朝っぱらに一悶着起きてからの昼休み、俺とジローは名前の様子を見にF組を訪れていた。因みに宍戸は鳳と飯を食べるらしい。今朝のことがあって名前と顔を合わせづらいんだと思う、多分。
「あっれ〜名前いないC〜」
「マジ?なら食堂?」
「ん〜俺は違うと思う」
ジローに言われるがまま、俺は後ろをついて行った。食堂でも、保健室でも、はたまた屋上でもなく体育館裏。そこに名前はいた。勿論跡部も。
「お願いだからもう亮を挑発しないで」
「彼奴が食ってかかるからだろ」
名前は弱々しく頭を下げた。口元のガーゼが痛々しい。跡部を庇って宍戸の拳をダイレクトに受けた。どうしてわざわざ庇ったのかはわからない。やっぱり好き、なのか。そんな純粋な気持ちから動いたとは到底思えない。
「そもそもお前が帰国しなきゃこんなことになってねえんだよ。てめえが全部、ぶち壊した」
「私は、そんなつもり」
「じゃあ何で帰ってきた?」
ジローは見返すためだと言っていた。俺もそう思う。好きというより、執着しているように見える。あの日から始まった全てを覆すように。
「俺様を見返せるとでも思ったか?残念だったな、お前はあの頃と変わらねえ、玩具のままだ」
名前は核心を突かれて返す言葉もないようだった。黙り込む名前を他所に跡部はその場を後にする。姿が見えなくなったところでジローが俺の袖を引いて前に出た。
「名前」
「ジローに、岳人……いたの」
「悪い、別に盗み聞きするつもりじゃ」
「いい、気にしないで」
ジローが俯く名前の頭を撫でる。そういえば昔もこうやって、なかなか本心を言い出さない名前に詰め寄って吐き出すまで傍にいてやったことがあった。俺や宍戸が話を聞き出し、ジローが黙って慰める。こうして俺達はこいつのことを守ってきた。
「なあ、本当のこと教えろよ。俺もジローも宍戸も、」
「宍戸って」
不意に顔を上げた名前は目を潤ませて、唇が震えていた。
「岳人はいつから、亮をそう呼ぶようになったの?」
いつから、と言われるとわからない。いつしか互いに名字で呼び合うようになっていた。ジローだけは変わらなかったけど。きっかけ、何だったっけな。
「変わったのは名前じゃなくて俺達かもしれねぇな〜」
ぽつりとジローが呟く。確かに俺達の関係性は変わった。幼馴染だけではなく、レギュラー争いのライバルになった。油断をすればレギュラー落ちは免れない競争社会の中で、特に互いに別のやつとダブルスを組んでいる俺と宍戸はいわゆる冷戦というやつを繰り広げてきたかもしれない。三人でいるより侑士との時間が長くなったのも事実だ。
「私を、置いてきぼりにしないで」
俺達はこの三年で成長してしまった。名前も同じだと思っていたけど、それは大きな間違いで、こいつの時間はあの日から動いていない。ずっと止まったままだ。
20180109
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