「勇者様のご登場ってヤツだ」

 狭い路地に男は三人、女は一人。男が女を取り囲み、逃げ道を塞いでいる時にそれは現れた。聖なる祈りや神々の加護を宿らせた鎧や盾、剣などはない。ただ気の引き締まるような赤いスーツを身にまとい、先端に有刺鉄線の巻かれた物騒なバットを手にしている。その姿は現代的、古から伝わる伝説の勇者という設定にはあまりにも似つかわしくない。むしろ、その手の人間だろうと思わせるほど、目の前に現れた勇者とやらは物騒の象徴であった。
 バットの柄を握り締める革手袋が些細な摩擦で鳴る。勇者は不敵な笑みを浮かべ、身軽な手さばきでバットを弄んでいるようだった。何度もくるくるとバットを振り回し、円を描いている勇者は遂に口を開く。

「ま、よくあるよな。こういうシチュエーション。良くしてくれた村の娘を攫う盗賊団とか、一国のお姫様を攫ってく魔王とかよ」

 勇者の名を呼べば、おう!ちょっと待ってな!悪者退治の時間だぜ!と名を呼ばれた勇者、春日一番は手にした聖剣で勇ましく魔物の群れへと切り込んで行った。地に伏すは三人の男。戦いを制するは一人の男。

「よう、立てるかい?」

 地べたに座り込む自分に差し伸べられる手のひらは革、大きなその手に自分の手を重ねれば、あっという間に引き上げられ、勇者の正面に立つ。あ、ありがとう……。と感謝を紡ぐ。勇者は照れ臭そうに、いいってことよ。アンタが無事なら、俺ぁそれでいい。自分より自分の身の安全を思う笑顔に恐怖に凍てついた心がゆっくりと溶けていく。

「また困ったことがあったら、いつでも声掛けてくれ。こう見えても俺、ちゃんとスマホ使えるからよ」

 それじゃあな。と手を振り、勇者は新たなる地へ旅立つ。と思っていたのだが、二、三歩行ったところで踵を返し、こちらへと戻って来た。どうしたのかと問えば、勇者は人懐っこい顔を曇らせ、眉を下げながらこう言った。まるで弱気な子犬のようだ。

「あ、あのよ、なんだったら途中まで一緒に行ってやろうか……?また絡まれでもしたら危ねぇだろうし、」

 " ……勇者様がよければ "
 その言葉に勇者はあからさまに顔を綻ばせ、よし!この勇者様に任せな!と当たり前のように隣に立つ春日一番を見て自然と笑みがこぼれた。

『春日一番が仲間になった』



| 勇者との遭遇 |


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