『なんでもない日』じゃない日




 授業が終わった放課後。

 二人の男女の生徒は中庭にあるベンチに座っていた。

 今日は部活がないのか。
 エースは暇そうに頭の後ろで手を組みながら、女の子にチラッと視線を向ける。

 視線を向けられた少女は特段気にすることなく、前を向いて風を気持ちよさそうに受けていた。



「……なあ、なまえ」
「ん?どうしたの?」


 彼は少し期待しているような顔をして、名前を呼ぶと彼女はコテント首を傾げる。



「きょ……んんっ、転入してきてからだいぶ経つけど慣れた?」
「エースにデュース、それにグリムもいるからね」
「ふーん、あっそ」



 今日オレの誕生日なんだけど、覚えてる?



 そう聞こうとした言葉を飲み込んで咳払いすれば、話を逸らした。


 祝ってほしい。
 でも、自分からせがむのはなんかダサい。


 そんな感情があるからだろう。

 心の中で葛藤している彼に気が付くことなく、なまえはふわりと笑って答えるが、それはエースが欲しい答えではないようだ。

 いや、正確に言うなれば、その他大勢になっていることに複雑な思いがあるように見受けられる。

 そっけない返事をするのがその証拠だ。


「なに、その顔?」
「べーっつに?」
「ふーん」


 つまんなそうな顔をしている彼に眉を下げて顔を覗き込む彼女に少し不貞腐れた顔をして、顔を背けるエースは問いかけに問いかけを返す。

 なんとも言えない反応しか返って来ないからか。
 なまえは息を吐き出し、また顔を前に向けた。


「お前さぁ、オンボロ寮に帰って何してんの?」
「何って……掃除してゴーストとグリムと話したり、課題やったり?」
「は?真面目ちゃんかよ?」


 話題をまた何か振ろうと考える彼はふっと思いついたことをそのまま口にする。

 唐突な質問にパチパチと瞬きする彼女はどこ困惑している様子を見せるが、自身の顎下に人差し指を添え、返答した。

 初耳の事実にエースは目を見開いて固まっては問いかける。



「普通だと思うけど……ってか、真面目ちゃんそれはデュースの特許じゃない?」


 その言葉は自分にそぐわないと思ったのか。
 なまえはキャラ被りがいただけないと思ったのか。
 それは彼女にしか分からないが、一部分を訂正するようにツッコミを入れた。


「特許って何だよ」
「特許は……特許でしょ」


 変なところに注視する彼女に呆れた顔をし、ひらりと手のひらを空に向けて問いかけるが、なまえから返ってくる言葉はひとつしかない。

 どうやら、本当に譲れられないようだ。



「じゃあ、オレは?」
「エース?」


 デュースの特許があるなら、自分も彼女にとってあるんだろうか。

 そんな疑問が浮かんだのか。
 じっと見つめて問いかける。

 ほんのり頬を赤く染める彼を目に移し、なまえは聞き返した。


「そ、オレの特許」
「ん〜……………意地の悪さ?」
「ハア〜〜〜??もっとあるっしょ」


 少しの期待を目に宿しながら、もう一度言うと彼女は唸り、考え込む。
 ぐるぐると考えて出てきた言葉はひとつしかなかったようだ。

 言葉にしながら、首を傾げるとエースは眉間に皺を寄せて納得いかない顔をしながら、文句を口にする。


「んー……あ」
「なになに?」


 棄却されてしまったことに困った顔をして再び考え込むとなまえは閃いたように声を上げた。

 それに次こそは期待できる答えだと信じ、彼もまた身を乗り出し、言葉を待つ。


「さくらんぼ飴をもらえる特許をあげよっか」
「…………何その特許。つーかお前、どこから出したんだよ」
「え、見てたでしょ」


 ショートヘアの髪にズポッと指を突っ込み、包み紙に包まれた赤い色をした飴玉の袋をを取り出すと片手に乗せ、エースへと差し出した。

 またもや予想外。
 いや、先程よりぶっ飛んだ特許が出てきたことに肩の力が抜けたらしい。

 半目にして冷静にツッコミを入れた。
 おかしいからこそのツッコミなのだが、なまえからするとそのツッコミが不思議なのかとしれない。

 キョトンとした顔をして平然と答えを返した。


「ふつー……そこから出す?」
「え、黒柳○子知らない?」
「誰だよ、それ」
「これは黒○徹子の応用なんだよねー…いやぁ、知らないなんて人生損してるね。エース君」


 最後まで突っ込まないといけない案件だ。


 そのことに気がついたエースは彼女を指さして呆れたように問えば、なまえはキョトンとした顔をする。

 全く分からない彼は目を細め、なんとも言えない顔をしてその人物について聞けば、彼女は衝撃を受けたように目をまん丸にさせて可哀想な顔をしてポンと肩を叩いた。


「意味分かんねーし……それお前の世界の有名人?」
「異世界ってだけでこんなにかみ合わないものなのね」
「人の話聞いてる?」


 哀れみを向けられたことに眉を下げて困惑しながら、問いかければなまえはわざとらしく絶望したように悲しみ、右手の人差し指と親指で飴を持ちながら、顔を両手で覆った。

 大袈裟なことをいっているように聞こえるのだろう。

 まるで人の話を聞いてないような素振りな彼女にエースは冷や汗をかきながら、声をかける。



「聞いてる聞いてる……さくらんぼ飴ちゃんいらないの?」
「……もらってやってもいーけど」
「そんな言い方しかできないの?」


 ゆっくり手のひらから顔を上げてわざとらしい涙声で返事をすれば、ちらっと彼に目をやり、疑問を投げた。

 飴を受け取らないエースが不思議なのかもしれない。

 素直に受け取るにはタイミングを逃してしまった気がしているのか。
 彼は上から目線にしか聞こえない口調で言えば、なまえは呆れたような顔をして聞いた。


「そういうわけじゃないけど……」


 自分でもそう思うのか。
 エースは視線をそらし、言葉を濁す。

 
「仕方ないなぁ……さくらんぼ飴ちゃんがあるモノに変わります」
「へぇ、何?俺相手に手品する気?」
「種と仕掛けしかないけどね」


 彼女ははあ〜っと大きなため息を付けば、手のひらに飴玉を乗せてぎゅっと握り締めて手の甲を見せた。

 まるで何かを始めるかのような言い方に片眉下げ彼は挑発するように声をかければ、なまえはこくりとうなずき、余計な一言を言う。


「ふつーは種も仕掛けもないって言うんだけどな」
「いくよ………アインス・ツヴァイ・ドライ!」
「!!」


 エースは肩をカクっとさせれば、気の抜けたように目を閉じ、ボソッとツッコミを入れた。


 きっと彼女といると突っ込まざるを得ない事がたくさんあるのかもしれない。


 なまえが数をかぞえて指を鳴らせば、飴玉がスモークで一瞬隠れた。

 そのスモークが晴れれば、彼女の手のひらに残されていたのはさくらんぼ味の飴ではなく、1ピースのチェリーパイ。

 それに彼は目を見開いて驚けば、なまえに震える指を差し、バクバクと口を金魚のように開閉させた。


「お前魔法…!!」
「実は1回だけ使える魔法薬を貰って」


 明らかにマジックではなく、魔法。

 それが目に見えてわかるとエースは驚き、パクパクさせていた口はやっと喉を振動し、言葉にされる。

 なぜなら、監督性である彼女は魔法が使えることは無いからだ。


 してやったり。


 イタズラが成功したようにニヤリと彼女は笑えば、種明かしをし始めた。


「誰に!?」
「アズール先輩」
「………それ、大丈夫なのかよ」


 そんな魔法薬なんて作れるのか。
 その疑問ももちろんあるが、もし作れるとしたら相当の実力者なはずだと思ったのだろう。

 この学園は曲者しかいない。
 そんな中で誰に頼んだのか気になったらしい。

 焦った表情を浮かべて問いかければ、なまえは平然とした顔で答えた。


 アズール・アーシェングロット。 
 オクタヴィネル寮の寮長。

 慈悲の精神を持つ寮の人間ではあるが、如何せん。
 きっちり対価を貰うような人だ。

 そんな人とどんな契約を結んで貰ったのか。
 血の気の下がった顔で恐る恐る聞く。



「まあ…ボーナスってことで貰ったから」
「なんのだよ」


 まだマブダチに話せていないが、彼女は実はオクタヴィネル寮が経営しているモストロ・ラウンジでバイトをしているのだ。

 どうしてバイトすることになったのかは割愛するが、その時にボーナス代わりに貰った品物らしい。

 うやむやにされても気になることには変わりないのだろう。
 エースはつかさず、ツッコミを入れた。


「まあまあ……今日は『なんでもない日』じゃない日……でしょ?」
「っっ」
「サプライズ成功?」


 今は話す気がないのだろう。
 話題を逸らしてニッと笑えば、含みのある言葉をなげかける。

 驚き過ぎて口内の唾液が溜まってしまったのか。
 彼はごくりと音を立てて固唾を飲み込むと彼女は歯を見せて笑った。


「お、お前!!覚えて……」
「誕生日おめでと、エース」
「ど、どーも」


 なまえが自分の誕生日を覚えていたことに驚きを隠せいないのだろう。

 ずっと言葉を詰まらせていたエースはやっとの思いで言葉を口にすると彼女は満面の笑みで彼が生まれたことを祝う。

 その笑顔に調子が狂ったのか。
 視線をバッとそらしてぎこちなく返事をした。


「私の誕生日は3倍返しで」
「………っ、お前の真面目ちゃん理論はどうしたんだよ」


 どこから出したのか分からないフォークでチェリーパイをサクッと音を立て一口サイズにカットすれば、なまえはそれをフォークで刺して彼の口元に運びながら、ウインクする。

 エースは体温が上がっていることを実感しながらも口元にあるチェリーパイに思わず、身体を後ろに引いて精一杯の皮肉を口にしたのだった。




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