フットボールフロンティアを優勝した雷門イレブン一行。
大きな揺れを感じ、気が付くと、彼らは見たこともないサッカー関連施設を積んだ大型の船――イナズマビッグフェリーに乗船していた。
パラレルワールドの仲間であり監督と名乗る少年・汐沢陽から、未来の自分達が出会う久遠監督についての話を聞いていたその時。ふいに、聞き馴染んだ声が機械越しに語りかけてきた。

「聞こえているか…雷門の諸君…。」
「えっ!?」

実の兄の声に、誰よりも早く春奈が息を呑んで振り返る。

「我々は帝国学園である。」
「この声は…!」

円堂がそう反応すると、空間にホログラムが投影された。そこに浮かび上がったのは、帝国学園のユニフォームを身に纏った鬼道有人その人。
そしてその隣にはいつも通り、帝国学園のジャージを違和感なく着こなす名前の姿があった。しかし、名前の瞳には雷門への親愛など欠片もなく、ひたすらに冷ややかな光が宿っているだけだった。秋、春奈と夏未は思わず顔を見合わせる。

「やっと探し当てたぞ。雷門が船で敵前逃亡を図るとはな。」
「鬼道?鬼道に名字か!?あれなんか…色が薄いような。」

それが遠方にいる人物を映し出す通信用のホログラフだと汐沢が説明すると、円堂は安堵したように呼びかけた。

「そうか。鬼道、名字、地震が起こってさ、なんか変な感じになっちゃっているんだ。そっちは大丈夫か?早く戻ってこいよ」

円堂がそう声をかけると、鬼道の隣に立つ名前が、まるで得体の知れないものを見るかのように目を細めた。

「戻ってこい? …寝言は寝てから言ってくれる?円堂守」
「名前……ちゃん?」

共に何度もベンチで喜びを分かち合ったはずの彼女から放たれた、氷のように冷酷な物言い。一切の感情を排したその鋭い視線に射抜かれ、秋と春奈は信じられないものを見るように顔をこわばらせ、絶句した。
名前を呼ばれた名前はチラと彼女たちに視線を投げたが、何事もなかったかのように円堂へ再び視線を戻した。そんな名前の無慈悲な態度に同調するように、隣に立つ鬼道が続く。

「戻ってこいだと?俺は帝国学園だ。なぜお前たちのところに戻らねばならんのだ?」
「えっ?だってお前は雷門に…。えっ?違ったっけ?」

円堂の言葉が迷いを見せた瞬間、汐沢が「違っていません!」と力強く割って入った。
鬼道は雷門の一員になったのが正しい歴史であり、帝国学園にいるままの状況はパラレルワールドの記憶改変による間違った流れなのだと、汐沢は必死に説く。強固に結ばれていたはずの鬼道との思い出が揺らいでいることに危機感を抱きつつも、彼らの絆の固さであれば記憶を取り戻せると汐沢は信じていた。

「鬼道さん、一緒にフットボールフロンティアで優勝したこと忘れちゃったッスか…!?」
「じゃあ名前さんも…!」
「わけわかんねぇが、陽が言ってたのはこういうことか?」

おどおどと焦る壁山に、口元を覆いながら声を絞り出す春奈、ようやくこの異常な状況をのみ込み始めた染岡。雷門は混乱の中にいた。

「優勝していい気になっているようだが、帝国学園はお前たちを倒すべく強くなっていたのだ。お前たちをここで倒し、優勝の栄冠を完膚なきまでに砕かせてもらう。」

「鬼道!名字!お前はもう雷門の一員で俺たちは仲間なんだ!戦う必要はないんだ!」

必死に呼びかける円堂に対し、水を浴びせるかのごとく冷ややかな声が返ってきた。

「仲間? 冗談も大概にしたら?」

静かに口を開いたのは名前だった。帝国のマネージャーとして鬼道の傍らに立つ彼女は、雷門を鼻で笑うように一瞥する。

「鬼道は帝国学園のキャプテン。雷門に所属したことなんて、ない。私も含めて、ただの一度もね」

微塵の好感も抱いていないその態度に、雷門の面々は言葉を失う。
鬼道はそんな彼らをよそに名前の言葉に深く頷いた。キャプテンとマネージャー、強豪帝国を牽引する者同士の揺るぎない信頼関係が、二人の間には確かに存在していた。

「言ってもわからないようなら、戦ってわからせるしかないようだな、鬼道。」

ふいに新たな声が響き、ホログラムの中に一人の少年が姿を現した。

「来たか豪炎寺。相変わらずお前はいつも遅いんだよ」
「修也、エースがそれじゃ示しがつかないんじゃないの?」

幼馴染である豪炎寺の登場に、名前は呆れたように肩をすくめる。

「待たせたな、名前。」
「!?」

親しげに言葉を交わす3人の姿に、雷門一同は息を呑んだ。

「豪炎寺さん!」
「豪炎寺!お前まで…!?」

壁山の痛切な叫びをよそに、ホログラムの向こう側に立つ豪炎寺は静かに腕を組んだ。冷ややかな光を宿した双眸が、騒ぎ立てる円堂たちを射抜くように見下ろしている。微かに寄せられた眉根。その視線には、彼らの戸惑いを理解しながらも受け入れる気はないという意思が滲んでいた。

「それでこの勝負に応じるか、応じないのか。はっきりしたらどうなんだ?」

突き放すような豪炎寺の言葉に、円堂はようやく決定的な異変に気がつき、今更のように素頓狂な声を上げた。

「豪炎寺が帝国のユニフォームを着てる!?」
「まさか知らないわけではあるまいな。豪炎寺修也…帝国学園のエースストライカーだ」

今さらのような叫びに、鬼道はやれやれと呆れたように小さく息を吐いて答えた。続くように名前は口を開く。

「修也はずっと帝国のエース。自分たちの都合のいい妄想を、私たちに押し付けないでくれる?」
「言葉は不要だ、名前。フィールドで決着をつければいい」
「そうね、ごめんなさい」

幼馴染同士の親しげで、それでいて雷門を完全に歯牙にもかけないやり取り。その息の合った空気感は雷門にいる時の彼らそのもので、だからこそ余計に雷門イレブンの混乱を深めていた。

「おい鬼道、豪炎寺、名字、冗談はよせ…」

染岡の額に嫌な冷や汗が滲んだ。鬼道も豪炎寺も名前も、普段こんな手の込んだ悪ふざけをする性格ではない。だからこそ、微塵も冗談めいた様子のない三人の態度に背筋が寒くなった。必死に現実を否定しようとする染岡へ、豪炎寺は淡々と告げる。

「そっちこそなぜ驚く?俺は常に帝国学園のストライカーとして結果を出してきた。何か不自然なことがあるのか?」

その有無を言わさぬ言葉に、「…ん、待てよ。そう言われてみると豪炎寺は帝国学園だったような…」と、染岡の記憶までもが不自然に塗り替えられそうになる。

見かねた汐沢が必死に声を張り上げた。記憶が曖昧になろうとも、誰が何と言おうと鬼道も豪炎寺も名字も大切な仲間であり、彼らとの絆だけは絶対に忘れてはいけないのだと。
汐沢の悲痛な叫びに意識を繋ぎ止められた円堂と染岡は、真っ向から戦って記憶を取り戻させるしかないと闘志を燃やす。そして円堂は、未来の監督からチームを任されたという汐沢を信じ、彼を代理監督としてこの試合の指揮を執るよう頼み込んだ。
突然の大役に戸惑いつつも、汐沢は決意を固めて力強く頷く。

「話はまとまった? 言っておくけど、帝国学園は強くなった」

燃え上がるような彼らの熱気を、名前の涼やかな声がスッと撫で斬りにする。ホログラム越しに見据えてくる彼女の瞳には、一切の情を挟まない冷酷な光だけが宿っていた。