小ネタ帳

此処は、お話に昇華出来なかった小ネタや、これからお話に昇華するかもしれないネタ達を書き留めた、所謂ネタ置き場です。主に、管理人の覚え書き処。名前変換物は*で表記。鍵付きについてはインフォページ参照。


▽大天使ミカエル・U。

長文過ぎるあまり一つの容量に収まり切らなかった為、三分割したなる。
此方は、その内の二つ目。早い話が、2/3ページ目。
▼以下、小説本文続きなる。


【追記】

 翌日は、いつも通りの時間に起き、いつものようにルーティンをこなし、身支度を整え、きちんと朝食を食べ、出掛ける準備を整えたら、戸締まりを確認して家を出る。いつもの流れだった。最寄りの駅へ向かい、其処でいつも乗っている電車に乗り、会社近くの駅まで揺られていく。平凡な日常であった。今日は何事も無く、無事に歩道橋を降り切り、職場へと向かう。
 職場へと着いてからもいつも通りの日常で、代わり映えのしない一日を過ごした。時折上司の嫌味を聞きつつ、仕事に集中して、定時までにノルマをこなして、あっという間に退社時刻だ。今日は花の金曜日だからと、帰り際飲みに行かないかと友人に誘われたが、何だか連日の疲れが溜まっていて疲れ切っていた故に、丁重にお断りさせて頂いた。誘いを断った足で、駅へ向かうまでの途中のコンビニへ寄って、今夜の晩飯を購入しておく。今日は何だか疲れたから、帰った後に御飯を作る気力までは無い気がした。まぁ、面倒くさがりなせいで、いつも適当に済ませているけれども。
 いつも乗る時間の電車へと乗り込み、空いている席へと腰を沈める。最寄り駅に着くまでは暫く掛かる。私は、いつも通り耳へイヤホンを挿し込み、音楽を聞き流しながら目を瞑った。降りるくらいの時間になったらアラームが鳴るように設定したから、ちょっとくらい寝てしまっても大丈夫だ。荷物のリュックと買い物袋を抱え、私は揺られる心地に身を委ねた。
 其れから、幾ら経った頃だろうか……。分からないけれど、誰かの肩に凭れ掛かってしまっている感覚を感じた。真っ直ぐ下を俯いていた筈の頭が、体が、傾いて、隣に座っていた人の肩へ体重を掛けてしまっていた。このままでは、隣の席の人へ迷惑を掛けてしまう。私は浮上しかけた意識でそう思い、体を起こそうと相手の肩から頭を浮かそうとした。すると、どうしてか、相手の人に其れを遮られ、頭を元の位置に戻されてしまった。いやいや、このままでは、相手方に迷惑が掛かるだろう。再度試みようとしたが、頭に触れる手に押さえ付けられて動かす事は叶わなかった。何でだ。誰とも知れぬ人間に寄り掛かられるなど、迷惑でしかないだろう。けれど、頭を退かそうにも動かせないので、しょうがなくそのままで居るしかない。何より、眠気が頭を支配していて眠い。仕方なく、私は抗う事を諦めて、そのまま誰かの肩へ頭を預けたまま再び眠りの淵へと落ちていった。直前、イヤホンの外れてしまっていた片耳が何かしらの言葉を拾った気がしたが……眠気が勝って、聞き取れなかった。
「――Καληνύχτα, αγαπητή μου……. Θα σε ξαναδώ στα όνειρά σου. (おやすみなさい、我が愛しの人……夢の中でまた逢いましょう)」
 低く優しい囁き声は、いつの日か何処かで聞いた覚えのある声であった。眠気に負けて、其れを思い出す事は叶わなかったけれど。
 そうして、私は、短い夢を見た。例の夢だ。昨晩見る事の叶わなかった続きを、私は見る事が出来たらしい。外国情緒溢れる街並みを横目に進み、飛び石の架かる川辺を渡って、石畳の道をまた進んだ先に、夢でしか逢えぬあの人と唯一逢える場所がある。其処へ辿り着けば、陽の射す下で、彼が此方を振り向くのだ。そして、決まって彼から私を誘うように手招く。私は其れに導かれるみたいに石段を上って、彼の元へと辿り着く。そうして、彼に極上の微笑みを向けられ、体温を上げるのだ。
 彼は、私の手を引くと、静かに腕の中へと閉じ込めて抱き締めた。まるで、貴女と逢えぬ一時すらも惜しく、寂しくて堪らなかったのだと言う風に。情熱的に強く抱き締められた。彼の温度を感じながら、私は酔いしれた。またとなく馨る彼の匂いに包まれたのが嬉しくて。夢の中で、私達は暫し無言で抱き合ったまま、互いの温もりを感じ合った。
 そして、暫く経った後、ゆっくりと身を離した彼に促されるように私も身を離した。けれど、完全にその手は離さない。何故ならば、離れ難いからだ。だって、次にまた逢えるかは分からぬし、いつまた同じ夢を見れるかも分からない。私は不安になって、つい縋るように彼の衣服を掴んでしまった。
すると、彼は私の両頬を包むように上向けると、その美しき顔を近付けてきた。今回は、はっきりとその美貌の全貌を拝む事が出来た。陽射しを背に受けるが故に陰が出来て薄暗い視界だったが、彼の顔は確かに見る事は出来た。美しき金の御髪が微かに掛かった額に、宝石の如く輝く蒼い双眼に、薄く色付く形の良い唇。どれを取っても美しい以外の言葉は出て来なかった。私はその美しさにてられて、呼吸すら止めてしまった。其れに気付いた彼は、目を弧を描くように細め、そっと私の唇へ口付けてきた。
 触れるだけの其れは優しく、戯れのように過ぎないものだったが、私の呼吸が心の臓から止まりかけるには十分な衝撃であった。私は息を飲み、パクパクと無意味に口を戦慄わななかせ、驚きと羞恥を露わにする。しかし、其れすらも愛しいとばかりに笑む彼は、再びその表情を蕩けさせると、もう一度私の反応を見るように柔く口付けてきた。今度は、唇を食むようにして、である。私は本気で息の根が止まるかと思った。心臓が爆発するかと思うくらい激しく拍動して、上手く息が出来なくなる。息の仕方を忘れた魚みたく、あぶあぶとぎこちなく呼吸を繰り返した。段々と意識が薄れてきそうで、思わず彼の衣服を掴んでいた手から力が抜けると、崩れ落ちる前に彼の手が腰へと回ってきて、しっかと支えてくる。
 嗚呼、もう……私をどうしようというのだ。戯れのような軽い口付けすらも上手く出来ないで息も絶え絶えの状態で居ると、そっと顔を包み上向けてきた彼が恍惚とした表情を浮かべて笑った。そして、口を開いて、何言かを呟く。
「――Σχεδόν φτάσαμε, σχεδόν φτάσαμε. Μετά από μερικούς ακόμη γύρους, όταν θα νιώθεις άνετα με αυτό, μπορώ να έρθω να σε πάρω. Κλονόα μου, περίμενε και θα δεις. Είμαι σίγουρος ότι θα μπορέσω να σε πάρω σε λίγο. ……Αχ, αγαπητή μου. Θα σε αγαπώ πάντα, πάντα. (もう少し……もう少しだ。あと少し回を重ねて馴染んだら、貴女を迎えに行ける……っ。私のクロノア、待っていて。……嗚呼、私の愛しき人……っ。ずっとずっと愛しているよ)」
 いつかも聞いた、何処かの国の言語で囁く彼は、誰かの名前を呼んだ気がした。其れが誰の事かは理解出来なかったけれど……。私の目の奥を覗き込むようにして何言かを呟く彼は、少し怖かった。美し過ぎて恐怖を抱くなんて、有りがちな話だと言えばそうだったかもしれない。けれども、その一瞬だけ、彼から底知れぬ恐怖を感じたのは確かだ。どうしてなのかは、上手く言語化出来そうに無かったので何とも説明のしづらい事であったが……。
 彼は甘く微笑み、目を蕩けさせて私の上気する頬を撫ぜ、再び腕の中へと閉じ込めんとばかりに抱き締めてきた。私は其れに応えるように控えめに背へ腕を伸ばす。また耳元で何言かを囁く彼の言葉を最後に、私の意識は途切れた。正確には、夢から覚めたのである。

 ガクンッ、と落ちた頭に目覚めた私は、ハッとして自分は今何処に居るのかの現在地を確認した。いつも利用している時間帯の電車の中、客はマチマチといった具合の人数で、乗り込んだばかりの時は満員だった席も今やすっかり空いてしまってガランッ……としていた。そんな中、私は一つの席へ腰掛けていた。
 半分ずり落ち掛けていた荷物を抱え直し、手元に握り締めるスマホを操作して、現在の時刻を確認する。良かった……まだ乗り過ごしてはいなかったようである。私はホッと息をいて、今はどの辺りを走っているかを確認しようとして、次の停車予定の駅は何処かを調べる為にアプリを起動しようとした。そうして、顔を上げた際に、左側席の方から声をかけられた。
「――今は、■■駅と■■駅の間を走っているところですよ」
 ご親切にも教えてくれたその人へ礼を述べようと、左隣の席を見た。そしたら、思わぬ人物が座っていて、私は開きかけた口を閉ざす事を忘れた。
「今晩は、来栖。この時間帯に逢うのは初めてでしたね? いつも逢っていたのは、朝の通勤帯だけでしたから。またお逢い出来て嬉しいです」
「え……なんっ、は……えっ? ……ちょい、待っ……」
「ふふっ……そんな焦らなくても、貴女の寝顔は私しか見ていませんよ。来栖は眠る時、とても愛らしくあどけないお顔で眠られるんですね……? 其れはとてつもなく可愛らしく思えましたが、同時に私には大変無防備に映りました……。其れだけは頂けませんね。こんな公衆の面前の視線集まり晒されるような場所で無防備さを曝け出すなんて……餓えた狼の餌食にされても知りませんよ?」
「なっ……!? じょ、冗談はやめてください、ミハイル……!!」
「ふふふっ……すみません。つい、貴女と同じ電車に乗り合わせる事が出来たのが嬉しくて、柄にも無くはしゃいでしまいました……っ。お許しを」
「もうっ……お戯れが過ぎますよ……!」
「お詫びの印は、口付け一つで宜しいでしょうか……?」
「だ、だから、そういう軟派な真似もどうかと……っ!」
「貴女だけにしかこんな真似はしませんよ、来栖」
 急な真面目なトーンでの言葉に、開きかけた口をつぐまざるを得なくなる。私はむくれたように口を真一文字に引き結んで、「ふんっ……」と鼻息を零した。
「現在地を教えてくださり、有難うございました……。あと、肩を貸してくださった事も、感謝してます……っ」
「随分とお疲れのご様子でしたから……よく眠れたのでしたら良かったです」
「ミハイル、さんは……いつもこの時間帯がご帰宅時間なんですか?」
「先程のように“ミハイル”と呼び捨てしてくださって構いませんよ。私の方も初めから“来栖”と呼び捨てにしておりますし。……そうですね、その時その時でマチマチな事も多いですが……大体はこの時間帯近くに帰宅する事が多いかと。しかし、来栖と同じ電車となったのは、偶々の事かもしれませんね。これまで一度と同じ時間帯に乗り合わせた事がありませんでしたから」
「そうですよね。私の方も、ミハイルらしき人を見掛けた覚えは無かったので」
「来栖は、いつもこの時間帯の電車をご利用なさってるんです……?」
「定時に帰れた時は、ですかね。あとは、帰り際友人に飲みに誘われたりしない限りは。……実は、今日も花の金曜日だからって飲みに誘われてたんですよね……っ。でも、私、連日の疲れが溜まってるせいで酷く疲れていたので、断っちゃったんです……。だから、駅の途中でコンビニへ寄った以外は、真っ直ぐ帰路に着く感じですね」
「其れで、某有名店のプリントの入ったビニール袋を提げてらっしゃったんですね? 中身は、今日のお夕飯ですか?」
「まぁ、そんなところです……っ。たぶん、家に帰り着いた頃には、御飯作れる気力も残ってないかなぁ〜と思ったので」
「もしや、来栖は自炊が苦手な方ですか……?」
「あはは……っ、お恥ずかしながら……。そのせいで、ついつい適当に済ましがちなんですよねぇ……っ」
「いけません。食事はきちんと摂らなくては、貴女の健康を保てなくなります……っ」
「いやぁ〜、分かっちゃいるんですけど……疲れてると、どうしても適当にしちゃうというか、無精起こしちゃうんですよね……。はははっ」
「……貴女さえ良ければ、今度来栖のお宅へお伺いしても……?」
「えっ……?」
 突然の申し出に驚き、彼の表情を窺い見る。すると、真剣な眼差しを投げてくる彼が、私の左手へ掌を添えてきて、再び口を開く。
「何度も言いますが、私は貴女の事が心配なのです……」
「でも……私達、逢ってそんなに経ってないですよね……? 其れなのに、どうしてミハイルはそんなに私を気に掛けるんです……?」
「貴女にとっては、出逢って間も無い間柄のように思うかもしれませんが……私にとっては、そうではないのだという事をお忘れなきよう」
「えっ……? 其れって、どういう……っ」
 何とも不可解で奇妙な事を言い出した彼に、私は問い質そうと口を開いた。けれど、運悪くそのタイミングで最寄り駅へと着いてしまったのか、アラームを切っていなかったスマホのバイブが鳴り、車内にも目的地へ着いた事を告げるアナウンスが響き渡った。私は慌てて立ち上がり、急ぎ別れの挨拶を告げてホームへと降り立った。直後、背後より腕を掴まれて、咄嗟に振り返る。すると、何処か必死な様子の彼が私を引き留めるように腕を掴んできていて、私は慌てて足を止めて彼を促した。
「ちょっ……ミハイル、このままだと危ないから離して……!」
「また近い内に貴女へお逢いしに行きます……! ですから、どうか私の事は覚えていて……っ!」
「わ、分かったから! 忘れないから、手を離して……! このままだと本気でミハイルが危ないから、早く戻って……っ! 電車も出ちゃうし!!」
「ッ……、約束ですからね!」
 そう言い置いて大人しく車内へと引っ込んでいったミハイル。途端、ホームへは発車のアナウンスが鳴り響き、開いていたドアは閉まる。硝子越しに名残惜しそうに此方を見つめてくる彼を見つめ返し、聞こえないだろうが「またね」と口に出し、軽く手を振った。
 その内、電車は走り出し、次の目的地を目指して進む。何とも言い難い余韻を引き摺ってホームから抜け出て、駅を出て、帰路へと着く。
 彼の言いかけた言葉とは、一体どういう事なのだろう。そもそも、よくよく思い出してみれば、彼といつも逢っていたのは、会社近くの駅の筈である。帰りの電車が重なる事など、有り得ないのである。どうして、今日の電車は一緒になったのだろう……? 言い知れぬ恐怖が身を支配し始める。ぶるりと身震いしたのちに、考え過ぎだとかぶりを振って、いつの間にか立ち止まっていた歩を再開する。
(貴女、きっと疲れてるのよ……)
 そう思う事にして、いつも歩く道を気持ち早歩きで進みながら、帰宅した。今日は御飯を食べたら、さっさとシャワーを浴びて寝よう。寂しい一人暮らしの自宅へ帰り着くなり、手早く食事の準備を整えると、仕事着を着替える事もせずコンビニで買った今晩の夕飯にがっついた。そして、手短に食事を済ませると、腹休めをする傍らで化粧を落とし、スッピンに戻ったら服を脱いでシャワーを浴びた。この際、もう余計な事は考えまい。手早く汗を流し終えると、寝間着に着替え、髪を乾かしたり何たりして、さっさと布団に就く。
 今日は何だか疲れた。疲れた日には、さっさと寝に就くのが一番良い。いつもの週末なら、もう少し夜更かしして起きているところだったが、今日は早めの就寝に就く事に決めた。兎に角寝よう。体が睡眠を求めている。泥のように沈み始めた意識と体をそのままに私は深く眠りに就いた。至極疲れていたから、きっと夢も見る事無く眠る事だろうと信じていた。けれど、予想に反して、私の眠りは途中から浅くなったのか、また例の夢を見た。今夜くらい見ずに居れると思ったのに……。

 毎度の如く同じルートを辿ってくだんの場所を目指していく夢の中の私は、ふと途中で道を外れたらどうなるのだろうと考えた。一先ず、いつものように、飛び石の架かる川辺の場所までやって来る。しかし、その先を渡るか否か迷った。いつも行くべき場所へ辿り着くには、この場所を通ってからでないと行き着けない。だが、仮に渡ったからといって、その先の道を進まなかったら良いだけの事だ。
 私は一寸ばかり悩んで、飛び石を渡る選択肢を選んだ。けれども、私は初めてその先へ進むという選択肢から外れる行為を選んだ。最後の大きな飛び石の上に座り込み、靴を脱いで、裸足の足を川へと投げ出した。すると、冷たい水に触れてひんやり気持ちが良かった。偶には、彼の元へは行かずに、この静かな街並みの景色を楽しんでみようと思ったのだ。私を待っているかもしれぬ彼には申し訳ないが、誰にだってこんな風に気まぐれを起こしたりする事はある。現実でのモヤモヤを晴らすべく、気分転換も兼ねて私は自由を謳歌する選択肢を選んだ。
 木漏れ日にキラキラと輝く水面を見つめながら、ぱしゃりぱしゃり、足先で水を掻きながら子供みたいに遊ぶ。こんな風な戯れを起こしたのは、何時いつ振りだっただろうか……。懐かしき記憶を手繰り寄せつつ、私は遠い記憶の底で聴いた歌を口ずさんでいた。何処で聴いた、何の歌だったかなど、今やさっぱり覚えていないが、脳裏に深く焼き付いた記憶のメロディーを鼻歌に乗せて口ずさんだ。風がざわめき、木の葉が揺れる。川の中では、小魚が跳ねてぱしゃりっと水飛沫が上がり、波紋が揺らめく。風に乗って、気儘に口ずさむ鼻歌が何処かへと流れて響き渡っていく。
 どれくらいそうしていただろうか。そろそろ足が冷えて冷たくなってきてしまったな……と思い、水に浸けていた足を引っ込め、さて足を濡らしたまでは良かったが拭く物はどうしたものかと頭を悩ませていた時である。不意に、背後でガサリと草を掻き分けるような音を聞いた。振り返ると、其処には息を切らした風貌の彼が血相を変えて立っていた。もしや、お怒りを受けるのではなかろうか……。過った展開に、私は身構えて身を小さく縮めた。しかし、お怒りの声は一向にやって来る事は無く、代わりに心底安堵したかのような深い溜め息を零した彼は、胸を撫で下ろした後に、私の事を力一杯抱き締めてきたのだった。その事に、私は呆気に取られて……“何だ、結局はあの場所以外でも逢えるんじゃないか”と半ば明後日な事を思った。目一杯の力を込めて抱き締める彼は、心底心配したと言う風に私の存在を確かめるかのように肩へ顔をうずめた。
「どんなに待っても来ないから……っ、また手の届かない場所へ連れ去られてしまったのかとヒヤヒヤしたじゃないか……!」
「えっと……その、御免なさい……っ。無駄に心配を掛けてしまって……」
「貴女が無事で何よりだよ……っ! 嗚呼、愛しの君……頼むから、何も言わず私の元から離れていかないでくれ……!」
「御免、なさい……。まさか、貴方に其処まで心配を掛けてしまうだなんて思ってもみなかったの……。不安にさせてしまって、御免なさいね」
「そんな事はもう良い……っ! ただ貴女が無事で居てくれたなら、其れで良いんだ……!」
 もしかすると、必死で私の事を探し回ったりしたのだろうか。動悸の凄まじい彼とは反対に冷静で落ち着いたままの私は、しがみ付いて離れない様子の彼の背中をポンポンと叩き、まるで幼子をあやすみたいになだめた。そんなに必死になる程、私は彼の中で大事な立ち位置に居るらしい。其れが、何だか擽ったくて、気まぐれの悪戯を起こした事を詫びた。
「御免なさい、ちょっとだけ意地悪したくなったというか……揶揄ってみたくなったの。まぁ、半分は自棄を起こしての冗談半分のつもりだったのだけど」
「嗚呼……貴女は元からそういう人でしたね。全く……貴女の気まぐれに振り回される私の身にもなってください……っ」
「だから、反省の意も込めて謝ってるじゃない」
「反省の色がこれっぽっちも見える気がしないな……此れは、お仕置きが必要な流れでしょうか?」
「あらやだ、どうなさるおつもりなのかしら?」
 私はきゃたきゃたと声を上げて笑った。ついでに白状すると、いい加減苦しくて敵わない。そう言うと、彼は漸く腕の力を緩めてくれ、少しだけ身を離した。
「さて、どうしてくれましょうか……? この私を此処まで翻弄したんだ、同じ分翻弄されなくては気が済ませんねぇ……」
「んふふっ……どうかお手柔らかにお願いしますわ!」
「ふふふっ……では、この愛らしい唇へと口付けさせて頂くとしましょうか」
「あら、そんな事で宜しいんですの?」
「口付けだけでも、十分なお仕置きとなるでしょう? 何せ、私の愛しの君は、私の口付けに大層弱いみたいですからねぇ……っ。貴女が降参と言うまで、沢山口付けて差し上げましょう」
 途端、意地悪く笑った彼は、性急な手付きで唇を奪い、宣言通りお仕置きの体で私の唇を貪った。呼吸すらも奪うように深く深く口付けてきた彼は、舌を挿し込み、咥内を暴き、私の舌を絡め取るように吸い付き、啜った。慣れぬ行為に、私は身悶えしながら、彼の求めに応えようと必死になった。甘い吐息を漏らしつつ、彼に縋るよう彼へと腕を伸ばし、深く激しい口付けを享受する。
 本音を言うと、全く付いて行けず、息も続かなかったので、早いところで音を上げるように降参の意を示した。しかし、すぐには解放してくれなかった彼は、そのまま私の弱い口蓋を擽り、口付けを深くした。流石の苦しさに「ん゛ん゛ぅー……っ!!」という声を上げて彼の首元を強く引っ掻いた。すると、漸く唇を離してくれて、私は思い切り息を吸いかけ、ゲホゲホと噎せた。勢い良く息を吸い過ぎたらしい。ただでさえ涙目であったところに、生理的な涙さえ浮かんできて、眦を濡らした。その滴を、彼は愛しげに唇で掬って舐めた。
「もうっ、酷い……! 降参と言ったらすぐにやめてくれるんじゃなかったの!?」
「そんな事、私は一言も言っておりませんが?」
「屁理屈よ! ミカエルの馬鹿……!! 意地悪!! 意地悪な人は嫌いよ!!」
 今、私は何と言っただろうか。一瞬、今しがた自分が口にした言葉を疑った。今、私は、目の前に居る彼の名を呼んだのか……?
 私は自分の言った言葉に目を見開き、ハッと咄嗟に口を覆い隠した。そして、目の前の彼へ視線を移す。そしたらば、彼もピタリと動きを止めて、此方を凝視していた。やはり不味い事でも言ったのだろうか。私は一気に不安になり、顔面蒼白になって狼狽えた。
 そうこうオロオロとしている間に、我に返ったらしき彼に頬へ触れられ、ビクリッと盛大に肩を跳ねさせる。その反応に、少しだけ悲しそうな表情を作った後に、彼はいつもの柔らかな笑みを浮かべて微笑んだ。
「嗚呼……漸く、私の名を呼んでくださいましたね……っ。この時を、どれ程心待ちにしたか……!」
「えっ…………? どうして、名前を呼んだくらいでそんな大袈裟に喜ぶの……?」
「そんなの、当たり前に決まっているじゃないですか……! 愛しき人に名前を呼ばれて、喜ばぬ男は誰一人として居ませんよ……っ! 嗚呼、私の愛しきクロノア……っ、どうかもう一度だけ私の名をお呼びください……!」
「ん、んもうっ……そんな風に乞われなくったって、幾らだって呼んであげるわよ……っ」
 再び勢い良く抱き締められた事に、恥ずかしく思いながらも、そう口にして彼の名前を呼んであげた。
「ミカエル……っ、大丈夫よ。私はちゃんと此処に居るから……。これからはずっと側に居てあげるから……っ、どうか安心して頂戴な」
 不思議な事に、気が付いた時にはそんな言葉を口走っていた。その言葉が、どういう意味をもたらすかも知らずに……。彼は私の言葉を聞いて、涙すら溢して呟いた。
「嗚呼、良かった……っ。ちゃんと、私の事を覚えていてくださったんですね……! 良かった……! 貴女との繋がりが消えていなくて……っ、本当に良かった……!」
「嬉しいのは分かったから……っ、ちょっと力緩めて! 苦しくったら敵わないわ!」
「嗚呼、すまない、私のクロノア……! どうか許しておくれ……っ。貴女が私との繋がりを思い出してくれたなら、もうじき迎えに行ける時は近いよ……!」
「えっ……? 其れって、どういう意味…………?」
「時が来たら、また教えるよ……。ふふふっ……私の愛しき人よ、待っていてくれ。私が、貴女を迎えに行く時を――」
 そう愛しげに告げられたのを最後に、私は夢から目を覚ました。


 鼓動が、変に早く鳴り響いていて、五月蝿うるさい程であった。
 今度の夢で見た彼は、逆光を背負っていなかった事ではっきりと見る事が出来た。つい昨晩……いや、ここ数日逢った事のある“ミハイル”と瓜二つというくらいにそっくりな見た目であった。姿だけではない、全てが彼と重なるのだ。一体、どういう事なのだろう。どうして、夢の中でしか出逢えぬ筈の彼が現実の私に逢いに来る……? そもそもが、現実で逢う“ミハイル”と夢の中の君である“ミカエル”は同一人物なのか……? 私は混乱したまま、寝起きの頭を抱え、ベッドのふちへ腰掛ける。
 取り敢えず、空腹のままでは頭が働かない……っ。一先ず、ベッドから降りて、服を着替えよう。そんで、顔を洗って、適当に朝食を済ませよう。そう考えを付けて、一度トイレに向かい、用を足した後に衣服を着替えて、洗顔をしに洗面所へと向かった。手短に顔を洗った後は、化粧水を染み込ませて、肌に馴染ませる。其れが済んだら、適当に纏めていた髪を綺麗に整え、纏め直す。一つに結い上げ、くるりとお団子を作ったら完成である。
 ある程度身支度が整ったら、今度は朝食の準備だ。さて、冷蔵庫には何があっただろうか……。朧気な記憶を便りにするよか、じかにチェックした方が早い。私はキッチンへと向かい、徐に冷蔵庫の戸へ手を掛け、中身を確認しようと開きかけた。その瞬間、来客を告げる音楽がワンルームの室内へ響き渡り、盛大にビビる。
 私は情けない声を上げて、こんな休日に誰だ何だと思いながら、オートロックの解除用に備え付けられている受話器を取った。
「はい、何方様でしょうか……?」
『此方、来栖真希様のお宅で間違いありませんでしょうか……?』
「はい、合ってますが……あの、失礼ですが、何方様でいらっしゃいますでしょうか? どういったご用件でしょう?」
『……“ミハイル”と言ったら、通して頂けるのでしょうか……?』
「え…………っ、ミハイルが、何でウチに……? というか、何をどうして此処まで訪ねてきたの? 合法な手段の元ででしょうね、其れは。何をどうしたらウチの在処ありかが分かったのかは後回しにするけれど、一体何のご用でいらっしゃったのかしら? というか、昨日の今日でどの面下げて来たんだ、この詐欺師め……っ。否、大嘘きの法螺吹き野郎と言った方が宜しいかしら? 兎に角、そう簡単に通す訳が無いだろうが、ド阿呆……! オートロック舐めんなバーカ!! とっとと帰れ!! お前の顔なんて二度と見たくないわ!!」
 朝から飛んだ大声を発して、荒々しく受話器を置いた。ふんっ……オートロック式のセキュリティーを舐めてもらっては困るんだ!
 オートロック式のアパートでは、一階の玄関口で指定した階に連絡を入れ、部屋の主から解錠してもらえない限り希望の階にも部屋にも辿り着けぬというシステムになっている。故に、そう簡単に此処までやって来る事は出来まいと息を巻いて、再び朝食の準備に取り掛かろうとしていると、今度は玄関の方のインターホンが鳴らされ、盛大にビクつく。
 は……? 何で、どうやって突破したんだとの疑問が脳内を占めて固まっている内に、二重にロックを掛けている玄関の扉をガチャガチャドンドンと鳴らされる。次いで、インターホンの連打だ。このままでは近所迷惑と訴えられ兼ねない……っ。私は顔面蒼白になりながらも意を決して玄関へと走った。しかし、すぐには開けず、ドアノブを掴んだまま、僅かに外の様子を覗けるドアスコープの穴から外に立っている人物の姿を確認した。
 相手は、まごう事無く彼であり、昨晩駅で別れた筈の彼であった。何で、どうして。其ればかりが脳内を占める。私は恐ろしくなってきて、机に置いてきたスマホを急いで取りに行き、すぐにでも警察へ連絡出来るように110番の番号だけ打ち込んで、後は通話ボタンを押すだけにスタンバイさせた。
 私は息を整えて、チェーンロックだけは掛けたまま、ドアの鍵をゆっくり回した。途端、硬質な音がガチャリと響き、インターホンの無駄な連打とけたたましいノックオンが止む。次いで、ドアの向こうから、控えめな声で名前を呼ぶ彼の声が聞こえた。
「来栖……? 其処に居るのでしょう? 開けてください。私です、ミハイルです……っ。鍵を開けてくださったのなら、開けますよ? 良いですね?」
「余計な真似したら即110番でポリ公呼ぶけど、構わねぇよなぁ? だって、既にアンタは私の平穏を奪い去ってるんだから、私の生活を脅かしたという体で訴える事は可能だし、理由がそんだけありゃアンタをしょっぴける。其れを了承した上で下手な真似はしないって誓えるんなら、チェーン越しだが逢う事を許してやる」
「……分かりました。其れで、貴女が私と逢ってくださるのなら、構いません。お願いです、このドアを開けてください……っ」
「……妙な真似したら即叫ぶからな」
 そう宣言して、私は漸くドアノブに掛けていた手を動かし、ガチャリと僅かにドアを開く。その瞬間、開いた隙間に手が差し込まれ、開く限界のレベルにまで強引にガッと開かれた。当然、チェーンロックは掛かったままなので、ドアは其れ以上開く事は無く、鈍い音を響かせて止まる。但し、今のだけで恐怖体験は十分だったので、私は情けなくも「ヒッ……!?」という悲鳴を漏らして、肩を竦めてその場を後退した。その声を聞いたらしき彼が、チェーンロック越しの向こうで申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。
「驚かせてしまってすみません……っ。けれど、一刻も早く私は貴女の存在を確認しておきたかったのです……! 手荒な真似をした事は謝ります……っ。ですが、どうか怯えないでください……! 貴女が拒んでしまったら、私はどうしたら良いか分からなくなります……っ! 漸く出逢えたというのに……また、離れ離れになるだなんて、耐え難い事です……っ!」
「も、申し訳ないけど……っ、いきなり意味の分からない脅迫じみた事されてビビるなっていう方が無理な話だからな……!! ストーカーでももうちょいソフトな遣り口あっただろうよ!」
「ストーカー……? 私の存在を、そんな薄っぺらで軽薄な存在に例えないでください。私は、そもそもこんな下界でのさばってる程の存在ではないんですよ……? 此処へは貴女を探しに降りてきただけに過ぎません。もう二度と私の元から離しはしない為に、ずっと貴女を探し求めて彷徨っていたのですから……。ですが、其れももう終わりとなるでしょう。何故ならば、私が探し求め続けた愛しき貴女が目の前にいらっしゃるのですから……っ。さぁ、このチェーンを外してください、来栖。このままでは抱擁すら交わせませんよ? 其れでも宜しいのですか……?」
「いや、さっきから何言ってんだコイツ、としか思えねェーんですけど。マジやべぇーんすけど。電波も此処まで来ればイカれてら……っ。助けて我が友よ……私今超絶ピンチ。下手したら今日の夕刊か明日の朝刊に載っちゃうよ……。冗談抜きで助けて死にそう……ッ」
「さっきから聞いていれば……随分と荒っぽい口調ですねぇ? 何処でそんな小汚ない言葉を覚えてきたんです? ましてや、私に対してそんな言葉を吐くだなんて心外です。お仕置きという名の躾直しが必要でしょうか?」
「待ってコイツやばい、今躾とか言った、ガチでやばい、私死ぬわあの世行きだわ。グッバイ昨日までの私、短い人生だったけど、まぁ其れなりに楽しかったぜ。あばよ、コンチクチョウめ」
「待ちなさい! 貴女を一人で逝かせる事など、私が許しませんよ……っ!!」
「じゃあ今すぐその恐ろしい殺気を抑えろ!! 怖ェんだよ!! 今にもお前が私をくびり殺しそうでビビってんだよ!! 気付けよ!! その目は飾りか、ぁ゛あ゛!? よく見えてねぇんだったら眼科行け眼科ァッ!! 近場の良い眼科紹介したろか!? 其処で視力測ってから出直して来い、こんクソ野郎が……ッ!!」
 一気に捲し立ててゼーハーと息を切らす。やばい、うっかり大声でチンピラみたいな言葉シャウトしちゃったけども、此処アパートだったよ。どうしよ、後で苦情来たりとかしないよなぁ……?
 もう最悪だと思いつつ、手を付く壁際に凭れ掛かるように項垂れた。全く朝から何だってんだよ……。こちとらせっかくの休日を楽しもうかとしてたのに……って、今の今までぐうたら寝てただけですけども。夢の中の彼とならば、こうはならなかったのだろうか……。
 そんな事を思い浮かべ、不意に自嘲気味な笑みで以て否定の意を唱えた。夢は夢、現実は現実だろう。この若さで耄碌してんじゃないよ、と叱咤して深い溜め息を吐き出す事で切り替えようとした。
 だが、ふと気まぐれに興味本意からの言葉をポツリ、と呟いていたのだった。
「――ミカエル、……で発音合ってたっけ……? アンタの名前……本当は“ミハイル”じゃなくて、“ミカエル”って言うんじゃない? ……もし、仮に合ってたら、の話だけどさ」
「ッ……! もしや、全て思い出して……っ!」
「いや、アンタが何を言いたいのかさっぱりだけど……何か色々とすっ飛ばして迫ってきてたんだな、って事だけは理解したわ。こっちの気も知らないで、よくもまぁ強引に迫ってくれましたよねぇ?」
「そ、其れはっ……事実、そうでした……っ。私は、自分の欲ばかり優先して、貴女への配慮を忘れていました……。ですが、永き間ずっと貴女の事を探し彷徨っていた事は本当です……! 信じてください、と告げても……今の貴女は信じてくださらないでしょうね……っ」
「まぁ、そりゃそうだわな。いきなり迫られた挙げ句、訳分かんない事並べ立てられて恐喝されて? おまけに脅されまでしてみろよ。普通の人間なら死の字を思い浮かべるだろうな。あと、人間窮地に立たされると本性露わにするって知ってたか? 知らなかったんなら一遍学び直してこいや。取り敢えず、まずは私にしでかした全てを詫びろ。そんでもって、今まで犯したテメェの罪洗いざらい吐いて、其れを行ったに至る動機と理由を述べよ。事細かに説明受けるまで帰さんぞ、テメェ。そもそもどの面下げてノコノコと他人ん家訪問してるんすか、ぁあん? マジで今すぐポリ公呼ぶぞ、ボケナスが」
「今、自分の至らなさをひたすら痛感しております……っ。というか、貴女の其れは素だったんですか、そうですか……後できちんとお話させてくださいね?」
「どの口が言っとるんじゃ我、ふざけた口聞いてんじゃねーぞ、コラ。こちとら朝飯もまだだってんのに、こんなくだらねぇ茶番に付き合わされてんだぞ。いい加減キレ散らかすぞ?」
「えっ…………もしや、そのせいで滅茶苦茶苛付いてらっしゃったので……?」
「まぁ、その可能性もゼロとは言い切れないけれども……」
「でしたら、丁度良かったです……! 昨晩逢った時に自炊は苦手だと仰っていたので、良ければ私が作って食べさせて差し上げようかと、此処に来るまでの道中で買ってきた材料をお持ちしたんです……っ! 無駄にならなくて良かった……!!」
「え…………何? まさかわざわざその為にウチん家来てたって訳無いよねぇ……?」
「いえ、当初の目的第一は、貴女へきちんとした食事を食べさせる事でしたので……!」
「え、マジなのこの人……。じゃあ、さっきまでの遣り取り何だったの? 完全意味不なんですけど……。えっと、取り敢えず訊くけど、ミカエルさんはどれ程の腕前をお持ちなんです??」
「ミカエル、で良いですよ。まぁ、発音しづらければ、元の“ミハイル”でも構いませんが……。そうですねぇ、ざっと思い浮かべましたら、大抵の物でしたら難無く作れるかと。元々、昔から私の方が料理は得意な方でしたしね」
「ふぅん……じゃあ、簡単に手早く短時間でパパパァーッと出来ちゃうんだ?」
「軽食程度なら、数分もあれば事足りますよ? どうされます?」
 結果的、私はあっさりチェーンロックを外し、改めて彼を室内へと入る許可をした。私はドアを開いて中へ招き入れながら、憮然とした態度のまま口にする。

2022/06/26(12:06)

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