「俺と、付き合ってください!」

帰国してからというものの、こうして体育館裏に呼ばれることが絶えなかった。一人一人、熱意のこもった告白をしてくれるもののいまいち私の心には響かなかった。要は一時だけ持て囃されている私を彼女にしたというレッテルが欲しいのだろう。

「ごめんなさい、帰国したばかりでそういうことは考えられなくて」

彼氏なんていらない。全てを手にした今の私には需要がない。富は元より、名声や美貌も私のもの。この優越感をなくして生きていくことはもう出来ない。

「一昔前とは大違いだな」

この声は間違いなくあいつのものだ。ああ、振り返りたくない。しかし平静は装いたい。私はもう昔の弱い私ではない。

「用件はそれだけ?」
「随分と偉い口を叩くようになったじゃねえの、あーん?」

背後から腕を掴み上げられ、腰が引き寄せられる。蒸せ返る薔薇の香りに益々苛立ちが込み上げる。私の存在すら覚えていなかったくせに、知ったような口を利かないでほしい。

「は、なして…!――」

拒絶の言葉は全てこの男の唇に吸い込まれた。ずるりと割り込んでくる舌が私の咥内を犯して、侵していく。振り払おうとすれば上唇に歯を立てられた。私の初めての、大事なファーストキスだったのに。

「お前はいつまでも俺様の玩具がお似合いだ」

そのまま突き飛ばされて尻餅をつく。男は私を見下ろし、嘲笑っている。忘れもしない、三年前と同じ顔をしていた。また、私を貶めようというのか。




「なあ岳人、三年前に跡部があの子をよういじめとった理由知っとるか」
「なっ…何だよ、いきなり」

学食を食べてる最中に侑士が突然ぶっ込んできた。思わず味噌汁を吹き出しそうになった。何の脈絡もなくこういう話題入れてくるよな、こいつ。跡部が名前をいじめてた理由なんて簡単だ。俺達と仲良くしていた女子が名前だけで、それがたまたまあいつの目に入ったからだ。

「天下の跡部様でもチームメイトの周りに自分だけ知らんやつがおったらヤキモチ妬くっちゅうことや」

あの跡部が、ヤキモチ?何か気持ち悪い気もするけど自分が跡部と同じ立場だったら確かに複雑な気持ちにはなる。ましてや名前は人見知りだから自分から話しかけに行こうとはしない。跡部がやって来ても物陰からじっと見ているだけだった。

「せやから、あの子をおちょくって自分らから切り離そうとしとったんやろな」

もっと違う形で出会っていれば、名前と跡部は友達に、あわよくばそれ以上の関係になれたのかもしれない。それも今となっては手遅れな話だ。あいつの想いはとっくに壊れてしまった。

20180106
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