」


 真島の注文に頭を悩ませていると、なまえは不意に色彩を漁る手を止めた。急に頭が冴え渡る感覚、運命めいたものを感じて、引き寄せられた指先はハンガーを引き抜く。目の前に出されたのは、先程と同じストラップレスタイプのドレス。しかし、赤のドレスのように体のラインを強調し、黄色のドレスのように胸元や首回りも開放的、そして何よりその目を貫くような鋭いピンクに、なまえはこれだ、と確信を持つ。
 『大胆な露出』、それに見合うだけでなく、着脱用に設けられた胸元から下に伸びるファスナーと腰回りに巻かれたベルト、それらが真島の言う『肉々しい』に上手く当て嵌った。今回はなまえが声を掛けるよりも先に、真島が声を掛けてきた。

「お、それええやないか、」
「真島さんもですか、私もそう思ってこれを取ったんです。」
「貸してみい、ちょっくら着替えてくるわ、」

 はい、いってらっしゃい、となまえも見送る。その表情は、あまり乗り気では無かったドレス選びを楽しんでいるようだった。見送った背中が扉に遮られるまで、なまえは真島を見ていた。がっしりとした筋肉質の体に、それは派手に描かれた刺青を隠しもせず、目的の為に可愛いドレスを探しては着替えての繰り返し。
 なまえは一度きりの大きな溜息を吐いた。何かに夢中な真島の為なら出来る限り手伝ってあげたい、そう踏ん切りを付けるべく、なまえはそうして見せた。嬉しそうに駆け寄り、お気に入りのドレス姿を見せて早く欲しいと、なまえは佇むのをやめてソファーに腰を下ろした。



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