あの女が天女だと名乗り、それを信じてしまった。 目の前で光り輝いた空中から現れたら、そりゃ誰だって信じる。 けど、おかしいと気付いた時にはもう、何もかもが手遅れだった。 華という名前の女は、あの場にいた独眼竜と真田の旦那の心を手に入れて己の意のままに操り始めていたのだ。 最初は小さな、女の子なら誰でも言うような可愛い我が儘だった。 あれが食べたいとか、可愛らしい着物を着たいだとか、その程度。 しかし、気付けばあの女はこの上田城主、真田幸村の奥方様の如く振る舞っていた。 掃除の仕方が気に食わない、廊下で擦れ違った時の態度が悪い、そんな理由から旦那を通して罰を与えるようになっていた。 何度か旦那に苦言を呈したけれど全て『華姫様が望まれるのだ』の言葉で済ませられてしまう。 更にあの女は昼夜問わず旦那にべったりで、所構わず二人で情事に更けて。 実質、上田城は天女と名乗った女に乗っ取られたに等しく、政も滞り始めた。 各国からの書状は溜まる一方で、それに比例して家老たちの忠誠は薄れていき、旦那の現状を知った真田に仕える武家は奉公に上がっていた娘たちを呼び戻して彼ら自身も遠退いていった。 それらを報告に上がっても、いつもあの女がいて旦那を惑わし事に及んでしまうため、俺様は話もままならぬまま追い出される。 真田十勇士の中には、天女を暗殺する話まで上り計画さえも立てられる程だった。 本当に、どうしようもなくて。 正気に戻す方法も分からなくて。 俺様も十勇士ももう心を閉ざしてしまおうと諦めた、その時。 「ふざけるのも大概にしなさい!」 一筋の、今にも簡単に消えてしまいそうだけれど心にふっと差し込む光が見えた、気がした。