小ネタ帳

此処は、お話に昇華出来なかった小ネタや、これからお話に昇華するかもしれないネタ達を書き留めた、所謂ネタ置き場です。主に、管理人の覚え書き処。名前変換物は*で表記。鍵付きについてはインフォページ参照。


▽『君に乞う物語/争いパァチィ』。

一人と一匹の喧嘩回。
単なる母親の取り合いっこしてるだけ。作者大好きママ大好きな二人。でも、喧嘩が激し過ぎれば言葉の応酬も凄い二人。ママには内緒の罵詈雑言。ママの前では慎ましく大人しくしてるけど、二人きりになった瞬間剣呑とした空気になる。二人だけの時だけ口悪くなったら最高かな(笑)。ビジネス仲良しフレンド。但し、利害が一致している時限定で本気でタッグを組む仲。ママに害為す敵は皆殺しな、超絶重めな愛情で以て慕う。軽く物騒極まりない子達である。放任主義ではない為、ある程度は躾済み。度が過ぎればお叱りが飛ぶ。

◇◆◇◆◇◆◇◆

 ――今回は、そんな二人と一人が織り成す日常話である。


≫≫≫争いパァチィ≪≪≪


 偶々、同じ方向を目指していたのだろう。ふと、かち合ってしまった一人と一匹の存在は、「あっ」という風に視線を交わらせた。実際には、互いに声を発してはいなかったが、表情が心中の感情を如実に語っていた。
 途端、一人と一匹は剣呑な空気を醸し始める。此処で会ったが百年目とでも言うように、親の仇かというぐらいな殺気を飛ばし合って牽制し合う。この二人(正確には一人と一匹だが)は、いつもこうなのだ。目を合わせる度、喧嘩腰で睨み合い、何方が上かを競い争うのだ。何も勝負する必要など無いのに。だがしかし、二人は生まれた頃よりこうである。恐らくは、生みの母親を取り合う子供と一緒なのだろう。少なくとも、端から見ての構図はそうであった。
 いつもは閉じている眼を開いて、鋭くすがめた眼光を飛ばす黒猫姿のメイドが、先手を取るように口を開いた。
「ハシビロコウみたいな仏頂面した朴念仁が、ワタクシの可愛い子猫モン・シャトンを我が物顔で独占しないで頂けません事?」
 此れに、同じく人をも殺せそうな程の睨みを利かせた全身真っ白な男が応じてみせる。
「口の減らない雌猫如きが……後から創られた分際で生意気な口を利かないでもらいたい。控えめに言って、実に不愉快だ。我が主のお耳に入ったらどうするつもりだ? 所詮は家畜に過ぎない畜生風情が、出しゃばるんじゃない」
「まぁっ、畜生だなんて! 失礼極まりない発言ですわ! 此処まで女性レディーに対しての扱いが全くなっていないとは、先に創られた癖して、聞いて呆れ返るとはまさにこの事! そもそも、ワタクシはご主人様の愛玩専門で創られた存在です故、任されたお役目自体が異なりますわ。其れすらもご理解なさっていないとは、ワタクシとやり合う前にもう少しおつむを鍛えてからになさっては……?」
「言わせておけば、べらべらと閉じない口だな……ッ。良いだろう、貴様のお望み通りに八つ裂きにしてくれるッ……!」
「では、此方はワタクシの鋭い爪をお見舞いして差し上げましょう。オイタの過ぎる子供には躾が必要ですものね。覚悟なさいませ……!」
「――もう〜止めなさいってば……見苦しい」
『!』
 このまま放っておけば、確実に喧嘩勃発からの熾烈なバトルのゴングが鳴り響いていただろう。しかし、其れに堪え兼ねた一人の女が、二人の間を割って入るように口を挟んだ。突如仲裁に入られた声に、二方はハッとして声のした方角を見遣った。我等が作者、二方の生みの親であり、創始者たる人物であった。
 女が現れるなり姿勢を正した二方は、態度を改め、慇懃にも頭を垂れる。
「此れは失礼致しました、マスター。みっともない姿を曝してしまいましたご無礼を、どうかお許しくださいませ」
「嗚呼、ワタクシの可愛い子猫モン・シャトン、御免なさいね。何も本気で殺り合おうとしていた訳ではないの。どうか哀しまないで?」
 先に口を開いたのは男の方――白亜の騎士の方であった。忠誠を誓いし騎士の如し立場を弁え、控えめな態度で謝罪を述べた。其れに倣うようにお淑やかに頭を垂れた黒猫の婦人――黒耀の給仕婦も、同様に謝罪の言葉を口にした。しかし、此方は些か茶目っ気を帯びた口調であった。
 今の言葉から察するに、誰も仲裁に入らなかったら本気で殺り合うつもりだった様だが、マジなのか……。なかなかに恐ろしくはあったが、勇気を出して止めに入った甲斐があったようで何よりだ。
 最早慣れた事ではあるが、何故か喧嘩っ早い二人の性格は誰に似たのやら……。十中八九、自分に似たんだろうなと、作者たる上より理解していた女は、呆れの態度を隠さずに本音を零した。
「少しは仲良くする努力をしようね、君達……」
「…………ハイ、出来る限りは善処致しましょう……」
「……我が愛しのご主人様が仰るのですもの、努力は致しますわ」
 顔を会わせればいがみ合うばかり。どうしてこうなったのやら。彼等の創始者たる作者が口を開けば、一応は大人しくしてくれる様ではあるが、目を離したらまた先程のようにいがみ合うのだろう。今は互いに作者の前だから控えているようだが、どう見てもわざとらしい。明らかにぎこちない笑みを浮かべてにこりと笑ってみせている。だが、返事が嫌々とした雰囲気丸出しであった。分かりやす過ぎか。
 女は、深々とした溜め息を吐き出しながら言った。
「今の答えるまでにすっごい間があったな……。馴れ合うの、そんなに嫌か? 君達本当にお互いを毛嫌いしてるよね……。どうしてこうも相性が悪くなってしまったのやら、同じ作者から生まれた存在の筈なのに、不思議でならないわ……っ」
 別に、激しい喧嘩にまで発展しない限りは、あまり咎めるつもりは無いのだ。けれど、あまりに目に余る光景が続くようであれば、考え物であるというだけ……。一先ずは、ちょっと間を空けてから、ボソリと呟いてみた。
「……私自身は、ちょっとは仲良くしてくれたらなって思うのだけど……まぁ、無理強いは良くないよね。何事も向き不向きとかの相性はあるんだし。仕方ないよね。人間ですら同族同士で争い続けるんだから……諦めるしかないか……っ」
『!!』
 途端、ギュルンッと効果音が付きそうな勢いで此方を振り返った一人と一匹。もう一度言う。分かりやす過ぎか。あからさまに落ち込んだ風な憂いのオーラを纏ってみせれば、先程の険悪ムードは何処へ行ったのやら。必死な態度で謝罪と共に縋り付いてきた。手のひら返しが過ぎないか……、とは思ったものの、敢えて口にはせず黙っておいた。
 そうこうしていれば、側まで駆け寄ってきた白亜の騎士が目の前へかしずき、ソファーに付いていた己の手を取って悲壮感すら漂わせて口を開いた。
「誠に申し訳ございません、マスター……! まさか、その様にお心を痛めておいでとは露知らず……っ。察しが至らず、面目ありません……!」
 さっきまであんなに険悪ムードで睨み合っていたのに、不思議かな。女が憂う様子を見せた拍子に、此れである。いっそ愉快ですらあるだろう。白亜の騎士が傅けば、其れに続くように同じく側まで寄ってきた黒耀の給仕婦も、隣の空いていたスペースへ身を滑り込ませるなりしなだれ掛かるように寄り添ってきた。
「嗚呼、お痛わしや……! どうか泣かないで……っ、ワタクシ達が悪かったわ! だから、そんな風に俯かないで……!」
「いや、これっぽっちも泣いてなんかいないけど。何で君達ってこういう時ばかりは仲良いの? タイミングバッチリかよ。以心伝心が凄過ぎて逆に吃驚だわ」
 最早、突っ込まずには居られない流れであった。仲良き事は、善きかな善きかな。

執筆日:2023.05.13

2023/05/16(06:33)

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