なまえと真島はその体を同じように伸ばしていた。ソファーの背もたれに体を思い切り預けて、一気に脱力する。残るは髪型とアクセサリーだけなのだが、真島の提案で一旦休憩を挟む事になったのだ。背伸びの気持ち良さに微睡みは長く続かない、なまえは大きな一息を吐く。

「にしても、どうして急に、」
「お、まだ話しとらんかったか。サプライズや、桐生ちゃんの度肝抜いたんねや。」
「桐生さん絡みになってくると、真島さんも頑張りますよね。」
「そらそやろ、こっちは喧嘩したくてウズウズしとんねん。」
「桐生さんも大変そうですけど、真島さんも色々と仕込まなきゃいけないから大変ですね。」

 せやねん、と自然と肩に腕を回す真島に引き寄せられる。

「今回はみょうじちゃんだけが頼りや。最後までよろしく頼むで。」
「そこまで言ってくれるなら、もう断れないですし…。私としても可愛くなった真島さんの姿見たいですから、」
「せやったら、一番に見せたるわ。…サービスもしたるでぇ、」

 怪しく顔を綻ばせる真島に随分久しぶりに嫌な予感が走った。ありがとうございます、と交わし、真島となまえの間に自分の腕を潜り込ませ、真島の胸板をそっと押す。


「なんや、さっきからみょうじちゃんは逃げ腰やなァ?」
「そ、そうですかね、全然そんなつもり無いんですけどね…、」
「…ま、ええわ、まだやる事も残っとる。せやから、今は見逃しとこか。」

 あまりにも近いピンクに目が痛くなる、こちらを見つめる視線の意味も分かっている。なまえは予想出来る近い未来に気が重くなるのを感じていた。真島を出し抜く術など持っていない、上手く逃げられるだろうか。暗雲立ち込める思考を振り払い、選別の再開を真島に問う。合意が得られたなまえは、真島の揃えられた毛先に手を伸ばした。
 次に決めるべきは髪型、真島の場合はウィッグを被らなければならないだろう。切り揃えられたいつもの髪型を眺めていると、突然何かを思い出したかのように真島が声を上げた。


「…すっかり忘れとったわ!ええもん用意しとったんや!」

 ちぃと待っとってや。と言い残し、真島はピンク色のまま、部屋を飛び出して行った。真島の言う『ええもん』に小さな疑問符が浮かぶ。部屋を飛び出した真島がすぐに戻ってくるのを騒がしい足音が教えてくれる。次第に大きくなる足音を待って数秒、勢い良く扉が開いた。背もたれ越しに振り向く、すると、そこには。

「お待ちかねの金髪美女、ゴロ美ちゃんの登場や〜!」

 色味の強い金のポニーテールが揺らす真島の姿があった。毛量たっぷりめの金髪には前髪が作られており、眉上と絶妙な長さを保っている。ヒールを鳴らしながら、思わせぶりに腰を揺らしながら、こちらへと歩いてくる真島に目が離せない。背もたれを挟んで、なまえと真島はお互いを見つめている。片方はその姿にどきどきしながら、もう片方はその視線に心地良さを覚えながら。自信に満ちた瞳はなまえを映す、控えめな瞳は真島を映す。

「ま、真島さん、その髪は…、」
「似合う思てな、買うてきたんや。」
「…ええ、とっても、お似合いです、」

 確かに髪型についてもどんなものにしようかと悩み、考えてはいたが、まさか金髪で来るとは思わなかった。しかし、その金髪のお陰で真島の格好に一つの纏まりが出来ており、妙にしっくりとくる。統一感、多分この組み合わせでなければいけない、なまえの中で何かが完結した気がした。

「あっつい視線、感じるのぉ、」
「…これで、これで行きましょう!あとはアクセサリーを少し選んだら、もうばっちりです!」
「ほな、さっさと次のもん、決めたろやないか。」

 はい!となまえはソファーから降りると、真島の手を引き、再びソファーに腰を下ろす。先に身を乗り出したのはなまえではなく、真島の方だった。なまえはと言えば、金髪になった真島の姿をずっと見つめている。瞳がきらきらと光っている、真島はその視線が少し照れ臭く感じていた。


「…選ぼ言うたんやから、みょうじちゃんもはよ選ばんかい、」
「ごめんなさい、ここまでちゃんとした格好をされると、その、」
「なんやねん、」
「すごく気になっちゃって、」
「そんなんやったら、後でたっぷり見せたる。それでええやろ、」

 こくりと頭を縦に振る、素直さが垣間見える表情のなまえを見つめ返す真島がアクセサリーに手を伸ばす。ローテーブルの上に並べられているのはシルバーやプラチナよりもゴールドの比率が高いものばかりだった。深くも淡くも光る宝石をあしらった指輪やネックレス、ピアスにイヤリング。

「服装が派手なので、シンプルなもので良いかと思いますけど…。何かあります?」
「せやな、ピアスは着けられへんわ。穴開いとらんのや。」
「じゃあ、イヤリングにしましょう。」

 まずはシンプルなイヤリング。『シンプル』と言うのだから、過度な装飾のものは避けるとして、真島が手にしたのはフープ、トライアングル、ドロップの三種類だった。なまえはそれを受け取り、片方を真島の綺麗な耳朶に宛てがい、真島の反応を伺いながら、たった一つを選んで行く。フープは曲線が作る、他のアイテムとの馴染みの良さ、トライアングルはその直線がシンプル且つクール、ドロップは直線と曲線が混ざったバランスの良さ、各々がそれぞれの特色を持ち合わせている。

「俺はこの三角のがええと思うんやけど、なんや、色味が合わん気がしとんねん、」
「そうですね、出来れば近い、似てる雰囲気のものがいいかもしれません。」
「じゃあ、コイツはナシや。その代わりにコイツに決めたで。」

 真島が差し出してきたのはフープで、なまえはそれを受け取ると、失礼します、とイヤリングの金具を緩め、きつく締め付けないように耳朶を挟み込む。そして、反対も同じようにイヤリングを着けると、遠目からおかしくないか確認する。真島にも鏡を見るように促す、頷く真島を確認するとなまえは次を尋ねる。


 次はシンプルなネックレス。これもイヤリングと同様に控えめな、けれど、胸元をほんの少しだけ彩ってくれるくらいの装飾のものが良い。なまえはちらりと真島の胸元を見る、そこにはいつも愛用している喜平ネックレスがぶら下がっていた。真島はそれに気付いておらず、なまえは自然とその手を首筋へと寄せて行く。指の先が首に触れると、真島はそこで意識を自分のネックレスに向けたようで、取らなあかんな、と呟いた。
 じゃあ、取ってあげます。と今度はなまえの方から体を寄せ、ネックレスの留め具を探る。お目当ての箇所を見つけたようで、両手の指先は優しく留め具に指を掛けた。

 ぎらりと鋭く光るネックレスを手のひらの上に丁寧に寝かせ、どうぞ。と真島に手渡す。真島は何も言わずにそれを受け取ったかと思えば、また当ててくれや。と真島の選んだネックレスを手渡してきた。
 渡されたのは二種類、どちらも細めのチェーンではあるものの、ペンダントトップが異なっている。一つはドロップカットの施されたストーンが数点並ぶもの、もう一つは大ぶりなハートの形を模したもの。
 なまえはどちらも一度は真島の胸元に宛がった。しかし、実際に重ねてみるとイメージ通りにいかないものもあり、真島はあっさりとハートのものを取り止めた。広い胸元に重ねたネックレスはストーンが光を反射していて、きらきらと光っている。耳元と胸元が煌びやかになり始めた真島の手首が少し寂しそうで、なまえは近くにあった細いゴールドを二つ、その腕に通した。


「ええな、これ、」
「手元が寂しそうだったので、つい、」
「…今日はこんくらいにしとこか、俺も疲れてもうたわ、」
「真島さんがそう言うなら、」

 お疲れさん、よう働いてくれたのぉ、そう囁く真島の顔は穏やかで、リップの引かれた唇が柔らかく歪む。いつの間にか目に痛かったピンクに慣れてしまって、なまえはその違和感すらも忘れたように笑っている。

「もっとこっち寄らんかい、」
「あ、真島さん、引っ張らないで、くださ…、」

 腕を引かれてぐらついた体を、真島は自然に自分の腕の中へと収めた。目の前は暗いピンク、硬い感触と慎ましい鼓動が聞こえ、なまえはここでようやく自分の居場所に気付く。見上げた胸元には、なまえが真島と選んだネックレスのストーンがきらりと輝いていた。



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