小ネタ帳
此処は、お話に昇華出来なかった小ネタや、これからお話に昇華するかもしれないネタ達を書き留めた、所謂ネタ置き場です。主に、管理人の覚え書き処。名前変換物は*で表記。鍵付きについてはインフォページ参照。
▽刀さに(たぬさに)中編没ネタ3
第一本丸襲撃編開幕。見てみたら余裕で話一本分はある長さになってた。
没ったけどかなり長い内容だったので、以下は追記よりどうぞ。
【追記】
或る晩の夜中、ふと目を覚ました主が、本丸内に漂う異様な空気を察知して起き上がる。
その衣擦れの音と側に在った温もりが居なくなった気配に鋭敏に反応した俺も目を覚まし、すぐに頭を覚醒させてから尋ねる。
「……どうした、主。まだ夜中で、夜明けには早過ぎんぞ…。また夢見でも悪くて目が覚めたのか…?」
『…………違う…。』
「は………?んじゃあ何でこんな時間に起きてんだ。まだ寝てから数刻しか経ってねぇだろ…。」
主はすぐには答えなかった。
その様子を訝しんだ俺は、金の眼を鋭くさせて見遣る。
すると、小さく一言だけぽつり、と零した。
『………来る。』
…と。
俺は首を傾げて、その意味を問うた。
「あ…?来るって……何が…、」
そう問い質した瞬間、此れまでに見た事無い程に感情を削ぎ落とした顔で振り向き、言葉を返してきた。
『…………奴等が、この本丸に入ってきてる。』
主がそう発した途端、俺は目の色を変えて飛び起き、布団を蹴散らして側に置いていた刀を取った。
直ぐ様厳戒態勢へと入り、声を落として気配を殺した。
「……何処だ。」
『…………まだこの辺りの近くまでには来てないみたい…。僅かながら、不穏な気配を感じた気がしたから…反射的に目が覚めたんだと思う。……私、何でか昔っからそういうのには敏感だったみたいだから。』
気配を探り、異様な空気を発する対象の気配の居処を探る。
確かに、言われた通り、距離も離れた此処から遠い位置に居るらしい。
だがしかし、その気配は物凄く薄く、偵察値を限界まで上げ切っていた俺でも捉えるのがやっとだった。
たぶん、恐らくだが、短刀や脇差の奴等ならまだもう少し察知出来ると思う…。
各々の刀種差で生じる能力差に歯痒く思っていると、主が徐に寝間着にしていた衣を脱ぎ始めた。
俺が側に控えたままだというのにだ。
其れはもう恥ずかしげも無く盛大にがばり、と上半身を露にした様子に、俺は慌てて側にある布団にしていた掛け布を引っ張って目の前に翳して己の視界から隠した。
「な…ッ!?あ、アンタ…!こんな時に何してんだ…ッ!!気でも狂ったのか!?」
『うるさい…此れぐらいで騒ぐな、静かにしろ。…この緊急時に動揺して気が触れた訳でも、トチ狂った訳でもねぇから…落ち着け。』
「んな急に目の前で服脱がれて落ち着ける訳ねぇーだろ…っっっ!!………で?何でこんないきなり着替えなんかし始めたんだ、アンタは…。」
男の身を持っちまったせいか、男の本能としての質か。
どうしても目の前に映る主の、好いた女の生肌に目が行っちまってしょうがない。
なかなかに居心地の悪い気分だったが、何とか意識を別な方向に集中させて、主の躰から意識を逸らした。
そんな俺の苦労も知ったこっちゃない様子の主が、ぱさり、最後に上着を羽織って此方をちらりと振り返り見てきた。
『……万が一の為に、動きやすくしておく為だよ…。わざわざ隠して見ないようにしてくれてて有難う。…つって、俺の貧相で魅力の欠片も無い裸見たって何の得もしねぇと思うがな。起こす気も何も起こらねぇと思うし。』
何でこういう時だけ一丁前に男前になるんだ、と心底罵ってやりたくなった。
他人の気も知らねぇで…。
不覚にも、つい起き上がりそうになっちまった生理現象を、今直面している危機に無理矢理思考を切り換えて、何とか押し留める。
…この件が終わった後、覚えてろよ…っ、と内心で恨み言を吐いて、溜め息と共に吐き出し、喉まで出かかっていた不満を飲み下した。
本っ当、こういう時に限って恥じらいも何も捨てちまうから、此方が苦労する羽目になる…。
まぁ、寝間着のまま外を彷徨かれんのも堪えるか、と思い直して、一旦脳味噌を空っぽにした。
「で………?此れからどうすりゃ良いんだ?指示をくれ。」
『…たぶん、まだ他の子達はこの気配に気付いてない可能性が高い…。私は審神者としての加護があるから、先に気付けたんだろう。そうでなきゃ、気付けてないレベルの薄さの気配だ…。限界まで研ぎ澄ましてる神経のお陰かね…。一先ず、すぐにこっから移動しよう。母屋から離れて造られてるこの場所は、下手に居ると孤立しやすい場所になるだろうから…っ。このまま静かに気配を殺して移動し、一番近くに滞在してる警備の子に知らせよう。』
「こっから一番近くで待機してたのは…確か、前田か。」
『…あの子なら、練度も高いし、小さくて小回りも利く上に其れなりに機動も速いから、隠密行動するのには向いてる。知らせるには適任者だ。』
「…よし、なら手始めの策としては其れで行くとして…後はどう動く?」
『……ちょっと無理があるけども、倉まで行って作れる分の刀装、有りったけ作ってみようと思う…。』
「この状況下でか…?其れはちと無謀過ぎる策だろ…。」
『少しでも良い…っ、皆の戦力と守りを強化出来れば…全体的戦力が底上げ出来て、有利に動けるようになるかもしれない。そう考えたら、無謀過ぎるとも言えないでしょ…?』
息を潜めて言葉を発する主の表情が、緊張で固くなっているのに気付いた。
暗がりの中よく見れば、布団に付いた手元が微かに震えて、其れを抑え込むつもりか強い力で拳を握り込んでいた。
表情には出ていない…。
しかし、呼吸は極度の緊張からか、不規則に乱れていた。
必死で隠しているつもりか…バレバレの様だった。
俺は、不安に駆られる主を少しでも落ち着けてやる為、その手に己の分厚い掌を重ね、握り込んでやった。
咄嗟に、ギクリと肩を揺らした主が俺を見遣る。
緊張で冷え切り冷たくなった主の手を握り込んで、俺の体温を移してやるように温めた。
「大丈夫だ。アンタには俺が付いてる…。この後、戦闘で側を離れなきゃいけなくなるっつー事になるまでは、死んでも離れねぇから安心しろ。」
『……其処は、嘘でも良いから死なない方向で言ってよ…、馬鹿…っ。頼むから、この緊急時にんな縁起でもない事言わないで………ッ。』
そう言った主が、珍しく潮らしくなって俺に抱き付いてきたから、その自信げの無い頼りない背中を強く抱き締め返した。
アンタが俺達の大将なんだと鼓舞するように、いっそ苦しいくらいに力を込めて抱き締めた。
主が俺の服を握り締めて、訴えかけてくる。
『…お前の事だから…敵を見付けたら、一番に突っ込んでいくと思うのは分かってる…。いざ戦闘が始まったら、その先陣を切って攻めていく事も、理解してる…。だから、せめて…この一つだけは誓って。』
「…おう。」
『何があろうと、必ず生き延びる事を優先しろ…ッ。誰一人俺の刀で折れる事は許さない…!どれだけ最悪な状況に陥ろうとも、絶対に死ぬ事だけは許さないからな…ッ!もし、死ぬような事があったら…っ、お前の事、地の果て地獄まで追っかけて呪ってやるんだから………!!』
最早、恐怖に戦いてしまっている様を隠そうとはしていなかった。
キッと吊り上げられた眦から、透明な滴が僅かに滲み浮かべられていた。
戦を知らない、平和な時代から来たんだ。
いざ戦場を目の当たりにする事になったら、そりゃ怯えちまっても仕方ねぇと思った。
だが、ウチの主の事だから、気丈に振る舞って、無理にでも笑おうと努める。
俺達を安心させるべく考えて…。
そんな主を無駄に心配させねぇよう、俺は主の頭を一度軽くぽんぽんっ、と撫ぜて、次いで頬に触れ、眦の涙を拭ってやった。
「…アンタが折れねぇ限り、俺も折れねぇよ。其処だけはしっかり肝に命じてる。…だから、アンタも死なねぇように努めろ。万が一にも億が一にも、生きる事諦めて死ぬ事選ぼうとしたら、俺が叩っ斬ってやるからな。……アンタがこの本丸の主だ。アンタが居なきゃ、この先も過ごしていけねぇだろ?戦もねぇ平和な時代から来たアンタが、戦を怖がってる事は分かってる…。だが、覚悟を決めろ。アンタは、“俺達の主”だろ…?其れを理解したなら、次、俺がこの身を離したら言え。“俺達”をどう振るうのかを。」
死なねぇように努めろと言った瞬間、ギクリと動揺の色を見せた事には気付いていた。
だが、敢えて口には出さなかった。
アンタが過去に後ろめたい事があって、其れを気にして、一度はその生を本気で擲とうと覚悟した事があったという身だという事を…俺は密かに知っちまってるから。
故に、何があってもこの人だけは生かしてやらねぇと、守ってやらねぇといけねぇんだって思ってた。
今が、其れを真の意志で果たす時が来たんだ。
俺は主を支える、主の懐刀だ。
主の誇りと歴史を守る為、俺は鋼の実践刀らしく、その身を振るうのみだ。
戦こそが、俺の在るべき場所。
主には、戦場なんて血生臭い場所は似合わない。
だから、例え道を違える事になったとしても、この人を同じ道に引き摺り込んじゃいけねぇんだ。
覚悟を決めた主が、深く息を吸って面を上げた。
その顔に、もうさっきまでの憂いは無かった。
俺は、触れていた主の身を離した。
そして、代わりに傍らに移動しながら、濃口を切った。
「さあ、教えてくれや…っ。“俺の主”は、何を望む…!」
『…現在、本丸敷地内へと侵入中の敵の速やかな排除、及び殲滅をお願いします…っ。そして、絶対に折れぬ事を条件に、この戦が終わったらまた笑顔で顔を合わせられるようにする事…ッ、其れだけを望みます………ッッッ!!』
欲が無ぇ主らしい、文言だった。
「っしゃあ…、いざ出陣だぁ…ッッッ!」
主を引き連れて部屋を飛び出た俺は、そう高々に嬉々として吼えたのだった。
2020/07/18(04:17)
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