場所は帝国学園。帝国学園サッカー部に所属する鬼道有人と名字名前は、影山総帥の元に集められ明日に迫る練習試合について話を聞かされていた。

「対戦相手が決まった。明日は雷門中と練習試合を行う。」

突如決まった練習試合の対戦相手だが、サッカー部として馴染みのない学校名に鬼道は疑問符を浮かべた。その学校に覚えがあり、その学校名を聞いただけで目的もおおよそ察してしまった少女だけは目を伏せていたが。しかしその謎は影山の一言ですぐに明かされた。

「先日、豪炎寺修也が雷門中に転校した」

「…つまり、豪炎寺のデータを集めるのが目的ですね」

影山が簡単に事実を述べれば、それに対して鬼道が冷静に目的を汲んだ。影山は頷き、ヤツの実力を見極めよとだけ言ってその場は解散となり、グラウンドに出て練習が始まる。


人数分のスクイズとタオルを用意して、ベンチの脇に置く。取り出したのは愛用しているタブレットで、膝に置きながら選手の様子を見つつデータやメモを打ち込んでいる。時折選手に声をかけてはトラップやマークについて、的確に指示を出していく…。

名字名前は伝統として女子は部員にしないという帝国学園サッカー部における女子マネージャーという異端な存在だった。
過去に所属していたジュニアクラブでのテクニカルなサッカーの技術と、戦術を練る際の卓越した観察力を買われて、帝国学園総帥たる影山零治自らスカウトした少女。その能力をフルに活かして、時折自ら練習に交じりながらコーチングと情報収集、戦略を立てる事を行っていた。
気高さや気品すら感じられる整った容姿と、天才ゲームメーカーとも称される鬼道有人とも並び立つチームへの影響力に、いつしか女帝と呼ばれるようになっていたようだった。

そんな彼女は、その人形じみた美しい顔に珍しく憂いの色を宿してマネージャーとしての業務を淡々とこなしていた。
そこに鬼道は、いつもとの小さな違和感を感じたのか彼女に声をかけた。

「どうかしたのか、名字。いつもより元気がない気がするぞ」

てっきり明日の練習試合について話したいことがあって来たのだろうと考えていた名前は、少々驚きながら鬼道に答えた。

「…大したことじゃない。ただ明日の相手の雷門サッカー部、部員は足りてない上に…豪炎寺修也はサッカー部員ですらないみたいでね。データをとるのが難しいんじゃないかって。」

それを聞いた鬼道はサッカー部にあの豪炎寺が所属していない事実に一瞬目を丸くして驚くも、彼女の元気がなかった本当の原因とは違うだろうと思い少し眉間に皺を寄せた。

「だったら奴をその気にさせるまでだ。
…それで、本当にそれがお前の元気がない理由か?」

「…本当に何でもない。知り合いが雷門にいた気がしたからどうしてるかなって思ってただけ。」

そう目を伏せながら鬼道に答えた名前はどこか悲しげで、だがこれ以上何も答えてくれはしないだろうと判断した鬼道は無理はするなよとだけ声をかけて練習に戻った。

その背中を見送った名前は、口論して以来口をきいていない幼馴染である少年に思いを馳せる。

___彼がサッカーを辞めてから約1年…。サッカーをする彼がまた見られるかも、でも帝国の皆があんなサッカーをする様を彼に見てほしくない…

2つのチームを思う気持ちがせめぎあう名前。
翌日の対雷門戦から、彼女とそれを取り巻くサッカー少年達の運命が大きく変わろうとしている事など、帝国の"天才ゲームメイカー"と"女帝"などと呼ばれている彼女等でさえ、誰も知らなかった