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「――先生、『秘密の部屋』について何か教えていただけませんか」秘密の部屋。ミセス・ノリスが襲われたあの日、壁に書かれていたキーワード。机に突っ伏していた頭が幾つも起き上がった。
「私がお教えしとるのは魔法史です」
ビンズ先生の様子が先程とは明らかに違った。平静を保とうと自分に言い聞かせている。
「事実を教えとるのであり、ミス・グレンジャー、神話や伝説ではないんであります」
事実を教えている。つまり、その「秘密の部屋」は事実ではなく、伝説に過ぎないというのか。今日は嫌に頭が働く。ハーマイオニーの巧みな言葉に乗せられ、ビンズ先生はぽつりぽつりと語り始めた。4人の魔法使い達によってホグワーツが創設され、その中で他3人とサラザール・スリザリンの間に亀裂が入り、スリザリンがホグワーツを去った。そしてスリザリンが学校のどこかに秘密の部屋を作り、その部屋は真の継承者でなければ開けない。部屋の中には継承者のみが操れる怪物が潜んでいる、とそこまで話すとビンズ先生は全てを否定してしまった。
「うう、難しい」
分厚い伝記を30分で一気に読んだ気分だ。あの声と秘密の部屋は果たして関係があるのか。しかも怪物だとか、継承者だとか、話の規模が壮大でついていけない。
「ナマエ、」
「ジニー?」
授業を終えてトイレに向かっていると、前からふらりと彼女が現れた。しかし様子がおかしい。身体を抱き締めて、震わせている。
「あ、あたし…あたし…!」
涙ぐんだ大きな瞳でジニーは私を見上げた。顔は青ざめ、口は紫色になっていた。慌てて私はジニーを隠すように誰もいない湖周辺へ連れて行った。その間にもジニーはしゃくり上げながら涙を零し、私のブラウスを濡らす。
「何があったの?」
「わからない、わからないのっ…!」
ジニーが何故泣いているのか、ここまでぼろぼろになってしまったのか、私にはさっぱりだった。
「あたしっ、きっとおかしいわ…!気付かないうちにどこかへ移動したり、それに!言えないの、ナマエ、あたし、あなたにまで信じてもらえなくなっちゃう…!」
「私は絶対にジニーを信じる。最後までジニーを信じるから」
ジニーの背中を何度か撫で、呼吸を落ち着かせる。勝手に移動している、というのは夢遊病だろうか。それもかなり重症の。ジニーの震える唇が再び開かれた。
「怖いの…ローブが鶏の羽だらけだったり、ハロウィーンの夜、ローブにペンキがついていたり……それに、その時までの記憶が何もないの…ねえナマエ、あたしがやったの?あたしが最近起きている事件の犯人なの…?」
呆気にとられた。これは本当に大事かもしれない。もし、ジニーの言葉が真実なら全てが彼女に繋がる。繋がってしまう。信じたくない。これが現実だ。交錯する感情を抑えきれない。壊れ物を扱うように優しくジニーを抱き締め、応えるわけでもなく、慰めるわけでもなく。ただ静かに彼女の背に回した腕の力を込めた。
20171106