支配人と総監督


でもって、ものの見事に『MANKAIカンパニー』の専属マネージャーに任命されちゃいました! 完!

という感じで終わればいいのだけど、そうもいかないのが人生のようだ。咲也くんについて行ってちょこっと覗いてみようかな……と軽い気持ちでやってきた私を目視した瞬間、もじゃもじゃ頭の男性が突然現れて私の肩を押したのだ。

「ようこそお待ちしておりました! わがMANKAIカンパニー待望のマネージャー様っ!!」
「え? えっ? わ、私ただ見学に……」
「ささっ、こちらへ! 総監督がお待ちですよ〜っ!」
「うわー!? さ、咲也くん助けてー!」
「千夜ちゃん、頑張って!」

天然な咲也くんは、笑顔で私を送り出してくれた。

なんだかものの見事な詐欺の手口を見せつけられている気がしないでもなかったけれど、私はもじゃもじゃさん……もとい支配人の松川伊助さんに連れられ、総監督さんの自室まで連れていかれたのだ。

ちなみに『MANKAIカンパニー』は寮があって、やっぱり劇団員たちが集うだけあり、とても広かった。私は支配人さんに連れられ、空っぽと噂の寮の扉の前を次々通り抜け、監督さんの部屋の前へ。

「えっほん。監督! 連れてきましたよ、例の方!」

人を闇の商人みたいに紹介しないでいただきたいし、連れてきたのではなく連行されたんです。

と支配人さんにツッコもうとしたその時、がちゃりと扉が開いた。

「本当ですか!?」

現れたのは、意外にも若い女性だった。ストレートの髪に、ピンと伸びた背筋。きっとスーツに身を包んでいれば、いわゆるバリキャに見えただろう、しっかりとした印象を受ける人だ。

「え、と……すみません、私は」
「ええ! 彼女が、マネージャー志望の……!」

私の台詞を遮るように意気揚々と叫んで、支配人さんはくるりと此方を向き。

「ところで、名前なんでしたっけ?」
「日渡千夜です!」

やけくそのように叫ぶと、彼は「なるほど!」と負けじと大声で返事を。その様子を見て、監督さんがぶはっ、と吹き出す。

こんな美人さんも、案外豪快な笑い方をするんだ……と思うと、なんだか少し気が緩んだ。

「あはは、ごめんね。絶対支配人が無理やり連れてきたんだよね? わかるよ、私もほぼそんな感じで監督になったから」
「ああっ、ちょっと監督! ひどいじゃないですかぁ、人をヤクザみたいに言って!」
「あはは、大丈夫ですよ。ヤクザの本職の左京さんにはかないません」
「や、ヤクザの知り合いがいらっしゃるんですか!?」

失礼とは思ったけれど、気になりすぎてツッコんだ。すると彼女は、可笑しそうにうんうんと頷いて、

「そうそう。でもまぁ、せっかく来てくれたんだし、そのヤクザさんのお話も含めて、ちょっとマネージャー業について相談してもいい?」
「あ……は、はい!」
「ありがとう!」

監督さんは嬉しそうに笑うと、「あ!」と思い出したように声をあげた。

「私は、主催兼総監督の、立花いづみって言います! よろしくね、千夜ちゃん!」


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