ぱちり、重なる視線にきらきらと星が零れる。じわじわと体温が上がり、口元は微笑みに緩んだ。どこからか甘い香りが漂う、そんな二人きりの部屋で金髪の彼女と黒髪の彼女はたっぷりめのスキンシップに手や足を絡ませている。際どい所でさえ、躊躇わずに手のひらで、指先で、頬で、口で触れていく。
触れるという行為で愛おしさを表現している、お互いに愛で、慈しむような関係が二人にとっては心地良い。黒髪を撫でる、金髪は時折さらさらと揺れる。彼女の隣は居心地が良い、そう思うのはどちらも同じだった。
「ふふ、真島さん、くすぐったいです、」
「ええやないの。なまえちゃんがあまりにも綺麗に髪伸ばすもんやから、つい触りたくなってのぉ、」
「それなら、真島さんも髪伸ばしてみたらどうです、」
「俺も随分昔に髪伸ばしとったが、今じゃそないな気ィになれん。」
せやから、余計にな、となまえの髪の間をショッキングピンクの指先が流れていく。なまえは真島に自身の髪を預け、視線は手元にある一口大のチョコレートへ。包みのビニールを剥がし、その中身を口に運ぶ。口内に運ばれたチョコレートは温かな舌に触れると、その温かさに少しずつ溶ける。甘くて美味しい、口の中がどこもまったりとした甘味に包まれて、一口大の幸せに次へと伸ばす手を止められない。
「なまえちゃんは甘いもんで出来とるんちゃうか、って思う時があんねん。」
次から次へとチョコレートの包みを剥がす姿を見た真島は黒髪を撫でるのを止め、今度はなまえの隣へと移動すると、その顔を覗き込んでいた。なまえは真島を目で追いはせず、黙々と手元にあるチョコレートを一つずつ口に含ませる。
「何個食うてもまだ足りひんって顔しとる。ホンマによう食うわ、」
「真島さんもおひとつ食べますか?」
「ほんなら、一つだけもらおか。なまえちゃん、ええ?」
「もちろんです。」
丁寧に剥いたチョコレートを真島のピンクに縁取られた唇に近づけていく。かぷっと歯を立てられていた、横たわる三日月のようににっこりと口角の上がった口元からは真島の歯が見える。
なまえの指を嬉しそうに甘噛みする真島の表情に見惚れていると、いややわ、何見惚れとんねん、とこれまた嬉しそうに笑う真島がいた。歯を立てられていた指は一旦真島の口元から離れ、添えるように握る真島の手の中にあった。痛くはないが、鈍い感触だけが指先に残ってしまい、なまえはそこに意識を集中させる。
「多分、なまえちゃんは食うたらあまいんやろなァ、」
「そんなことないですよ。私からしたらゴロ美さんの格好をした真島さんの方が甘くておいしそうです。」
「俺のは甘ったるそうやないか、」
「しつこいぐらいが良いんです。真島さんは、」
「…なら、食うてみるか?」
この俺を、と怖い笑顔を見せる真島に、なまえは微笑みながら、そのピンクの縁取りに自分のそれを重ねた。ちゅう、と吸い付いてはそっと離れていく唇に余韻は残らない。キスをし終えた後に漂う、熱っぽい雰囲気と惹かれ合うかのような潤んだ視線、瞳は艶やかに光る。
たった一回のキスだけでは満足出来ないと不満に思う彼女がいた、それは勿論。なまえは真島に軽く腕を取られ、前のめりになるとにやついた口元の真島に二度目を与えられた。そしてそのまま後ろに倒れるように二人は寝そべった、真島は上、なまえは下。吐息を千切る、肌の表面を微かに撫でてはすぐ消える吐息に体は甘く痺れ、芯が次第に熱を帯びていく。長く持たないキスは唇のみに留まらず、頬や首筋、鎖骨や乳房などなまえの体にも一つずつ落とされた。
「なまえちゃんはどこも柔らかくてたまらんなァ、」
「真島さんのえっち、」
「なあに言うとんねん。ウチ、知っとるんやで?なまえちゃんはこういうお姉ちゃんがタイプやってこと、」
「…違います、」
「今更、隠さんでもええやないの、ウチとなまえちゃんの仲やろが、」
既に密着している状況だと言うのに、真島は筋肉質で鮮やかな胸元を更にぐいぐいと押し付けてなまえの胸元を圧迫させる。あっという間になまえの懐に入り込んだ真島は、ピンクの指先をその胸元でくるくると円を描くように滑らせ、様子を窺っていた。触ってもええ?と上目遣いの瞳がなまえの弱い所を掴んで放さず、なまえは身を委ねるように首を縦に振った。
女性らしくないゴツゴツとした指が胸に蓄えられた膨らみに触れる。むにゅっと、やんわり掴んでみたり、頬を寄せ、谷間に耳を当てて目を閉じたり、好き勝手に弄ばれているのだが、これが結構悪くなく、なまえは自身の心音を聞く真島にとても落ち着いていた。
「ちょっと大きなったとちゃうんか、」
「そうでしょうか、…自分じゃあまりわからないです。」
「ウチも大きくしたろか思うわ、」
「どうして真島さんが?」
「せやから、なまえちゃんが好きやからやないか。ほんで、好きやろ?お胸の大きい子。」
「ですから、違います。まあ、見てていいなあって思いますけど、」
ホンマか?それ、と眉間に皺を寄せ、不機嫌そうな顔をしてみせる真島になまえは顔を背けながら、ぽつりと呟く。
「わたしは女の子が好きなんじゃなくて、まるで女の子みたいなゴロ美さんが好きなんです、」
なまえの言葉に真島は目をぱちくりとさせ、あまりにも距離の近すぎる告白に頬を赤く染めていた。もしかしたら、今日は一段と頬のチークが濃いだけなのかもしれないが。それにしては嬉しそうに口を歪める真島にもう一度とねだられ、だめです、と返す。いけずやなァ、と口で言う割に嬉しそうな顔は変わらない。なまえは自分の言った言葉に自ら頬を染める、つい言い過ぎてしまった、と。
力む唇を噤み、彼女といると自分が甘くなってしまうと目を伏せ、溜息を逃した。その瞬間を狙っていたのか、再び柔らかな感触を唇に感じる。開いた瞳の先には勝ち気そうに笑う真島のメイクの乗った顔があり、なまえは静かに真島の背中に腕を回し、般若を撫でた。
どうしてか、ゴロ美の格好をしてなまえとキスをすれば、不思議と癒され、満たされたような感覚に陥る。女性的な感覚であった、まるで甘いお菓子を食べている時のような幸せによく似ている。
イチゴジャムの心臓、マシュマロの体、チョコレートのキス。その心臓は果肉、煮詰められたそれは赤くどろどろと充血していて、体中を流れていく。熱くて赤いそれを丁寧に包み込んでいるのは、程よい肉付きの柔らかな肉体で、人の形をしたソフトキャンディは仄かに甘く香る。一度口づけを交わせばチョコレートの余韻に甘く蕩けた。
「なまえちゃんはホンマに甘いもんで出来とるんやろか、」
「…ふふ。だったら、どうしますか、」
「どんなに甘ったるくても食べてしまいそうや、なまえちゃんならきっと胸焼けせぇへん。」
今度はなまえの手を取り、かぷりとその手の薬指を食む。何度も甘噛みを繰り返すゴロ美は相変わらず上目遣いで、見上げるピンク色の視線にされるがままだった。
「ねぇ、なまえちゃん。わがまま言うてええ?」
「わたしに出来ることなら、」
「何もそない難しいことちゃう、ただ、」
ウチは自分が手ぇつけたもん、取られんのが嫌なんや、知っとるやろ?と再びなまえの薬指に唇を寄せると、今度は食むではなく、そのまま薄ピンクのそれをゆっくりと押し当てる。
「せやから、指輪見に行こうやないの。なまえちゃんによう似合う、とびきり可愛ええやつ。」
指輪、という言葉になまえは驚いていた。今まで一度も考えなかった訳では無いが、まさかそれが真島…、ゴロ美の口から聞けるとは思っていなかったのだ。可愛いおねだりだと思えば、同時に素朴な喜びが込み上げてくる。
「で、返事はどないすんねん。」
「も、勿論…!行きます…!」
「なぁ、なまえちゃん、」
「はい…!」
「分かっとる?…こないなこと、滅多に言われへんって、」
なまえちゃんとおると、俺まで甘なってまうんやろか、と呟く真島の唇は温かな色のリップに染まっている。それがどうしても欲しくて、美味しそうで、なまえは真島に何度目かわからないキスをねだっていた。
「そないにウチとキスするんがええんか?なまえちゃん。」
「真島さんこそ。これでもう何回目です?」
目と目が合う、じとついた視線が二人を深く引き寄せ合い、雰囲気は湿り気を帯びる。先にナイフとフォークを手にしたのはゴロ美ではない、真島だった。
「…なまえちゃん、ちょっとだけ食べさせてや、」
「少しだけでいいんですか…?」
ちゃうな、全部食ったるわ、そう聞こえた次の瞬間にフォークは突き立てられる。ショッキングピンクの指先は躊躇わず、甘い体のケーキフィルムを剥がすだろう。なまえが口にしていたチョコレートのビニールのように、衣服は呆気なく剥かれていく。
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