「結構、皆浮かれてんじゃん」
神室町を彩るオレンジと紫、黒に白のハロウィンの色彩を眺めて辻は呟く。実は内心どきりとした。浮かれている、それは自分も例外ではない。辻くんは?と訊ねてみれば、俺〜?どっちだと思う?と逆に質問されてしまい、答えに詰まる。へらへらとした笑いで、何を考えているのか掴ませない不敵な黒目に、混乱の星が頭上に回る。
「はい、残念、時間切れ〜。それじゃあ、罰ゲームいってみよ〜」
罰ゲームという不穏な単語に辻は笑う。やはり、あの不敵な笑みで。顔に垂れた髪の束がさらり、と揺れる。怖さ半分、興味半分。
「お菓子ちょうだい。飴でもチョコでもマシュマロでも何でもいいよ〜」
頭上の星がポロッと落ちていく。まさか辻から、そんな可愛いお願いが聞けるとは。笑みが溢れる。彼にも可愛いところがあり、やっぱりハロウィンの日にはお菓子を欲しくなるのだと。その一方で、一人置き去りにされている辻はただいま思考中と言うように黙ったまま、こちらを見ており、何故だか嫌な予感がする。
「やっぱり変更。俺の前でコスプレして。ドンキ行けば、衣装の一つや二つ、腐るほどあるからさ」
突然、内容の変わった罰ゲームに笑みが止む。目を丸くして絶句している様子に、辻は先程と違って愉しそうだ。
「折角コスプレするんだったら、ちょっとえっちなやつでよろしく〜。ナースのゾンビとか、俺結構好きなんだよね〜」
相変わらずへらへらとした笑いで、こちらの出方を窺っている辻に、好きなお菓子を聞いてみたものの、ナースのゾンビ、と逃げ道を塞がれる。じゃあ、早速ドンキへゴー、と腕を引かれ、二人はハロウィンに浮き立つ人混みの中、中道通りへと向かうのだった。
***
「意外とカワイイのばっか」
「魔女にナース、ポリス?にボロボロの服、悪魔……?かな、この黒いの」
「しっかし、こんなにあると迷うね〜」
「しかも、どれも露出高いんですけど」
今の二人にとってタイムリーなハロウィンコーナーには、男女それぞれに合ったコスプレ衣装や有名なホラー映画の登場人物を模したマスク、血糊と言った小道具も幅広く取り揃えられていた。辻は既にお菓子の詰め合わせの大袋を抱えており、残すところは罰ゲームの衣装決めだけだった。辻はナースが良いと言っていたものの、いざ実際に種類の豊富な衣装達を目の当たりにしてしまうと、つい目移りしてしまうものだ。
「辻くん、……また今度にしない?」
「来年は来年で着てもらいたいのあるから」
「なんで着る前提なの」
「だから、ちゃっちゃと決めちゃって」
「う〜〜〜ん、」
「往生際が悪いよ」
辻の一言についに決心したのか、あまり気の進まない指先に引っ掛けたのは、スタンダードな白のナース服。そして次に選んだのは。
「あ、そっち選んじゃう感じ?」
「え?どう考えても、これには白のストッキングでしょ?」
「白は白でも俺はこっち」
辻が手にしたのは薄手の白い網タイツだった。確かに同じ白ではあるが、辻の選んだものはそれなりに抵抗があった。罰ゲームでナース服を着るというだけでも気が向かないのに、更にそのようなチョイスをされては。
「……こ、これだけは譲れないからね、」
こちらの一言を最後に、辻は少しの間黙り込み、自分の手にある網タイツと白のストッキングを交互に見つめては何かを閃いたようで。
「じゃあ、どっちも買えばよくない?」
えっ。と呆気に取られていると、手早くナースの衣装とストッキングを取られ、我先にとレジカウンターへと向かっていく、ほつれたセーターの背中を目で追うことしか出来なかった。しかし、このまますんなり買い物を終えてはいけないと、すぐに後を追ったものの、辻の手にぶら下げられた黄色の袋を見て肩を落とす。もう既に会計は済んでいるのだと。
「まあまあ、お菓子も買っておいたから」
「どーせ、辻くんが自分とこで食べるお菓子でしょ」
「あ、ばれた?」
「ほらね」
「さっすが、よくわかってる〜」
だって、飴ちゃん飛び出てるよ。と持ち手の隙間からその一本を抜き取ると、憂い気な手つきでその包装を剥がし、口に咥える。からり、からり、と飴玉が歯に当たる音を聞きながら、やや甘ったるいソーダ味が口の中に広がって行った。
「一個ちょうだい」
「その為に買ったんだけどな、」
「さっき本音聞いたばっかだよ」
「余計なこと言わなきゃよかった」
最初からそうだって言ってたら、変わってたと思うよ。と辻の方を見れば、辻の驚いた顔と口元の小さく光るピアスが目についた。やっぱり楽しいね、と続ければ、まあね。とニヤついた笑みを一つ。きっとこうなるって分かってたから、浮かれてたんだね。と同意を求めるように呟く。すると、そりゃあ浮かれたくもなるでしょ。と思い描いていたよりも優しげな同意が返ってきて、今日のようなイベント事がある日には二人一緒に浮かれてしまった方が何倍も楽しいのだと知った。甘ったるい飴玉のソーダ味がやけに心地よく溶けていくばかりで、肝心のこの後のことなんてどうでもよくなってしまうのだった。
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