キラキラ、パチパチと光が弾ける。火薬の匂いが漂い、その光で照らし出された表情は花火の眩しさに、花火の楽しさに、密かに上がるテンションを隠し切れない。燃え尽きてしまった手持ち花火は水の張られたバケツに沈む。

「綺麗だね、やっぱり夏って言ったら花火でしょ」

 嬉しそうに手持ち花火に火をつける品田に、そうだね、と返す。二人は今、品田の家であるプレハブ小屋の前で花火を楽しんでいた。コンビニでビール缶を二つ、花火の詰め合わせを一つ、それだけを買い込んで二人きりの花火を楽しんでいる。
 腰はプレハブ小屋前の段差に落ち着かせ、袋に入れっぱなしの汗をかいたアルミ缶を手に取り、ぷしゅっといい音を鳴らしながらプルタブを引っ張った。そして、一口、二口と缶を傾ければ、妙に夏らしさというものを感じてしまって、良い気分だった。口に広がる苦味と炭酸に舌が痺れ、込み上げる爽快感に身を震わせる。おいしい、と呟けば、先に抜け駆けした姿を見ている男が一人。

「あ!もう飲んでる!俺にも声掛けてくれればいいのに」

 品田は燃え尽きた花火をバケツへ放り投げると、駆け足でこちらへとやって来る。ちょっぴり不満そうな顔に、持っていたビール缶を差し出して、飲む?と聞けば、飲む、とそれを受け取り、喉仏を上下させながら気持ち良さそうに流し込んでいく。
 薄暗がりのビルの屋上でじわっと汗ばむ夏を堪能する。空調の効いた部屋で毎年恒例の心霊番組を見てもいい、近くで開かれるお祭りに顔を出してもいい、賑わう花火大会の人混みに紛れてもいい、こうして最低限のお金で楽しむ夏があってもいい。

「……やべ、うまかったから、つい飲み切っちゃった、」

 え?!とその場から立ち上がり、品田の手からやけに軽くなってしまっただろうアルミ缶を預かる。微かに横に振れば、ぴちゃぴちゃと僅かにしか残っていないビールが揺れた。

「俺の半分あげるから、ね?……え?だめ?」

 顔の前で両手を合わせ、ごめんね、と口にする品田を不機嫌そうな目で見つめれば、や、やっぱり全部あげる、と弱気になった瞳で見つめ返された。そこからはどれだけ機嫌が悪いかとか、ビールを飲み切られたことだとか、どうでも良くて。半分こしよう、と空っぽの缶をビニール袋に戻し、汗をかいてばかりの最後の一本取り出そうとすれば、待って、と品田にその手を止められた。疑問に首を傾げる。

「ああ、えっと、あのさ、」

 もしかして、半分じゃ足りない?と聞けば、そうじゃなくてさ、と歯切れの悪い言葉ばかりを並べていく。何か言いたそうなのは分かるが、何を言いたいのかまでは分からず、疑問符ばかりが頭上で揺れている。

「俺、やっぱりいらないや。だから、全部あげる代わりにまたこうやって俺と一緒に居てくれる?」

 品田の言葉に小さく火花が散った。胸の奥を微かに照らす、その小さな光に夏の匂いを嗅ぎ取る。派手に勢いづいた花火とは違い、小さく密やかに熱く散っていく線香花火によく似た感情が芽生え、この人はずるい人だ、と思ったのが正直な所である。

「…む、無理強いじゃないよ!来年の夏も空いてれば、の話で、」

 急に取り繕うような言葉を並べ始めた辺りで、品田は自身の手持ち無沙汰が気になったのか、妙な勢いのまま、隣に腰を落ち着かせると、未だソワソワとしていて落ち着きがない。困った顔をしているのか、真剣な顔をしているのか、わからない表情を一瞬で変えてみたくて、ビニール袋に伸ばしたままの手を引っ込め、今度は品田のごわごわとして黒々とした髪をくしゃくしゃに撫でた。
 それはまるで大型犬を撫でる手つきそのもの。驚きに目を丸くしている品田はまるで大型犬そのもの。コンビニ行って、ビールのおかわり買ってこようか、と持ち掛ければ、内巻き気味の前髪から覗く切なそうだった瞳に火花が散る。

「いいの…?!マジで……?!」

 一人で飲んでてもつまらないから、と言い終える前に品田に手を引かれ、夏の夜風の中を踊るように軽やかな足取りで攫われていく。そして、彼が不意にこぼした、来年の夏もこうやって一緒に遊べたらいいよね、の言葉に、遊ぶだけでいいの?と夏らしく大胆な言葉を返して、視線を重ねてみれば不思議なことにもう一度火花が散った。二人の胸に宿る小さな閃光はまだ消えそうにない。



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