何度も目の前でくるくると自分の姿を確認している真島は機嫌が良さそうだった。いつの間にか姿見なんて持って来ちゃって、気が済むまでその鏡の前に立ち続けるつもりなのだろう。なまえもあのドレス以外、真島のお気に入りになるようなものは他に無いだろうと思っていたし、上機嫌な真島を見ている内に、あれを選んで良かったと妙な満足感を感じていた。

「ドレスはそれで良さそうですね、」
「せやな、動きやすい上に体にぴったりや。見てみい、こんなに胸元開いとったら、どんな相手も俺に釘付け間違いなしやでぇ〜!」
「きっと噂になるかもしれませんね…、」
「でもアレやなァ、インパクトに欠けるっちゅうか、」

 顎に手を置き、眉間に皺を寄せる。何か足りんのや、と呟くピンク色の真島をぼんやりと眺めていて、ふと思う。左目に携えられた眼帯、毛先の切りそろえられた短髪、桜に紛れた蛇と背中に宿る般若。いつもの服装ならば、そこに革のパンツとプレートが鈍く光る尖った爪先の靴、革手袋を嵌め、パイソンジャケットを羽織っている。確かのこの服装のインパクトは中々忘れられず、一度でも見掛けてしまえば、この町で真島を探すのに苦労はしない。それと同様のインパクト、一体どこへ。

「何が足りないんですかね…。」
「何やろな…、にしても、このままやとすぐに破れてしまいそうやから、特注モンを作ってもらわな。」
「オーダーメイドだったら、真島さんの希望通りに作って貰えますね。模様を追加したり、フリルとかの装飾を足してもらえたり、」
「…それや!みょうじちゃん、それやで!」

 はい?と首を傾げると、ええか、と真島は眼光を鋭くして、その閃きを話し始めた。

「せやねん、オーダーメイドや。俺が着るんなら、もっと丈夫で頑丈な作りにしてもらわなあかん。そうは言うても普通のドレスじゃあおもろない、そんなら俺だけのドレスを作ったるんや!」

 更に真島は言葉を続ける。どうやらその目に可愛くなった自分の完成像が見えているようだ。

「あかんなァ、そない完璧なドレス着てもうたら…、世の男達が黙っとらんでぇ!」

 色気ムンムンのボンキュッボンや!と声高々に意気込む真島を傍目に見つつ、その嬉しそうな声音になまえは笑みを零した。脱力するほどに突飛な事を口走っているから面白いのか、単に嬉しそうにしている真島を微笑ましいと思ってしまうからか。大きく零れた笑みを隠そうとはせず、そのままの表情でドレスの次に決めるものを探していた。



 ベースとなるドレスは決まり、残るは靴とアクセサリー、髪型に化粧だろうか。アクセサリーや髪型、化粧は後にするとして、次に決めるべきものは足元を彩る靴だ。先程、箱の中身を覗いてみたが、ヒール靴ばかりが取り置きされていた。ドレスとハイヒールと言ったら最強の組み合わせであり、よっぽど奇妙なものを選ばない限り、似合わないという事は無い。
 まずは何足か履いてもらおうと無造作に積まれた箱から、中身を抜き取って行く。真島をソファーに座らせ、胸元に抱えた靴達を順に並べる。それらは真島に合わせてあるのか、どれも大きいサイズのものになっている。

「とりあえず適当に何足か持って来ました、まずは履いてみてください。」

 おう、と返事もそこそこに、なまえは再び箱の山に近寄って行く。箱を開けては中身を確認し、真島のドレスに合うものを選別しながら、また次の箱を開ける。包み紙から双子の片割れを取り出す、『大胆な露出』と『肉々しい感じ』を忘れず、且つ余計な装飾を好まないという事も踏まえて、少しずつ箱の山を切り崩していった。その山が小さくなり、左右に分散された所でなまえは意外なものを見つける。それは女性がヒールを履くのに必要なもので、ついでに抱えてなまえは真島の元へと戻って行く。


「真島さん、あとこれも履いてください。」
「…なんや、そのやたらとうっすい布は、」

 ああ、これですか、と抱えた内の一枚を手に取り、真島の膝下へそっと置いた。武骨な手がその薄い編地のそれに触れる、どう扱っていいのか分からない指先が困っている様に見えた。

「ストッキングです。素足でヒールを履くのは抵抗がありますからね、他にもタイツとかありますよ。」
「これ履かなあかん言うんか、」
「真島さんを更に可愛く、する為なので…。それにストッキングとか履いてると足が綺麗に見えたりするんです。」
「せやったら、こう言うんやのうて、別々なヤツがええわ。」

 例えばこう言うのや、と真島はなまえの胸元に抱えた布の中から一つ、二つと手に取っていく。それはパンストのように一体化したものでは無く、左右別々に履くタイプのストッキングだった。

「こっちの方がすぐに履けるやろ、…それに股んとこがもぞもぞするっちゅうのも、なんか嫌やからなぁ、」
「…その方が良いかもしれないですね。それで、ドレスに合わせるようなら、ガーターベルトがあると更に肉々しい感じに、」
「ガーターベルト…?…もしかして、あのめっちゃやらしい感じのヤツか!」

 突然真島は体を前のめりにさせ、男らしい座り方で大きく足を広げていた。少し見苦しいが、あまり意識せずになまえは会話を続けた。

「やらしい感じって言ったらあれですけど…。でも、ちょっとセクシーな感じになりますよね。」
「それもあかんわ。あないやらしいもん着けとったら…、」

 あかん、これ以上は言われへん、秘密や!と頭を横に振る。一体何を考えていたのかはある程度察しがつくが、時折こちらをちらちらと盗み見るあの視線はいただけない。

「そこまでえっちな感じにせんでええ。せやな、こいつとかでもええで、」


 次に真島が手にしたのは、ストッキングより更に薄い、と言うより、布の面積がほぼ無いに等しいものだった。黒の線と線が斜めに交差して続いていく、太股から爪先までその交差した線で包むそれは。

「あ、網タイツ、ですか、」
「せや、こっちの方が抜群にイカしとるわ。」
「…それも過激な感じしますけどね、」
「俺はこれくらい尖っとる方がええねん。」

 はあ、と相槌を一つ置いておく。真島の選ぶものはどこかしら尖っていると言うか、癖が強いと言うか。

「じゃあ、それにしましょう。靴の方はどうなりました?他の持って来ますか?」
「もうええ、コイツに決めたんや。」

 真島の爪先はドレスと同じ色合いのハイヒールに包まれていた。即決されたピンクの爪先に、なまえは驚きながらも一度頷く。

「よく似合ってます、これなら網タイツ履いても可愛い感じになりますよ。真島さん、すごい!」
「せやろ、俺もばっちり決める時は決めれんねん。みょうじちゃん、見直したやろ?」
「ええ、早く網タイツも履いてみてください…!」

 待っとれ、と得意気な表情でヒールを床に二つ転がし、膝を立てる姿になまえは急いで後ろを向く。なまえの突然的な行動に、真島は何しとんねん、となまえの背中に投げ付けたが、いいえ、お構いなく!となまえは背中越しに返事する。さっきからたまにやってくる際どい場面は一体何なんだと、頭から見苦しい光景を振り落とす。もう大丈夫ですか?と背中越しの会話が再び。背後から聞こえた、ええで、の言葉に恐る恐る振り返る。


 視線は足元から、真島の選んだピンクのヒールに包まれた爪先は太股の辺りまで網目模様が続き、そこから先はあの艶やかな目に痛いピンクのドレスがあった。全体的に筋肉質なせいか、やはり線の一つ一つが太めになっていたが、決して似合わない訳ではなく、寧ろそれがいい味を出しているような気がして、なまえは多少なりとも興奮していた。

「…どや、みょうじちゃん。俺、ええ女になっとるか、」
「な、なりかけてます…!いい感じですよ、真島さん!」
「おっ、みょうじちゃんも興奮しとるみたいやのぉ!俺も張り合いっちゅうもんが出てきたでぇ!」
「じゃあ、どんどん次のもの決めちゃいましょう!」

 まるで酒に酔っているかのような妙な興奮に、なまえは浮かれていたのかもしれない。嫌々だった心境もいつの間にか、どんどん乗り気になっていたようで、なまえは真島とこんな時間を過ごしているのが楽しくなった。要するに慣れと、その中に一匙分の感動に似た興奮があれば、誰でも盛り上がることが出来るのかもしれない。
 なまえは正直なところ、着せ替え人形のように姿が変わっていく真島を見ているのが純粋に楽しかった。だから、目の前でそれっぽく足を組み替えた真島にどきりとしたのも、この雰囲気に呑まれたからだとなまえはそう思った。



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