午後1時、空腹につき


「ねぇ……なに作ってるの」
「わぁっ!? い、いきなり背後に立たないでよ、真澄くん」
「大げさ」

音もなく私の背後からスッと顔を出してきた真澄くん。綺麗な顔が突然横から出てきたらビックリするの、普通だと思う。

にしても最近、真澄くんから声をかけてくることが増えた。
綴さんと夕飯を作ったあの日からだ。

そうそう、そういえばあの夕食はみんな大喜びで食べてくれてたなぁ。真澄くんは何も言わなかったものの、目をキラキラさせながら肉じゃがを咀嚼していたのを覚えている。気に入ってくれたようで何よりだった。

「いま、おやつのクッキー作ってるところ。カロリー控えめに作ってるから、スナックを大量食いするよりはマシかなって」
「味見したい……」
「まだ生地だから! 焼かないとだめだよ!」
「そう。何時にできる?」
「ちょうど三時くらいかな。……おなか減ったの?」

三時、という言葉を聞いた瞬間に少し眉尻が下がったので、思わず聞いてみた。真澄くんは「……」と黙ったままだったけれど、代わりにきゅるる……というお腹の音がすべてを伝えてくれた。

「どうしよう。至さんのファストフードに手を付けたらヤバそうだしなぁ……」
「……いらない。あんたの料理がいい」
「そう?」
「そう」

真澄くんは真顔でうなずいた。……うん、基本的に表情筋が動かないけれど、感情表現はストレートな方なのだろう。監督さんへのアピールはストレートすぎるけど。

「ふふ、後輩にそうまで言われたら、作ってあげるしかないな〜!」
「後輩……ああ、そっか。忘れてた」
「ちょっ、真澄くん!? 私のほうがお姉さんだからね!」
「気にしてない。千夜は、千夜」
「いい話風にまとめてきた……」

まぁ、敬えと言いたいわけではないから良いや。

「じゃあ、早くできるものがいいよね。うーん、そうだなぁ……フレンチトーストとか」
「食べる」
「よーし! そうだ、今日はオフでしょ? よかったら一緒に作らない?」
「……まぁ、あんたになら、付き合ってもいい」
「あはは、ありがとね。じゃあさっさと作って、一緒に食べよっか」


「……信じられない……あの真澄が、人と仲良く料理作ってる。まさに胃袋を掴まれたってところか?」
「わぁ、真澄くんと千夜ちゃん、姉弟みたいですね!」
「マスミ、カントクからチヨに浮き輪ネ〜!?」
「浮気、な。うーん、でもすごいな。これはスチル入りするレベルの貴重映像」

――談話室で、フレンチトーストの匂いを嗅ぎつけた男が4人ほど待機してるとは、二人は露知らず。



back