私の好きな人は大概私の友達が好きで、今まで幾度となく協力してきた。複雑な心境ではあるが友達も好きな人も幸せになってくれるのなら私の恋心なんて捨ててしまっても構わないかな、なんて。そんなことを繰り返しているうちに私はいつの間にか6度の失恋をしていた。そして現在、7度目となる失恋が目前に控えている。

「跡部、好きな子いるんだってね」
「誰のことだ?」
「水臭いなあ、侑士から聞いたよ」

跡部は私の親友が好きなんだって。また失恋かと伊達眼鏡の彼は苦笑いしながらリプトンのレモンティーをくれたけれど、生憎そんな甘酸っぱいものが喉を通る気がしない。

「口が軽いなあいつ」
「私だから教えてくれたんだよ」
「言っておくが協力なんて求めてねえからな」
「好きな子知ってるのに」

ほら、わかりやすい。教科書を鞄に仕舞う動きが止まる。彼女の好きな人もまた彼だ。所謂両片想い。早くくっついてくれればこっちも潔く諦めきれるものを。見ていてむず痒い。

「お前はどうなんだ」
「え?」
「いねえのか、好きなやつ」

はあ、そう来るか。まさか突っ込んでくるとは。跡部だって知ったところで需要もないくせに。上手く切り替えるためとはいえ、なかなか痛い話題だ。

「いるよ」

自意識過剰のくせに恋愛になると鈍感で、臆病なこの学園の王様。そのくせ世話焼きで意外と抜けてて、皆に慕われている。
試合も陰ながら応援してきた。差し入れやお守りだってあげたかった。でも、彼の言う「雌猫」にはなりたくなかった。だから何でも話しやすい友人という今のポジションを維持してきたのだ。私も人のことを言えない。臆病で、意気地なしの大馬鹿野郎。何度も繰り返してきたくせに。こんなんじゃいつまで経っても報われないってわかってるくせに。

「また人の背中押して身を引こうとしてんじゃねえだろうな?んなもんやめておけ。お前はもう少し貪欲になっていい」
「うん、そうだよね」

好き、大好きなの跡部。皆が皆、貴方に惹きつけられる。きっと私一人のものにしたいなんて烏滸がましい願い。だから私はまた好きな人の大きな背中を見送る。拳を強く握り締めて。

「ほんまアホやなあ」

溜め息混じりに言葉を投げてきたのは数少ない男友達であり、好きな人情報源の侑士だ。呆れながらも教室に入ってきた彼はまだ未開封のレモンティーにストローを挿して飲み始めた。

「結局またお流れか」
「いいでしょ、私のおかげでたくさんリア充が誕生してるんだから」
「まあそらそうやな。お疲れさん」

いっそ気持ちを一新するという意味で髪でも切ってみようか。ばっさりとショートくらいまで。これからのシーズンにしては首元が寒いけれど、ドライヤーの手間も省けるし一石二鳥だ。

「俺やったら不幸女を選ぶで」
「不幸女じゃないけどありがとう」

侑士からレモンティーを取り上げてこくりと飲み干す。甘酸っぱさが涙腺に沁みる。レモンの香りは当分嗅がない方が良さそうだ。

「本気やのにな」

20151206
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