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「私もう部屋に帰る」
「とりあえず落ち着くんだナマエ」

事件は夜、パーティーで起きた。リビングを杖一振りで一瞬にしてクリスマスカラーに染め、ママのお手製料理が次々とテーブルに並び、お客様が続々とやって来て、私もレディーらしくお辞儀をして……そのお客様の中に、彼はいた。

「お招き頂き光栄です、ミスター・ミョウジ」
「ああ、こちらこそ感謝しているよ。ルシウス」

ルシウスという男性の横に並んでいる男の子。どこかで見覚えのあるおでこだった。そうだ、私は知っている。この憎き顔は。

「初めまして、ナマエ嬢。いやはや、噂以上に美しい。私はルシウス・マルフォイ。こちら、息子のドラコです。何度かお会いしていると息子から伺いましたが」
「多分気のせいです」
「ンンッ、ナマエ!」
「これはこれは、ジョークも達者とは。うちのドラコにも見習わせたいものですな」

ルシウスさんは私の手の甲にキスをして微笑んだ。マルフォイの尖った輪郭は父親譲りらしい。パパは笑みを浮かべていたけれど目が全く笑っていなかった。手紙で書いていた魔法省の付き合いとは恐らくこの人のことだろう。
それに比べて、マルフォイは紳士的なタキシードを着ているくせにそっぽを向いてふてくされた顔をしていたので不釣り合いだった。

「ドラコ、ナマエ嬢をエスコートしなさい」
「分かりました、父上」

マルフォイが私の手を掴んだ。冷たい上に痛い。下手すれば折れてしまう。見えないところで力入れるなんて流石やることが汚い。ヒールでローファーを踏みつけてやると小さく声を上げて目尻に涙を浮かべていた。一方、ママはルシウスさんの奥さんと紅茶を飲みながら優雅に談笑していた。

「どうしているの?」
「僕に聞くな」
「私のパパ、絶対にあなたのパパを嫌ってる」
「同じく、僕の父上もだ」

親と子が似るというのは本当だ。バルコニーでしんしんと降り積もる雪を眺めながら私達は皮肉を言い合っていた。休暇が明けてハーマイオニーに「クリスマスは何をしていたの?」と聞かれても「マルフォイと過ごした」だなんて絶対に答えられない。

「君はどうしてグリフィンドールなんだ」
「どうしてって言われても」

スリザリンに行きたくなかった理由はいくつかあるけれど、それよりもグリフィンドールに行きたい理由の方が圧倒的に多い。勇敢、平等、根暗が少ない、ハリーがいる、ハリーと友達になれる確率がぐんと上がる。ダントツで挙げられる理由と言えば、1つである。

「ハリーと仲良くなりたかったから」
「は?」
「私、ハリーのファンだったから」
「それだけで?」
「それだけだよ」

マルフォイは口をあんぐり開いたまま動かなくなった。まあ話すとよく驚かれるのは事実である。尤もらしい理由も考えてみたけれどハリーがいなければハッフルパフやレイブンクローでも良かったとは思うし、結論私はハリーに釣られたのだ。

「聞いた僕が馬鹿だった」
「勝手に質問して落ち込むのやめてくれないかな」

逆にどんな答えを期待していたんだろう。マルフォイは深く溜息を吐いて手すりに寄りかかった。

「わからないんだ。君がやつらと連む理由も、ノットが君を庇う理由も」
「うん、私もわからない」

理由があって一緒にいることなんて、あるだろうか。そんな確信犯めいた真似は私には出来ない。気付いたら傍にいて、それが当たり前になって。友達というのはそういうものだと思う。

「ハリー達のことが好きだから一緒にいるし、セオが庇ってくれたのは私を友達だと思ってくれてるから」

わかるわけないか、なんて思いつつも熱弁してしまう。彼単体なら話が通じる気がしてならないのだ。だって今のマルフォイは、ただの不器用な男の子に見えたから。

「マルフォイ、私のこと嫌いなのにどうしてそんなこと気にするの?」
「別に嫌いだとは口にしてないだろう!……あ、いや、好きというわけでもなくてだな、僕はただポッターが気に食わないだけで」
「ハリーがうらやましいんだね」
「だから、勝手に決めつけるな!」

こんな軽口を叩けるのもあり得ないと思っていた。あのマルフォイが、グリフィンドールの私に、悩ましげに吐露している。なかなか想像つかない光景だろう。ハーマイオニーが聞けば仰天するはずだ。

「泣かないでね」
「ふん、誰が泣くもんか」
「だって今泣きそうに」
「なってない」

マルフォイは嘘が下手だ。「寒いからだ」とか言い訳をつけてるけど本当はちょっぴり泣いてたくせに。証拠に目が潤っているし、ずっと鼻を啜っている。鼻先もトナカイみたいに真っ赤だ。きっと彼も育つ環境が変われば、ハリーや私達とも仲良く出来たのかもしれない。そんな「もしも」を考えていたら悲しくなった。

「ナマエにドラコ、外は寒いだろう。ほら、こっちに来なさい」 
「ケーキも出来たわよ!」

今度は私がマルフォイの手をひいて歩いた。長く外にいたせいか先程より、手がもっと冷えていた。もしかして、冷え症だったりするのかな。暖炉の前は暖かいというよりも身体が冷た過ぎて暑く感じた。
マルフォイのお母さんのナルシッサさんはとてもお淑やかで「上品」をそのまま表したような人だった。ルシウスさんは胡散臭いけど、女性が惹かれる魅力をどこかに秘めていた。そんな2人から生まれたのがこのマルフォイだなんて。つっけんどんで見栄っ張りで意地悪な性格は誰に似たんだろう。

「私達は此処でお暇するとしよう」
「そうか。シンシア、フルーパウダーを」
「はい、ちょっと待ってて頂戴ね」

そしてマルフォイ一家は煙突の前に立った。不意に「良いクリスマスを」とルシウスさんが頭を撫でてくれた。やっぱり手は冷たかった。

「ミョウジ!」
「なあに?」
「これ…メリークリスマス」
「え?マルフォイ、」

私が全部言い終える前にマルフォイは消えてしまった。水色の小さな箱だった。きっとパーティーがあるからとルシウスさんに買わされたのだろう。あの人ならそういう事をしかねない。見た目で分かる。

「これ賄賂かな…」

流石かの有名なマルフォイ家だけあってプレゼントもぶっ飛んでいた。ダイヤモンド(本物?)の埋め込まれたお花の小さなピアス。シンプルなのに上品で、今まで私が手にした事のない貴重なプレゼントだった。

「ママ、似合う?」
「ええ、とっても素敵よ。ナマエ」

後数時間が過ぎればクリスマスも終わる。冬休みが明けてホグワーツに戻ったらハーマイオニーに話そう。案外マルフォイも話せばまともな男の子だって。きっと彼にも良いところはあるはずだから。

20171106
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