惚れたら最後は落ちるだけ


「四郎ってさ…初見で見た時から思うけど、凄く顔が良いよね」
「はい………?」


 ちょっと暇が出来たから、二人で和やかな午後のティータイムこと小さな御茶会を開いていた、その真っ只中。
ふと思った事をそのまま口にしたら、彼は疑問符を浮かべて首を傾げた。
まぁ、何も説明されずいきなりそんな事を言われれば、誰だって同じ反応を返すだろう。
須桜は気にせず会話を続けた。


「要は、めちゃくちゃイケメンだよね、って話…。羨ましいくらいに顔整ってるよねぇ〜。嗚呼、本当羨ましい…。それでいて中身も紳士で格好良いとか何よ?最強かよ。無理、好きになる要素多過ぎる…」
「それはそれは…私には勿体無きお言葉ですね。お褒めに預かり光栄に存じます。この容姿に産んでくれた母に感謝しなければなりませんね。――と言っても、今は私もサーヴァントの身。生前人であった頃の事になりますがね」
「最早そこよ、そこ」
「はぁ…?」
「まだ成熟しきれていない十七歳という幼い見た目に反して、中身の年齢は+して六十年以上の年月を経てる…。此れに滾らずに居られると思う…っ!?否、理性の緩い私には無理だわ!だって、昔からの好みにめっちゃ一致してるんだもん…!!可愛い見た目で意外と確りしてる、だけどやっぱり何処か放っとけない感あるとことかさぁ…っ!!まさに、私の好みドンピシャなのよぅっっっ!!」
「えぇっと…今のには何と返して良いのやら、ちょっと反応に困ってしまいますね。…でも、マスターである貴女からそう言って頂けるのは有難い話です。私は、今の話を貴女の口から直接聞けて嬉しいですよ。男足る者…やはり女性に好かれるというのは嬉しい限りですから」


 二度目の疑問符を浮かべた反応を返すと、反応に困るというか返す言葉に詰まるというか、そんな感じの言葉を貰った。
その言葉は純粋に嬉しかったが、些か照れくさいというか、気恥ずかしいものがある。
てらいも無くぶっちゃけてきた彼女の其れにも少々驚いたものだが、内心もっと驚いたのは、彼女が自身に好意的な感情を寄せてくれていた事実である。
 須桜はカップを避けた横でテーブルに突っ伏しながら話を続けた。


「まず四郎に逢って思ったのが、“あ、コイツの顔、一昔前の私だったら惚れてたな…”だったし。その後思ったのが、“今の好み違うから無いかもしれないけど、もしかすると好きになる、もしくは惹かれてしまうかもな…?”だったもんよぉ…!ものの見事当たっちゃったよね!!私の自己分析から出した推測ぅ!!落ちてしょうがない感半端無くて何か悔しい…っ!でも、やっぱり自分の好みのタイプあんま昔から変わってなかったんだな、って分かってちょっとだけ嬉しいようなもだもだするようなぁ〜…!……うん。此れは萌え要素多過ぎて禿げる勢いで爆発しそうになっても仕方がないかな…!?いっそ諦めて素直に認めちゃえば良いよねっ!!是非もなし…っっっ!!」
「――うん…?誰か儂の事呼んだ〜?今、是非もなしって聞こえたよね?何じゃ何じゃ、恋バナか…?儂も混ぁ〜ぜてっ!!」
「あ、ノッブだ。やっほ〜。只今絶賛午後のティータイムならぬ小さな御茶会開催しとりますけど、混ざります…?」
「うむ…!此処で逢ったも何かの縁よ!楽しそうだから儂も参加する〜!」
「どうぞどうぞ〜。御茶会は二人より三人、三人より四人って人数が多い方が楽しいからね!」
「そうですね。良ければ、此方のお菓子も召し上がって行ってください。赤い弓兵さんからの差し入れです」
「わあっ!儂の好きなお菓子じゃ!!やったあー!!」
「良かったね、ノッブ〜。後で御礼と感想言っとこっと」
「そういえば、さっき面白そうな話の匂いがしたから誘われてこっちに来たんじゃが…何の話をしておったのじゃ?」
「あー、其れはだねぇ…」


 そうこう楽しげな空気で会話に花を咲かせていたら、美味しい良い匂いと雰囲気に釣られてまた一人ひょっこりと姿を現した者が。


「おっ、何か面白そうな事してますね?私も混ぜてくださーい!」
「どうぞ〜っ、沖田さんもいらっしゃいませぇ〜!」
「何じゃ、御主もか。まぁ良い!共に楽しもうぞ…!!」


 いつの間にか、彼を除き女性陣ばかりの集まりとなってきたところで、賑やかさに誘われたロマニがふらりと顔を見せた。


「わぁ、何だか賑やかになってるね、此処…っ?」
「はい…気付いたら、いつの間にかこんな感じに…」
「あ、天草君も居たんだね。女性陣ばっかの空間に一人男が居るのも辛かったでしょ…?」
「いえ、意外とそうでもありませんでしたよ」
「え…?」
「私にとっては、嬉しい事もありましたから」


 彼女が自分を好いてくれた理由の一部を知れたから、一人気まずい輪に囲まれていても苦に思わなかったのである。


執筆日:2019.08.20
加筆修正日:2021.10.03
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