小ネタ帳

此処は、お話に昇華出来なかった小ネタや、これからお話に昇華するかもしれないネタ達を書き留めた、所謂ネタ置き場です。主に、管理人の覚え書き処。名前変換物は*で表記。鍵付きについてはインフォページ参照。


▽刀さに(たぬさに)中編没ネタ6。

本文襲撃編ネタ・その3。
このお話本編のつもりで書いてた。
審神者に使う予定だった設定を、呪廻短編の呪い持ち設定の子に使っちゃったし、何か設定色々練り悩んだ末「何か違うわ」となったので敢えなくボツに。
以下、書きたい部分だけ書いたお話(結構ガッツリめの長めなう)。


【追記】

『今剣ちゃん……ッッッ!!』

小さな彼の身に迫る強靭な槍の鋒を目にした途端、咄嗟な事に躰が動いていた。
今目の前に居る槍に彼の身が貫かれるかもしれないという、最悪な光景が一瞬にして脳裏に過ったからだった。
私は必死の思いで彼の元に駆け寄り、寸での距離で彼の事を突き飛ばす。
次いで、自動的に移った自身への標的を手にした得物で間一髪のラインで弾き返した。
受取箱から急ぎ持ち出してきた其れは、手に馴染み切っていない筈の得物であったが、武器となる物が無いよりはマシと構える。
少しでも戦えれば、今を凌げる。
彼が逃げるだけの時間が稼げれば良い。
その後は、どうなっても構わない。
己の刀を守る事が出来るならば、何だってやってやる。
敵槍が此方との間合いを計りながら、ジリジリとにじり寄ってくる。
たぶん、奴と対峙出来たとて、数撃躱すか耐えるかするぐらいが私の限度だろう。
相手が高速槍じゃなかっただけ幸いか、と皮肉にも笑みを浮かべた。
さぁ、どっちにしろ、私に逃げ道は無いぞ。
どう渡り合う?
数撃耐え抜けば、その間に彼の逃げる時間が稼げる。

「あ…、あるじさま………ッ!!」

迷ってる暇も無ければ、考えてる余裕も無かった。
故に、私は少し離れた処で転がる彼に叫んだ。

『逃げろ、今剣ちゃん…ッ!!此処は俺に任せて行けッ!!』
「でもっ…、それじゃああるじさまが……ッ!」
『良いから早く行け…!!俺が時間を稼いでる内に…ッ!!』

私が吼えたのを皮切りに、そうはさせぬと言わんばかりに切っ先が私を狙って突き刺してきた。
其れを何とかギリギリのところで防ぎながら叫ぶ。

『早く行けって……ッ!!俺の事は、放って良いからッ………!!』

切っ先を下に押さえ付けて鍔迫り合いの如くせめぎ合う。
どう考えても、リーチ差からしてみても此方側が不利なのは明らかだった。
俺が必死に発した声のお陰もあってか、後ろ髪を引かれながらも駆け出した様子の彼の足音を耳にした事で、少しばかり肩の荷が降りた気がした。
此れで、彼だけでもこの場から逃がしてやれる。
その安堵が油断に繋がったんだろう。
防御の手が緩んだ隙を狙った敵に、手の内にあった刀を弾き飛ばされてしまった。

『ッ、しまっ…!?』

弾き飛ばされた刀が遠くへ弧を描きながら吹っ飛ばされ、地へと転がる。
手首に走った衝撃に怯んでいる暇は無い。
武器が無ければ戦えない。
その事実に再び突き当たって、思わず顔を歪めた。
舌打ちが漏れ出るも、今は気に留めていられない。
急いで敵と得物との距離を測りつつ、一か八かに賭けようとその場から走り出す。

(クソ…ッ!頼む、間に合え…ッ、間に合ってくれ……ッ!)

疾走し始めた地点から、刀が転がってる地点まであと少し。
後ろは恐いから振り返らないが、きっと絶対に自身を追いかけてきている事は迫り来るおぞましい気配から察していた。
刀に手が届くまで、あと数メートル。
背後から尚も迫り来る恐怖に怯えながらも、必死に足を動かし走った。
そして、柄に手が届いた瞬間、背後で敵が得物を構える動作をした気配を感じた。
瞬時、身を転がして標的をずらし、自身も手にした得物を振り翳して応じた。
決着は一瞬で着いた。
ぐじゅっと嫌な音を立てて突き刺さる刃と迸る鮮血。
喉を堰登って口から溢れ出る赤い液体に咳き込むのと同時に、目の前に立ちはだかっていた敵の胸に己が刃を突き立てている事を確認する。
其れに、何とか残っている力を振り絞って引き抜き、敵の腹を蹴って数歩退いた。
もう戦意の残っていない奴の躰が傾いだと思った時には、自身を貫いていた得物が砕け、その身を霧散させた。
ほぼ相討ちであった。
力が抜けた手からずるりと落ちた刀が、がらんがらんっ、と耳障りな音を鳴らして転がる。
ふと見遣ると、手にしていた刀はボロボロに刃毀れしていて、一番大事な刃先の部分を欠けさせていた。
何時折れてしまったんだろうか。
敵の刃を防ぐので必死だったから、気が付かなかった。
其れにしても、仮の武器の為とはいえ、彼にはすまぬ事をした。
例え己と共にボロボロになったとしても、折る事まではしたくなかったのだが…この場合、致し方ない事か。
よろけた躰を後ろ背に付いた壁で支えながら、何とか体勢を保つ。
そうしていたら、ごぶっ、と今まで出した事の無い不快な音が鼓膜を震わせた。
腹に突き刺さる残っていた槍の破片の部分を引き抜けば、途端に溢れ出す生温かい血潮。
途端に芯から冷えゆく感覚が己を襲い、体勢を保つ事も出来なくなって膝からくずおれた。
重力に沿って地へとどしゃりと落ちる躰。
酷い有り様だった。
其処で、私は「嗚呼、自分は此処で死ぬのか…。」と客観的に思った。
人間とは、斯くもこんなに脆いものだったのかと。
死の感覚が迫るのをひしひしと感じる狭間で、頭では何処か冷静にそんな事を他人事のように思っていた。
己は、此処で死ぬのか。
何とも呆気ない最期(終わり)方である。
いざ自分が本当に死ぬという時になってこうもあっさりしているとは、何とも情緒に欠けている気がした。
だが、其れと同時に様々な感情が胸の内に溢れ返ってとぐろを巻いていた。
そうして、そんな思いの中に、或る一つの想いがぽつりと湧いて思考を占めた。

(あーぁ…別れ際、あんなにも堅く約束したのにな………やっぱり俺は、何処まで行っても運命の女神様とやらには見放されてるんだなァ…。結局のところ、刀の神様という付喪神様と約束を交わしたとて、俺は其れをまともに守る事も出来ない駄目人間だったんだ…。…“生きる”って約束したのに……約束、破っちゃって御免ね…たぬさん…………っ。)

次第に目も開けていられなくなる程意識が重くなり、僅かに繋いでいた筈の意識を手放す。
遠くで私を呼ぶ誰かの声が聞こえた気がしたけども、もうその声に応えてやれる程の気力も残っていなかった。
目が閉じてしまう最後に見た景色は、掠れた視界に映る、自身の血で赤く染まって汚れてしまった地面だった。
死に前の時になったら涙は出てくるもんだと勝手に想像していたけども、実際は涙を流す事なんて無かったのだった。
そして、本当の死の間際を前にしてふと最後に過ったのは、己の辿る惨めな運命についてであるのだった。

(ウチの家系が短命で長生き出来なかったのは…きっと、こういう事だったからなんだろうなぁ…。末代まで呪う“ヌシの呪い”には勝てない、ってか……まぁ、此れで呪いが絶たれるなら、安いもんだよね…。)

代々忌み受け継がれてしまった呪いは、自分の代で終わらせる――其れは、きっとこういう意味で合っているのだ。
呪われている宿命故に、始めから己は碌な死に方はしないと思っちゃいた。
全部全部、分かっていたのだ。
だから、きっと、この事態を招いてしまったのは自分のせい。
全て、己のせいなのだ。
巻き込んでしまった皆にはひたすら申し訳なく思う。
最期の最後まで呪い染みているとは、何とも言えない複雑な思いである。
しかし、其れが自身の末路なのだから、結局は受け入れるしかないのであった。

―時間にして少し経った頃、完全に意識を手放して地を赤く染めて横たわる私を抱き起こし、必死の形相で懸命に呼びかける者が居た。
其れは…皮肉にも、別れ際互いに生き延びる為の約束を交わした、たぬさんなのであった。

2021/02/28(14:22)

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