19

私は近頃の夜が嫌いだった。ゴーストやら怪物やら、そういうのが怖いわけじゃない。なかなか寝付けなくて、時折目が焼けるように熱くて、何度も何度も苦しんだ。きっとストレスも関係しているんだろうけど、流石にここまで影響が出ると自分の身を案じた。

「はあ」

ベッドを抜け、気分転換に談話室へ降りた。誰1人としておらず、私の貸切状態だ。本を読みたいわけでも、はたまた何か飲みたいわけでもなく。とりあえずソファーで横になるとベッドにはないひんやりとした心地良さがあった。あ、ここなら眠れそう。寝不足は免れる事が出来そうだ。目を瞑ると一瞬で意識が引き込まれた。

「来るんだ…俺様のところへ…引き裂いてやる…八つ裂きにしてやる…殺してやる…」

夜も更けた頃だった。耳元で囁かれているような、頭の中で延々と響く冷たい声。幻聴、だろうか。ううん、幻聴。これは幻聴。きっと寝ぼけていたのだと私はそこで自己完結した。でも動悸は収まらない。

「ナマエ…?」
「ハリーどうして……あ、また」
「違う!違うよ、処罰を受けていたんだ。ナマエは?」
「私は、眠れなくて」

声が震えている。別にやましい事なんて何もないのに。あの声が聞こえたのが自分だけだとしたら、きっと私は重傷だろう。幻聴が聞こえるなんてどうかしてる。私の身体、おかしいのかな。病気だったら、どうしよう。

「ナマエ?大丈夫?顔、真っ青だけど」
「大丈夫!大丈夫だから……おやすみなさい」
「あ、ちょっと、ナマエ!」

忘れてしまおう。大丈夫、きっと明日になればいつも通り。疲れているから物事を深く考え過ぎてしまうんだ。そう言い聞かせて私は再び眠りに就いた。身体の震えはいつまでも収まらなかった。





10月のある朝、その日はあまり体調が優れなかった。頭が痛い、怠い。熱っぽさはなかった。「一時的なものよ」とハーマイオニーが私の額に触れて言った。やはりまだ疲れが取れていないようだ。

「最近風邪が流行っているみたいだから気をつけてね」
「うん、ありがとう」

10月の風は突然冷たくなった。雨も多くなり、窓にびちゃびちゃと音を立てて打ちつける。天気も、気分も憂鬱だ。そのせいか頭も働かなくなってしまう。よって時折こんなミスもやらかす。

「何をしているのだミョウジ!」
「ご、ごめんなさい」
「鍋に自ら触れるとは、君は死にたいのかね?」
「違います……」

この薬草学の授業は私だけで10点も引かれてしまった。やっぱり雨は嫌いだ。テンションも下がるところまで下がりきった。どん底だ。一体私の身体はどうなってしまったのか。

「ナマエ」
「ごめん、話なら後にして」
「ナマエ」
「体調が優れないんだ……少し休ませて」
「ナマエ」
「しつこい!」
「ナマエ!」

振り向くと息を切らせているハリーの姿があった。私をずっと呼んでいたのはハリー。苛立ちも一瞬で吹き飛んだ。謝る前に彼は何も言わず私の腕を引いて廊下や階段を次々と駆けていった。

「ちょっと、ハリー!」

掴まれた腕が痛い。手を振り払い、ハリーから距離を置くと彼は眉を顰めて私を見た。今のは悪くない。

「何なのもう」
「ナマエ、最近おかしいよ!いつもはしないミスするし、授業もぼーっとしてるし」
「別に、私は」
「無理には聞かない。けど、友達が悩んでいるのを見て見ぬ振りはしたくない」

馬鹿だなあ、私。こんなに迷惑かけているのに気付いていなかっただなんて。ハーマイオニーなんて1番私の傍にいたし、ずっと我慢していたんだと思う。いつでも私は自分の事ばかりで、周りが見えていなかった。

「ごめん、ハリー」
「ナマエ」
「私は大丈夫だよ。沢山迷惑かけちゃったよね。でもこの通り、元気だから」

だから、もう心配しなくていいんだよ。ハリーはきっと私が打ち明ける事を望んでいた。しかし私はもう彼らに負担をかけたくない。ただでさえ慌ただしい3人に私が重荷となれば、私のせいで彼らが潰れてしまう。それだけは何としても避けたい。

「3人とも、大好きだよ」

自分の荷は自分で減らしてみせる。

20171106
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