「ハーツラビュル寮はアルヴィン先輩だとして、サバナクロー寮は誰がやるんだろ」
「俺ッスよ」
サンドイッチをもぐもぐと食べていたランだが、ふと気になることがあったらしくぽつりと言葉を零した。
彼女が投げかけたのは恐らく、他の誰でもない。一緒に食事している面々。
だが、その問いに答えたのはその場にいる誰でもないもう一つの声だった。
「「うわっ!?」」
気配なく特徴的な喋り方で答えられたランとエース、デュース、グリムは肩を上下に動かして驚きの声を上げる。
「シシシ……そんなに驚いたんスか?」
「主さんもなかなか神出鬼没でありんすから無理もありんせん」
「そう言っている割にはアルヴィンくんは驚いてませんけど」
限定メニューを両手いっぱいに抱えている姿の彼は耳をぴょこぴょこと動かすと悪戯が成功した子供のように笑みを浮かべて首を傾げた。
1年生組はまだ心臓がバクバクいっているのか、心臓に胸に手を当てて落ち着かせようとしているとアルヴィンは眉を下げて言葉を返す。
彼もまた驚いているような言い回しをしているが、微動だにしていないことから脅かした本人、ラギー・ブッチは顔を強張らせてそのことを指摘した。
「ふふっ、驚きんしたよ?」
「どーだか………アルヴィンくんは本当に読めないッスね」
「聞こえてなんし」
まさか突っ込まれるとは思わなかったのか、アルヴィンは目をまんまるにさせると笑みを零し、首を傾げる。
どうやら、彼の言動に信用はないらしい。ラギーは首をブンブンと横に振ると小さな声でボソッと本音を吐露した。
だが、それはアルヴィンの耳にははっきりと聞こえているらしく、すました顔をして忠告をする。
「うわぁ、地獄耳ッスね」
「ハイエナの主さんに言われとうありんせん」
ラギーは本当に小さい声で呟いたはずなのに聞こえていたことに驚愕し、耳をピンと立てるとへたっと耳を倒して頬を引き攣らせた。
その表情が面白く感じたのか、アルヴィンは言われた言葉に悪い気がしなかったのだろう。不敵に笑みを浮かべて言葉を返す。
「ラギー先輩が女装……うわぁ、似合いそう」
「……それは全然嬉しくないッスけど…うちの寮、がたいがいいのばっかで似合わないってことでオレが選ばれたんスよ」
ラギーはリドルほどではないが、可愛らしい顔立ちをしているのは確かだ。
ウイッグでも被らせたら、美少女になるのは想像付くのか。二人のやり取りがBGMに監督生は空想を膨らませている。
それを耳にしたラギーは困ったように顔をしてランの発言に不服そうに言うと深いため息を付いて選ばれた理由を語り始めた。
「確かにサバナクロー寮って体格いい奴ばっかですもんね」
「まあ、それは建前で実際はレオナさんが決めるのをめんどくさがってオレに押し付けただけなんだけど」
「あー……めっちゃ想像つくわー……」
彼の説明にその場にいた面子は納得しながら、天井を見上げる。
デュースが代表するように一同が思ったことをそのまま、言葉にした。
先ほどの理由はもっともらしい理由だったが、それは後付けされたモノらしい。実際の理由を聞いたエースは呆れた顔をした。
「っと、こんなところで道草食ってたらまーたレオナさんに文句言われる……じゃあ、オレは行くんで」
「はーい、頑張ってくださーい」
話題に入り込んでからいつのまにか時間が経っていたようだ。ラギーは思い出したように耳をピンと立てると手を振る。
いつも走り回っている彼にランは手を振りながら、労わりの言葉を投げた。
「どーもッス」
「本当にいいパシリなんだゾ」
それにラギーはニッと笑うと凄い速さで去って行く。
そんな後姿を見ていたグリムは口にハンバーグのたれを付けたまま、目を細めてぼそっと呟いた。