エンドロールとこれから


『そもそも僕は肉体労働派じゃないんだ。山登りなんて、もう金輪際ごめんだからな』
『ごめんごめん。次は僕がジュリアスのために仮死薬の材料を取りに行くよ』
『あんなことがそうそう何回もあってたまるか』

爽やかなロミオとジュリアスの笑顔と共に、ゆっくりと、幕は降ろされる。――千秋楽の舞台も、ようやく終わったのだ!

咲也くんと真澄くんが舞台袖に引っ込んだとほぼ同時に、割れるような拍手が劇場内に響いた。たぶん、今までで一番大きい!

至さんの足の治療をしていたのも一瞬忘れて、彼らに見入るほどの舞台だったんだ。きっと、こういうのを『最高』の舞台って言うんだよね。今にも叫びだしたいほど嬉しい。このステージの輝きを見たのは、幼馴染が失踪して以来だった。

「よかった――大成功ですね!」

至さんの足に巻いていたテーピングを片付けながら、彼に向かってそう言った。

「うん……」
「至さん、湿布張り替えましたから。カーテンコールも頑張って」
「……っ、うんっ……!」
「!?」

ばっ、と救急箱から顔を上げ、至さんの顔を見る。ぽろぽろと、大粒の涙が彼の切れ長の瞳から零れ落ちていた。みんなもすぐそれに気づいて、監督さんが驚いたように叫んだ。

「至さん、足、大丈夫ですか!?」
「えっ、至さん!? そんなに痛いんすか!?」
「救急車」

皆がわらわらと集まった。私も慌ててスマホを取り出したけれど、それを制するように至さんがつぶやいた。

「違――なんか今……今までの人生でないくらい、自分が熱くなってて、笑えるだけ」

呆然と涙を流している彼に、綴さんが少し笑って肩を叩いた。

「泣いてんじゃないすか」
「シトロンさんみたいですよ!」
「ワタシ、泣くと笑う間違わないヨ! 深海ネ!」
「心外、間違ってる」
「ふふ、本当だね。それにしても至さん、ゆるくじゃなくて、全力で頑張れたんですね。偉い!」
「俺は子供かっての……」
「ぷっ、あははは!」

監督の笑い声が響いた。その声に呼応して、私も、みんなも、つられるように笑いだす。

ああ――やっぱり、ステージの輝きは美しい!



皆で楽屋に戻ったあと、監督さんがトントンと私の肩を叩いてきた。

「結局、幼馴染くんは来れたの?」
「あー……ダメでしたね。あの人、『エジプトに居るから間に合わない』って!」
「エジプト!? めちゃくちゃ遠いね……!?」
「でも、『おまえが演劇に関わってんのは、ちょっと気になる! 次の舞台の時は、もっと早く教えろよ〜』って」
「軽い……エジプトとか行ってるのに……」
「彼、基本的にひとところに留まってないみたいですね。フランスとかにも行くって。だから、夏の千秋楽には絶対呼びたいです!」

絶対、幼馴染にこの感動を見てもらいたい。今はもう、それはぼんやりとした願いじゃなく、目的に変わった。

「そうだね! そのためにもまずは、夏組結成しないと……!」
「幸くんとか、カズくん……あ、一成さんとか、興味あるって反応でしたよ!」
「あ、やっぱり? うん、とりあえず二人にはお願いしてみようかな」
「気合十分じゃねえか。いいことだな」
「――! 左京さん」

監督さんの声に思わず振り返ると、そこには取り立てのヤクザさん……もとい、古市左京さんが立っていた。彼には前、みっちりとマネージャーのすべきことを教わったので、一応先生にもあたるのだろうか?

「こんにちは、左京さん! 来てくれたんですね!」
「おお、小娘。お前もきびきび働いてたらしいじゃねえか」
「ええ。左京さんが前言ってた、マネージャーがしたらいい事ってのを真似しただけですけど」
「ふむ、感心だな。ならもうちっとばかし教えてやる。いいか、まずマネージメントにはうんぬんかんぬん……」

おっと、どうやら彼のうんちくのトリガーを引いてしまったらしい……。

でもまぁ、今日は甘んじて全部ちゃんと聞こうかな。これからも劇団の役に立ちたいし、知識はあるだけいいんだから。


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