「オクタヴィネル寮はどうなるんだゾ?」
「あー…まずあのデカい双子は論外じゃん?」

 サバナクロー寮はラギーがやるということを知り、味を占めたのか。グリムは他寮は誰が女装をするのか気になってきたらしい。
 食べていた手を止め、口の周りにたくさんのお弁当を付けて首を傾げるとエースは眉根を寄せて消去法で候補を絞って行こうとした。

「あの二人は美人系になりそうだけど…」
「190cmの女がいてたまるかよ」

 監督生はイマイチ納得がいかないのか。グリムの口の周りを拭きながら、考え込む。
 今話題に上がっているのはオクタヴィネル寮のリーチ兄弟のことだ。彼らは確かに端正な顔立ちをしているから、彼がそう言うのも無理はない。
 だが、エースはフォークを監督生に向けて目を細めて首を横に振った。

「……そうなるとアズール先輩か?」
「アズールはやりそうにありんせんなぁ…」
「性格的にはやらなさそう……」

 オクタヴィネル寮で知っている残りの人はもう1人しかいない。
 デュースはう〜ん…と唸りながら、顎に手を添えて考え込んでその答えを口にするが、イマイチ自信がなさそうだ。
 アルヴィンはまた眉を寄せて天井を見上げながら、言葉を返すと監督生も彼の意見には納得できたのだろう。もぐもぐと咀嚼をしながら、ぽつりと零す。
 彼らがいうようにアズール・アーシェングロットという男は利益なしでおいそれと簡単に”はい、分かりました”と首を縦に振るような男ではないのだ。

「アズールに決まってんじゃーん」
「っ!?……ごほっ、っっ!!フロイド先輩!?」
「汚いんだゾ」
「ご、め……っ!」

 監督生の後ろから顔を覗き込む男はへらっと笑みを見せながら、彼らの知りたがっていた答えを口にする。
 しかし、彼からすれば1m先にエースがいた目の前が唐突に見知った男の顔で視界を埋められたのだ。驚かない訳がない。
 監督生はサンドイッチをのどに詰まらせ、現れた相手からグリムの方に顔を背けてせき込んだ。そして、落ち着けば驚かせてきた当の本人の名前を叫ぶ。
 自分の方にせき込むとは思っていなかったようだ。グリムは怪訝そうな顔をしてまともなことを言うと彼は謝るしかない。
 唐突に現れた人物とはオクタヴィネル寮の2年生、フロイド・リーチだ。

「小エビちゃん、いい反応だねぇ」
「フロイド、監督生さんをからかってはいけませんよ」

 フロイドは監督生の反応を楽しそうに笑っているとその後ろから彼を注意する声が聞こえてくる。

「げっ、ジェイド先輩までいる」
「驚かさないでください」
「えー…驚かさないと面白くないじゃーん」

 柔らかく微笑みながらも、何か企んでいそうな顔をしているフロイドそっくりの顔をした人物。
 フロイドの双子の兄、ジェイド・リーチ。
 彼を目にしたエースは面倒くさそうな顔をしてボヤいた。
 監督生は顔を青くしながらも、冷静にツッコミを入れるが、彼は納得していないらしい。フロイドは顔を離して自身の後頭部をガシガシとかきながら、口を尖らた。

「いちいち、俺に面白さを求めないでください」
「ヤダ」

 監督生は深いため息をつき、呆れた顔をフロイドに向けると要求をするが、それは一刀両断される。

「や、やだ!?」
「主さん、さっきアズールがやるといいんしたね?」

 まさか即答されるとは夢にも思っていなかったのだろう。彼は目をこれでもかと言うほど大きく開ければ、声を裏返した。
 しかし、監督生の右の方にいたアルヴィンは視線だけフロイドの方へ向け、彼が現れたに問う。

「うん」
「うちの寮から出すとするならばアズールを置いてほかにいませんから」

 彼は口を開け、目を細めて笑みを見せれるとジェイドもまたフロイドの言葉に補足を入れるように紡いだ。

「アズール先輩の女装かぁ……美人そう…てか、美人だ」
「小エビちゃん、どこ見てんの?」

 確実な答えが返って来たことにより、監督生はまたもや想像を膨らましてアズールの女装姿を思い描けば、ぽつりと零す。
 彼の視線は誰もいない天井だ。明らかに視線がおかしいところに向かっていることが見て分かるらしい。フロイドはキョトンとした顔をしてか監督生に顔を近づけた。

「先輩、離して。あと近い」
「ヤダ」
「ぬあ!?」

 距離にして10cmあるかないかの至近距離。それに我に返った彼は|冷《さめ》めた顔をして冷たく突き放すが、フロイドは眉間にシワを寄せて後ろから締め付けながら、断った。
 またもや断れるとは思わなかったのだろう。彼はしかめっ面をして素っ頓狂な声を上げる。

「あと絞めづらいから立って」
「ご飯食べてる人間に言うことじゃないですか!俺は絞めて欲しくありませんからね!?そして、先輩の料理が冷めるから早くどっかで食べてください!」

 監督生の声に臆することもなく、ただただ不満げにフロイドは文句を言って絞める力を強めた。
 絞められている彼は眉を吊り上げて口角をひくひくとさせるとひとつひとつに対してツッコミを入れれば、ビシッと遠くで開いている席を指差して去れとばかりに言い放つ。
 先輩への態度ではない。それだけは確かだ。

「では、隣いいですか?」
「いやいやいや、隣はグリムが……っていない!」

 どうやら、監督生の意思表示は伝わっていなかったらしい。ジェイドはにこやかに彼の隣の席を指差して問いかけた。
 そこは間違いなくグリムがいる席。
 何を言っているんだろうか。自分の右隣にはグリムがいるのだから、正確には自分の隣の隣……もしくは左隣だろう。
 ランはそう思って言葉を投げかけようとしたが、視線を下げるといたはずの生き物がいない事に気が付き、また声を上げる。
 
「誰もいないから構いませんよね」
「あ、いや、そうじゃなくて……っ、フロイド先輩……マジで離して」
「ジェイド、ずるーい。じゃ、俺も小エビちゃんの隣のこっち座るー」
「いや、話聞いてよ。ウツボ兄弟」

 断る理由がなくなったことをいいことに、ジェイドは両手に持っていた食事をテーブルの上に置いた。座っているところを見ると”NO”は受け付ける気は更々ないようにも思える。
 なんとか断ろうと能を回転させているが、もうすでに座られてしまえば手も足も出ないのが現実だ。
 それに加えて更に絞められる感覚に若干の苦痛を感じ始めたのか。ギブとばかりに彼女はフロイドの腕をバシバシと叩きながら訴えるが、それは素通りされてしまう。
 フロイドは拗ねたようにジェイドに文句を言うが、ランの左隣…アルヴィンの前は空いていた。それにニッと笑みを浮かべると彼女を抱き絞めたまま座る。
 振り回されている感じに疲れが出てきたようだ。おまけに、フロイドの腕から解放はされていない。ランは眉間にシワを寄せて敬語を捨て去り、ツッコミを入れる。

「ようあの双子に絡まれても平気でありんすなぁ……さすが猛獣使いでありんすな」

 楽しそうに話しかけ続けているリーチ兄弟と迷惑そうにしている彼女を見ては面白そうに観察しながら、アルヴィンはぽつりと感心の言葉を零した。

「てか、アイツあんなに絞められてやばくね?」
「痛くないのか?」
「手加減してくれてるからそんなに痛くないらしいゾ」

 彼の呟きは聞こえているだろうが、それどころじゃないのかもしれない。そんな三人のやり取りを真正面から見ていたエースは頬に冷や汗をかきながら、彼らに聞こえない声の大きさでボソッと言った。
 彼の意見と同意なのだろう。デュースも監督生を心配そうに見守っているといつの間にかエースの隣に避難していたグリムは呆れた顔をして以前、監督生から聞き出したことを二人に伝える。

「「手加減」」

 グリムの言葉は予想外だったのだろう。
 いまだにわちゃわちゃとやり取りしているウツボ兄弟と監督生を顔を青ざめながらと見つめ、エースとデュースは声を揃えて呟いたのだった。
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