恐る恐る腕を伸ばし、さわさわと触れる。力の加減を間違えないように、力み過ぎないように、間違っても彼女の痛みを助長させないように。自分には生涯縁のない症状だ。だからこそ、いつもと同じ顔をしてみせる彼女の痛みに寄り添いたいと思った。
「…その、なんだ。まだ痛むのか?」
手頃なクッション一つと薄手のブランケット一枚、彼女は横たわっている。座っているより横になっている方が楽なんだとか。桐生はそれに寄り添うように彼女の真隣に腰を下ろし、彼女が仰向けになればブランケット越しにそっと腹部を撫で、彼女が横を向けば腰を撫でた。
時折、確認を取る。痛くはないか、撫でる手が強過ぎないか、何か欲しいものはあるか、とまで聞くと、病気じゃないから大丈夫だと逆に自分を気遣う返事が返ってきた。
「正直、俺にはその痛みがわからねぇ。でも、何か出来ることがあるなら俺はそれをやってやりてぇって思ってる。だから、」
ありがとう、と彼女の声が聞こえた。けれど、くすくすと笑っているようで、桐生はムッとした顔で彼女を見た。薄い唇の隙間から歯を覗かせ、痛みに沈んでいた表情も笑みに綻ぶ。桐生の献身さに大袈裟だと笑い、再び、ありがとうと口にした。
「どうしたんだ、急に黙り込んで。痛むのか…?」
そうじゃないと彼女は気恥しそうに話し始めた。桐生が自分の傍にいてくれることが何よりも嬉しい。腹部や腰をさすって労わってくれることも嬉しい。けれど、傍にいてくれることの方がもっとずっと嬉しいと。その上、何か出来ることがあるなら、と言ってくれた桐生の優しさが頼もしくて、甘えたくなるのだと続けた。その言葉に桐生は穏やかに微笑み、彼女のものより大きなその手で彼女の頬を撫でた。
「だったら、最初からそう言えばいい。お前は一人で痛みに耐えてるんだ、だったら俺はそれが少しでも楽になるように付きっきりになってやるさ。もしかしたら、甘やかし過ぎなのかもな。でも、俺はそれくらいしてやりたいって思ってるぜ。」
歯を見せて笑っていた彼女の口が今度は驚きに開いていく。ぽかんとした顔をする彼女に桐生は不思議そうに疑問符を浮かべる。どうして、そんな顔をしているのか分からないと言った具合で。しかし、桐生の放った言葉は次第に彼女の頬を赤らめさせ、更に桐生の疑問符は増殖していく。もう耐えられないと彼女が桐生に、水を持ってきて欲しい、と頼めば、桐生は素直にキッチンの冷蔵庫前へと向かう。
何か変なこと言っちまったか?と自分の言動を振り返ってみるものの、その答えが見つけられない桐生は彼女に言われた通り、冷蔵庫の中で眠っている飲料水のボトルを一本取り出すのだった。
| 痛いの痛いのとんでけ |back