素晴らしき秋晴れに恵まれた今日この頃、私はいつも通りコート整備をしながら静かに迫る狂気に怯えている。なにゆえ私の安寧が脅かされなきゃいかんのだ。とりあえず徳川くん来るな。大和も来るな。入江先輩も来るな。

「呼んだか?」

呼んでねえよ。何で来たの。どうやって嗅ぎつけて来たの。まず声を発した覚えがない。いよいよ彼はテレパシーまで扱えるようになったのだろうか。

「練習行きなよ…」
「お前を一人には出来ない」

そう言って私からブラシを取り上げる徳川くん。何だ、ただのイケメンか。これで私の負担も減るというもの。これから選手達の洗濯物も干して、取り上げたものを畳んで各部屋に運ばなければならない。それに加えて選手一人一人の打球スピードも計測する。即ち暇がない。本当私何のためにここにいるのかわからない。

「その指輪、付けてくれてるんだな」
「ああうん…付ける約束だったし」

先日彼とサバイバル鬼ごっこをした際に負けた私は拉致監禁を覚悟していたが、意外にも彼が提示した願いはこの指輪を付けることだった。勿論左手の薬指には着用していない。ここだけは断じて渡す気はない。

「指輪のおかげでいつもなまえのいる場所がわかって安心するんだ」
「GPS付きだったの?聞いてないよ?」

通りでおかしいと思ったのだ。指輪をはめるだけで満足するなんてどこか彼らしくないと。今さっきやって来たのもこの指輪から場所を探知したということだろう。

「お前が中学生達に惑わされるんじゃないかと思うと気が気でない」
「そもそもその考えがトチ狂ってるよ徳川くん」

なに、中学生に惑わされるって。そりゃ見た目は明らか成人の集まりだけど彼らは私のことをマネージャーとして慕ってくれているし、流石に合宿所で恋愛をしようだなんて馬鹿な考えは持ち合わせているまい。いや、目の前に馬鹿はいた。

「そうだな、なまえにキスマークの一つでも付けられれば不安の種はなくなるんだが」
「いやあああああ何で近付いてくるの!怖い!肩掴まないで!」

やべえ、こいつはやべえ。何か気付かないうちにグレードアップしてない?徳川くん。1軍の…あの、10円の人。そう、平等院さんに軽く潰されて脳の神経まで損傷してしまったのかもしれない。

「俺ならテニスも恋愛も両立出来る」
「真顔で何言ってるの…?」

やっぱり徳川くんは頭おかしい。早くお迎え来てくれないかな、入江先輩とか鬼先輩とか。何なら種ヶ島先輩でも。とりあえず私を助けてくれるのなら誰でもいい。

「今日も好きだ、なまえ」

徳川くんがテニスだけを考えてくれる日は来るのだろうか。何だかそれもそれで寂しいような、虚しいような。気付けば、毎日に慣れてきてしまっている自分がいた。だからまだ彼の想いには答えたくない。もう少し、もう少しだけこの日々を過ごしていたいと思ってしまうのだ。

20151231
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