小ネタ帳

此処は、お話に昇華出来なかった小ネタや、これからお話に昇華するかもしれないネタ達を書き留めた、所謂ネタ置き場です。主に、管理人の覚え書き処。名前変換物は*で表記。鍵付きについてはインフォページ参照。


▽『飼い主と飼い猫な関係性。_ワタシの飼い主になってみませんか?と誘ったら、食い付いてそのまま離してくれません!』

▼メイン登場人物
・配信者:ルシフェル・ドラゴニア→本名:伊達龍人。尚、ライバー設定として、堕天使×ドラゴンという感じで、堕天したのちに竜族の者に拾われ育てられた故に、半神半獣みたいな存在であるらしい。ルシフェルの元ネタは、堕天使ルシファーより。恋愛観点からのみ言えば、一度惚れるとずっと一途。悪く言うと重く執着するタイプ。好きになった相手にはとことん尽くすタイプで、最終的には、どろどろに甘やかして自分以外の存在とは生きていけないところにまで落とす気満々である。ガタイが良過ぎて興味の無い相手以外には無愛想な為、見た目だけで判断するとモテがちに見られるが、実際はそうじゃない。故に、何方かというと、男ばかりにモテる(ノンケ故、遺憾の意)。年齢設定は、中の人と同じく(28)設定。身長:189cm。イメージCV:細谷佳正/阿座上洋介。配信日以外は基本的にバイトばかりで、●ーバーイーツでシフト時間中走り回っている。故に、鍛えられており筋肉ムキムキで、体力を持て余している。性欲は強めのむっつりスケベタイプ。好きなものは、猫や小動物とゲーム。
・配信者:入野エル/入野L(大天使ミカエルより)→本名:狩谷江実。尚、ライバー設定は、“人間になりたかった猫”という事から、猫族の獣人且つ亜人な設定。中の人の普段からの素をそのまま投影したキャラ作りをしている為、素で猫っぽい。曰く、特別キャラ作りしている訳ではないとの事。リアルに疲れたら人語を話す事を止め、猫語化する。恋愛経験値はゼロの超絶初心者な為、相手方には滅茶苦茶優しくお手柔らかにを求めている。体力が無いので、一度に求められ過ぎても途中で限界を迎える事間違い無しな部分を改善しようと模索中。年齢設定は、中の人と同期しているので(26)設定。身長:156cm。性欲は其れなりのレベルだが、全くの未経験者にしては強め傾向か(?)。何方かというとむっつりタイプ寄り。一度心を許し懐いた相手には甘えの姿勢を見せる事も。好きなものは、猫とゲームに歌と踊る事。バイト先では、源氏名として仮に“ミカ”と名乗っている(龍人命名/曰く、“天使みたく可愛いから”)。元ネタは、大天使ミカエルより。
・オカマ・スナック経営ママ、男鹿真千子(本名:男鹿真千夫)。龍人が上京した際に世話になった人。定期的に顔を出すようにしているらしい。彼曰く、めっちゃお人好しな善人な人。江実が上京してからのバイト先となる。営業は昼間〜深夜一時まで。午前中はカラオケ兼スナックで、昼に一度閉まった後、夕方過ぎからスナック兼バーとして開店する。ジェンダーレスの問題に理解有る心優しきママさん。
・常連客の金髪イケメン外国人、デイビット。新人スタッフとして入ったばかりだと言う“ミカ”の事を気に入っている模様。性に対してはバイセクシャルであると公言している。ママのお気に入りでもある。所謂、在日欧米人。年齢は(38)。密かに江実を狙っているらしく、龍人は警戒を抱き、ライバル視している。容姿モデル→リコリコの義正。
・正臣(28)。ライバー名は弄り無しのまんま“まさおみ”。愛称は“オッミー”。龍人の友人。腐れ縁ながらもずっとつるんでいる為、付き合いだけは長い。配信仲間でもある。実はゲーム意外にも絵が得意で、龍人のバーチャル像であるルシフェルのキャラデザを起こしてくれたのもこの人。2Dと3Dデザインも同じく。以前は顔出し配信していた系の人で、配信者の中では古株な方。普段何してるかというと、女装癖を持つ為、新しい衣装や装備が手に入ると定期的に龍人の元へ見せに来る。
・祐希奈(27)。江実の友人。ヲタク仲間。江実がライバーとして頑張っているのを常に陰で応援している。百合・薔薇どっちもイケる系のディープなヲタク。もし江実がやばい輩に付け狙われたりなどしたら、その時は自分が全力で守ると密かに思っている。その為、彼女に近付く野郎には兎に角警戒心剥き出しで接する。故に、のちに紹介を受ける龍人の存在を鬼警戒している。
▼以下、追記より物語展開。


【追記】

 始まりはこうだった。
 地元で活躍するには、弱小回線故にライブ配信が出来ない事を理由に、今より都会な場所へ拠点を移して再出発を図ろうとした。けれど、家事全般をこなすのが苦手な質である事を手前に、これ迄一人暮らしする事を避けてきた人間だ。だが、幾ら野良ライバーであろうと、一人前の正式ライバーとして活躍していく為には、何が何でも現状を変える必要があった。其処で、思い付いたのだ。“誰か自分の世話をしてくれるような物好きな人を、SNSを利用して募集しよう”――、と……。
 我ながら、なかなかに突飛でリスクの高い危険な賭けに出たものだと思った。しかし、その時ばかりは、『なんて閃きだ! コレは、今季最大級のナイスアイデアに違いない……っ!』と信じて疑わず、思い付いたが吉日を地で行うという愚行に走ったのだった。
 始めこそ、こんな馬鹿みたいなノリの提案に乗るような奴は早々居るまいと半ば諦め、遊び感覚で通知が来ないかと画面を睨んでいた。そうして、初ヒットで唯一この馬鹿げたクダラナイ話に乗っかってきたのが、のちの“飼い主”となる男だったのである。
『一人前のライバーとして活躍する為に、環境を整え直す意味でも上京する必要があります。その際に、自分とシェアで生活もしくは家事全般を担ってくれるような方、募集中です。性別は問いません。尚、自分は家事全般が苦手な旨を、予め此処に明記しておきます。お気軽にお声がけくださいませ!』
 そんな文章を自身のアカウントに投稿、及び上部に固定してから数日が過ぎ去った、或る日の事だ。
 殆どの荷物を纏め終え、後は必要最低限の物のみ現地調達を図れば良かろうと思っていた折だった。ふと、携帯を見れば、自身のアカウント宛にDMが届いているとの通知が来ているではないか。
「えっ、嘘だろ、マジで本当に釣れちまった系か!?」
 思わず驚きの声が口を突いて出るも、どうせ悪質な悪戯か何かだろうと疑いの目で、軽い気持ちでアカウントページを開く。すると、まさかの本当の本気でそのつもりな相手からのメッセージが届いていようとは、開くその瞬間まで思ってもみなかったのである。
 送られてきたメッセージには、こう記してあった。
『自分もライバーやってる系の人間です。丁度今、相方募集中だった事もあり、利害も一致してそうな貴女のメッセージを読んで応募してみました。ちなみに、自分の住んでる場所は都心部近くですんで、回線環境はバッチリです。一応、3Dモデル使用出来るくらいの広さは完備した部屋に暮らしてます。ので、一人くらい増えても十分な広さがある設計の家です。尚、当方自宅は賃貸ですが、防音設備も徹底してます。実況配信者向け設備も完備済みな環境です故、是非とも一度、ご検討の程宜しくお願い致します。』
 色々と気遣いの徹底した感じのメッセージだと一目で分かった。もし、此れで偽の釣り目的なだけの文章だったとしたら、余程の力の入れ様だと思った。
 漸く掴んだカモである。一先ず、そう簡単に逃げられては敵わぬと、一応は礼儀として返事のメッセージを送る事にした。
 返信用のDM文を頭で考えつつポチポチと文字を打っていれば、不意に、同じ相手から先程の文の続きと思しきメッセージが送られてくる。一度、文字を打つのを止め、データを仮保存して見れば、続きにはこう綴られていた。
『すみません! 先程送った文章に抜けてた項目があったので、追記になりますが、当方性別は男です! 一番大事な項目を伝え忘れるところでした! 本当にすみません……っ!! ちなみに、此方の相方募集の条件では、性別は不問でした。男性でも女性でも、はたまたどっち付かずのグレーゾーン(所謂性別無し)な方でも大歓迎です。改めまして、ご検討の程宜しくお願い出来たら幸いです。』
 追記文の最後には、謝罪の意味としての絵文字が飾られていた。
 まぁ、確かに、自身の募集項目に性別の件も明記していた為、最低限の情報告知としての事だろう。わざわざ抜けていた事に対しての謝罪も兼ねての追記を送ってきたくらいだ。相手は真面目で紳士なタイプの方なんだろう。こんなノリで募集をかけただけのクダラナイ物事に付き合ってくれようとしているのだから。
 一応は信用して良さそうだと判断し、打ち途中だった返信作業を再開して、正式に遣り取りを行う旨を伝えた。後は、相手の出方次第な為、空いた時間は各々好きに使わせて頂く事にする。
 生まれて初めて実家を出て行く事を感慨深く思いつつも、着々と準備を済まし、一人暮らしの用意を整えていった。
 それから、何度かの遣り取りを行って、一度お試し期間を設けるという目的で直接対面で会う事を取り決め。予定日当日、一週間程のお泊まりセットを携え、相手方が住まうという現地にまで足を運んだ。
 取り敢えず、いきなりお家へ窺うのも色々と早かろうと、最寄り駅で待ち合わせする事を選んだ江実は、如何にも都会な雰囲気漂う発展した駅周辺の景色を見て圧巻されていた。田舎も田舎でドが付くのド田舎暮らしに慣れ切っていたが故に、お試し期間とは言え、こうして都会らしい場所に出て来ると色々と興奮が抑え切れない思いだ。しかし、同時に、同じくらいの不安が渦を巻いて、彼女の身を押し潰さんともしていた。
 そんな気持ちと大きな荷物を抱え、待ち合わせ場所まで目指して数分。漸く駅構内を抜け出て、地元とは比べ物にならない程の広さに四苦八苦しながらも何とか出口へと辿り着いた。この時点で、何度か迷い、既に色んな疲労感から“お家帰りたいモード”を発揮するも、自分から始めた事だからと自らを奮い立たせ、改札口を抜けて広場を目指す。
 一先ず、事前に送ってもらった、今日のコーデ写真を元に同じ服装の人物を探す為、きょろきょろと首を巡らせて目的の人物を探した。すると、此方に気付いたらしき目的の人物が、気さくに手を上げ“コッチだよ”と示してくれた。有難いと思いつつ、パッと顔色を明るくして駆け足気味で駆け寄る。すれば、相手側の男性は些か申し訳なさそうに眉尻を下げながら口を開いた。
「御免ねぇ。今日、思ったよりも人が多くてごった返してて……っ。初めての上京で滅茶苦茶迷ったでしょ? 本当は、改札口の辺りでお迎え出来たら良かったんだけど、ただでさえ人が多いから、通行人の邪魔になっても不味いかなって思って。あと、人が多過ぎるせいで変にすれ違いになっても大変だったしさ……っ。そんなこんなで、広場を待ち合わせ場所に指定したんだけど…………。えっと……その、大丈夫……?」
「す、すんませんっ……一旦、水分補給する時間貰っても良いッスか? ……予想はしてたんですが、此処に辿り着くまでにめっちゃ迷って、カート引っ張りながら歩き回ったんで……喉渇いちゃって……っ」
「ぜ、全然良いよ! 寧ろ、いきなりそんな迷わせる程の場所に連れて来させちゃって御免ってくらいだし……! あっ、飲み物持ってないんだったら、良かったらこの小さめのペットボトルのお茶どうぞ!」
「あーっと、一応持参した分があるんで大丈夫ですが……この状況で受け取らないのも逆に申し訳ないんで、有難く貰っておきますね。今のが飲み終えたら飲ませて頂く事にします……っ」
「どうぞどうぞっ、遠慮せず水分補給してね……!」
 些か気まずい空気が漂いつつも、其れを払拭するように意識を切り替えた彼が、此方が落ち着くのを見計らって再び口を開く。
「改めまして……初めまして、俺が“ルシフェル・ドラゴニア”の名前でライバーやってる、伊達龍人だてりゅうじです。其方さんが、今回の募集を募ってたご本人様の、ライバー名:入野Lいりのエルさんこと狩谷江美かりやえみさん……で合ってる?」
「はい、自分が“人間になりたかった猫型亜人”というキャラ設定でバーチャルライバーやらせてもらってます、“入野L”こと狩谷江美と申す者です。自己紹介遅れましてすみません……っ。改めて、宜しくお願い出来ればと思います……!」
「此方こそ、俺からの要求も飲んで頂いて感謝してます……っ。こんな所で立ち話も何ですから、狩谷さんがもう大丈夫そうでしたら、移動開始しましょうか」
「初っ端からご迷惑お掛けしてしまい、申し訳ないッス……っ」
「ええぇっ!? 迷惑だなんて、そんな……! 俺自身は全然気にしてないんで、狩谷さんの方もどうか気を楽に……っ! というか、今更なんですが……呼び方って、“狩谷さん”って本名の苗字の方を勝手に呼ばせてもらってましたが、大丈夫でした? もし希望の呼び方とかあったら気兼ね無く仰ってくださいね」
「あぁ……っ、お気遣い頂いて有難うございます。呼び方に関しては、ライバー名でも本名でも、どうぞお好きな方で呼んで頂いて結構ですんで。逆に、コッチから其方を呼ぶ際は、何と呼んだ方が良い〜とかの指定ってあります?」
「あ、俺の方も、是非其方のお好きな呼び方で呼んで頂けたら嬉しいです……!」
「じゃあ、今のところは仮で“龍人さん”って呼ぶ事にしますね。苗字だと某芸人さんと被る気がして何かアレだったんで(笑)。あっ、名前呼びアウトだったら言ってくださいね。代わりに別の呼び方考えますんで」
「はぁいっ。特に不満とか無いんで、俺に対しての呼び方は其れで。じゃあ、俺の方も慣れるまでは現状維持という事で、“狩谷さん”呼びで行こうと思いますー。改めて宜しくでーすっ」
「此方こそ、今日から正式に色々とご厄介になりますーっ。お手柔らかにお願いしますね」
 お互いに対面での自己紹介を済ましたのちに、彼の自宅から一番近いという最寄り駅からの移動を始める。
 通常のお出掛け用バッグとは別に、一週間分のお泊まりセット込みの大荷物も携えての移動となるからか、既に長時間の電車移動で疲れている事を気遣ってくれ、キャリーの方は彼が持ってくれると言ってくれた。此れに、有難い申し出だと受け入れた江美は素直に頷き、感謝の言葉と共に腰の低い態度で受け渡した。
 そんな彼女の調子に、小さく笑みを零した龍人は改めて口を開く。
「狩谷さんって、思っていたよりも真面目で丁寧な方っつーか、腰の低い方なんすね? あっ、今のは別に揶揄とか馬鹿にしたとかって訳ではなく、純粋に感心を抱いた故での感想みたいなものだったんで、どうか誤解無く……っ」
「えっ、今のでそんな風に受け取られました?」
「思いました思いました……! 決して悪い意味じゃなくて、良い意味の方向で! 何か、これ迄の主にメッセージだけの遣り取りの上だけでも、凄く真剣に真面目に物事と向き合われる方なんだなって思って、密かに好感持ちながら接して頂いてもらってましたし」
「え〜っ、自分そんな好感持たれる程良い人間振ったりもしてないッスよ……? 普通にそのままの自分で通してるだけッスから……っ。まぁ、いきなり嫌われたくはないんで、ある程度自分を抑えて猫被ってはいますけど」
「あっ、やっぱり多少は緊張してる感じだったりします?」
「ぶっちゃけ、現在進行形でクッソ緊張しまくってます……ッ。自分、元々緊張しぃの気にしぃなタイプなんで……初対面の人にはめっちゃATフィールド全開で接するようなコミュ障人間なんッスよ……っ。ので、もし失礼に当たったりとか変な間作っちゃったりとかしても、大目に見てもらえたら有難いです……!」
「いや、めっちゃ良い人じゃないですか……! そんな気にしなくても、お試しとは言え、これから一週間一緒に暮らす相手なんすから、もっと気楽にしてください! まぁ、色んな意味で初めての事過ぎて緊張すんのは俺も同(おんな)じッスけどね! なんで、もっと肩の力抜いてくれて大丈夫ですよ」
「じゃ、じゃあ……もうちょい普段の時みたく力抜いていきますね……っ。ところで、ちょっと話変わるんですが、前以てお伝えしてたように、自分……普段から一人称“俺”とか言ってるような奴なんすけど、本当に大丈夫です……? 性別上も見た目も女なのに、男みたいな口調で喋ったりとか……平気ですか?」
 会話する傍ら、ずっと気にしていた事をおずおずと切り出してみれば、思ったよりもあっけらかんと受け入れてくれたらしい彼からは、意外にもあっさりとした回答が返ってきた。
「其れくらい、別に問題にも思ってないっつーか、率直に言って気持ち悪いとか全然思ったりとかしてない感じでしたんで。俺としちゃあ、もっと楽に素の感じ出してもらえた方が嬉しいかなぁ〜……とかって風に思ってます! 勿論、無理にとは言いませんけど」
「……龍人さん、めっちゃエエ人やん……っ」
「ええっ!! 何で!?」
「だって、こんな奴に対してひたすらに優しいお言葉をかけてくださるんで……っ。あんな巫山戯ふざけた募集かけた張本人にも関わらず、此処まで真摯に対応してくださるとか、エエ人以外の何者でも無いですやん……? 感謝しかねぇじゃん、有難や有難や……っ」
「ぷっ……あはははは! 狩谷さんってば、めっちゃオモロ……! 俺がこんなに尽くしてるのは、仮にも同居人となるのに警戒解いてもらえないのは悲しいからッスよ……? 当然の話じゃないです?」
「やっぱ龍人さんエエ人な印象揺らぎませんわぁー……っ。あと、今更言わせて貰いますけんど……背ぇ、めっっっちゃデカイッスね? 一応、事前に大柄な体躯だって事は聞いてましたが……直接会ってみて改めてデッカッッッと思いましたもん。俺がマジで見上げるぐらいの差ァありますけど、身長幾つぐらいあるんです?」
「んーっと、最後に測った時の記憶で良いんでしたら……優に180cmは超えてましたかね。狩谷さんの方は幾つくらいですか?」
「えっと……たぶん、155cm以上は確実にありまして……でも、どう考えても160cm未満なんですよ。本当は160cmくらいまでは伸びる予定だったんですがね〜……その手前で止まっちまった感じです。正確に測ったのが十年以上昔の学生ん頃が最後以降全くですんで、曖昧な情報ですんません……っ」
「いやいや、気にしてないから良いですよー。其れにしても、160も無いくらいなんすねぇ……道理で小柄で華奢な風に見えた訳だ。俺は、そのままでも可愛いと思いますよ? 愛玩系ぽくて」
「へっ? 愛玩系ぽい、とな……? 初めて言われたな……」
「ふふふっ。とりま、今みたいな感じで徐々に素を出していく感じで、より親しくなれたら幸いですっ」
 そう会話を締め括った龍人は、軽くマスクを顎下にずらし歯を見せて笑って見せ、彼女の警戒を解こうとなるべく空気が固くならないようにと努めるのだった。

 ――そんなこんな他愛無い会話を交わしながら歩くこと数十分。
 元々の目的であった彼のライバーとしての拠点、もとい自宅へと辿り着いた。
 彼の自宅は、賃貸のマンションの一角で、オートロック式となっている場所であった。
「俺の借りてる部屋は、此処の六階の真ん中辺りの部屋です。荷物もあるんで、エレベーター使って上がりましょっか。エレベーターは、玄関から入ってすぐんとこありますから」
「おぉっ……此処はオートロック式になってるんですね。防犯対策はバッチリっすね……!」
「ははっ、まぁ都会の女の一人暮らしって事だったら、オートロックだけじゃ心許なかったかもしれませんけど、今回は俺が一緒ですんで。何か起こる云々の前に、俺にビビってやらかす輩も出て来ませんから。なんで、防犯観点については安心してください」
「心強いッス……!」
 何気無い言葉を交わしながらエレベーターへと乗り込み、階を指定して上昇する。その間も、然り気無く此方へ気遣う素振りを見せた龍人が口を開く。
「特に何も訊かずに利用しましたが、狩谷さんってエレベーター平気でした……? 人によっては、閉鎖的空間が駄目な人とかも居るんで、一応訊いときますけど」
「あっ、普通に利用する分には大丈夫です。でも、三半規管弱めな質だからなんすかね……長く乗ってると、降りた時ちょっと頭の奥がくわんくわんする感覚を覚えて、ちょっぴり苦手です……っ。便利な物なんで普通に使ってはいますけどね」
「あー……となると、狩谷さん、もしかして乗り物酔いとかする系だったりします?」
「しますします。空腹時だとか体調の悪い時は特に……! 電車とかは比較的乗り慣れてて平気なんですけど、車ってなると窮屈になるせいか、乗る側の場合のみ油断してると酔います……っ。運転する立場だと何ともないっつーか、運転に集中する余り他に意識割けないせいでしょうが」
「じゃっ、今後は今のを参考に動いていきますね」
「ちな、先に言っときます……っ。俺、あんま運転得意じゃない方です……! 車の運転出来なくはないんすが、地元付近の田舎町とかしか走った経験無いんで……首都圏とか高速とか、控えめに言って無理ッス。あんな車線多いのとか、スピード速く出すの怖くて無理……ッ。代わりに、山道とかならまだギリ行けます……!」
「はははっ、事前宣告有難うございます……! 今のところ、狩谷さんに運転頼む方向で考えてはいなかったので、ご安心を! せっかくのお試し期間ですからね……少しでも良いとこ見せたいですし、あわよくば、其れで惚れてもらえたらなぁ〜なんて下心抱いてるぐらいですからっ(ハート)」
「えっ……今、にゃんと……」
「あっ、着きましたよ。目的階の六階です。狩谷さんからお先にどうぞ。俺、ドアの方押さえてるんで。出口、足元気を付けてくださいね」
 ナチュラルにストレートなこなしで紳士に振る舞う龍人の立ち居振舞いに、今のところ、彼女の中での好感度は上がりっぱなしであった。
 エレベーターで目的階にまで移動して程無く、本当に本当の彼の自宅前へとやって来た。エントランスで使った後、一度ポケットへ仕舞っていた鍵でガチャリと開錠し、ドアを開いたのち中へ誘うように手招く。
「さっ、どうぞ。此処が、正真正銘俺の自宅兼ライバーとしての活動拠点となってる場所です」
 此れから先、足を踏み入れたら最後、後戻りは出来ない。
 江実は意を決したように息を吸い込んで、緊張した面持ちでそろりと足を踏み出した。
「お、お邪魔しまぁ〜す……っ」
「そんな恐々緊張しなくとも……っ、会ってすぐいきなりで獲って食ったりなんかしませんよ?」
「いや……初めて来る場所ですし、逆に緊張するなって言う方が無理ゲーっていうか……そんな感じで!そもそもが、こういった形で異性の方のお家へ上がった事自体初めてっつーか……」
「へぇ……其れはなかなかに良い事を聞いたな……っ」
「えっ……?」
「あ、やっ、何でも無いです! コッチだけの話でしたんで、気にしないでください! えっと、此方の荷物は……取り敢えず、居間の出入口付近にでも仮置きしちゃいますね。此処に来るまでで疲れたでしょうから、今日はもうゆっくり休んじゃってください。その他の事については全部明日からって事で……! 今お茶出したりとかしますんで、その間、狩谷さんは先にリビングのソファーで寛いでてどうぞーっ」
 そう言って笑う龍人の背後では、ガチャリと施錠する硬質な音が鳴り響くのであった。
 運命の歯車は既に動き出していたのである。
 知らぬ間に囚われの身となっている彼女は気付かない。のちに己の“飼い主”となる男のテリトリーから、既に逃げ出せぬ身となっている事に――。

執筆日:2023.04.07

2023/05/16(04:15)

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