「親父、例のブツがたった今入ってきました」
「おう、俺んとこまで持って来いや。中身の確認せなあかん」

 はい。と言い残し、真島組の一員である西田はその場を後にした。先日、長年に渡って着手してきた神室町ヒルズ計画を完遂した真島組は次の新たなシノギについて考えを巡らせる日々を過ごしてきた。そして組長である真島が閃いたのは神室町全域、いや、日本全土に多大な影響を与えるであろう、とある物品の販売だった。

「これが例のブツです」

 西田はその手にダンボールを持っていた。ガムテープで執拗に封のされた、ぱんぱんに膨らんだダンボールが一箱。真島は口端を持ち上げると、自分の目の前に置かれたダンボール箱のガムテープを剥がしていく。ビリビリに破れたガムテープが床に散らばっていき、真島のガムテープを毟る手が止まる頃、お目当てのそれが真島の望み通りにダンボールいっぱいに詰め込まれていた。それは袋に入った白い粉のようなものだった。

「ええやないかァ〜!俺はこれを待っとったんや!」
「親父、これを使ってどうするつもりなんです?これが本当にいいシノギになるんですか?」
「西田!お前はホンマに分かっとらん!俺がええシノギになる言うたら、ええシノギになんねん!」
「はあ……、」
「ま、ええわ。そんで、どれくらいウチに入ったんや」
「五〇〇グラムで一袋、ダンボール一箱に三十袋ほど入って、ウチにはダンボールが五十ほど来てます」
「仰山仕入れとんな。ちなみに売買ルートはどこや」
「ウチが独自で見つけたバイヤーです。ソイツはこういった粉もんの扱いに長けてるヤツで、今回の売買には協力的でした」
「せやったら、今後もソイツんとこで買うことになりそうやな」
「ええ。…でも、親父」
「なんやねん、さっきからうじうじと」
「本当に大丈夫なんです、よね?」
「あったりまえやないかい。西田、お前神室町ヒルズん時の忘れたんか?最初は右も左も分からんかった俺らが、今じゃ神室町のミレニアムタワーに次ぐシンボルを造り上げたんやないか!」

 いつまでもうじうじしとらんと、さっさと次の準備に取り掛かれや!と真島の怒鳴り声を背に西田は部屋を後にした。真島は自分の目の前にある白い粉を見つめると、にやりと口元を歪ませた。

 それから真島組に大きな動きがあったのは、白い粉を仕入れてから三日後の事だった。東京神室町、劇場前通りにある広場に真島組構成員の姿があった。そこには見慣れないキッチンカーが数台止まっており、近くに置かれたのぼりにはデカデカとタピオカミルクティー始めました!と印字されている。

「親父ィ、これ本当にええシノギなんですか?」
「せや、今に見とれ南。これを飲んだヤツのクチコミでタピオカミルクティーブームに火がついて、ウチの店にアホほど客が舞い込んでくるんや」
「せやけど、開店してからまだ客の一人も来とらんやないですか、」
「やっぱり俺達には無理だったんじゃ…、」
「何弱気な事言うとんねん!弱音吐いとる暇があんなら、さっさと死ぬ気でタピオカミルクティー売らんかい!」

 出来る気がしない、とは言えない組員達は決死の覚悟で売り込みを始めた。通りを行く人々の冷たい視線、いや、まるで目を疑うかのような視線に晒されながらも、自分達の親父である真島吾朗の言いつけに背くことなく、呼び掛けやチラシの配布を一つ一つ丁寧にこなしていく。しかし、その間に誰もが考えていた。自分の親が何処を目指し、何を見ているのか全く想像もつかない。新しいシノギ、初めて聞いたタピオカという響きの食べ物、冷たいミルクティー。何をどう考えてもシノギと結び付かない。あまりにも遥か高みを目指しているのだろうか、真島吾朗という男は何年経ってもよく分からない男だ。

 通行人の興味を惹かれつつも明らかに敬遠しているだろう視線はいつかこのタピオカミルクティーに手を伸ばしてくれるだろうか。流行りに乗るが早いか、廃れるが早いか。これから先に待つ運命を真島組組員達は知らない。突如として現れたどこぞの同業者、そして差し向けられた数々の刺客達。果たして彼らはシノギをあげられるのだろうか。真島吾朗の咄嗟の思いつきで開業したタピオカ真島、組員達……店員達の壮絶で地道なシノギは続く。



| タピオカまじま |


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