君がマスターなら


「ねぇ、須桜?もし、貴女がマスターになって、セイバー・ランサー・アーチャーの三銃士の内からサーヴァントを召喚するとなったら…誰が良いと思う?」
「え……?」


 衛宮家にお邪魔して皆で仲良くお茶をしていると、唐突にそう何でもないように問うてきた凛ちゃん。
私はすぐに理解出来ずに、目をぱちくりと瞬かせる。
そんな私の様子に気にせず、凛ちゃんは自分の意見を口にした。


「勿論、私は最強のサーヴァント、セイバーを選ぶかしら。まぁ、聖杯戦争を勝ち進んでいく上では当然の選択よね!」


 そう自信満々に胸を張って言い切った凛ちゃんの隣で、士郎がぼそりと零した。


「そこでアーチャー、とはやっぱり言わないんだな遠坂…。俺は、現にセイバーをサーヴァントとして召喚させてるから、やっぱりセイバーしかいないかな…?」
「成程〜…」
「で、其れ等を含めた上での貴女の選択は…?クラスは誰を選ぶのかしら」
「うーん…三銃士の内の何れかからクラスを選ぶ、且つ誰が自分の相棒に合いそうか……となると、アーチャー、かなぁ…?」
「私か…?」
「あら、意外ね。理由をお訊きしても?」


 改めて問われて、ふと首を傾げて考え思い至った答えを口にしてみると、それまで黙って話を聞いていただけのアーチャーが口を開いた。
返ってきた返事に意外な答えだと思った凛ちゃんは、何故かと理由を問うてきた。
私は其れに「んっと…、」と頭の中を整理しながら言葉を紡いだ。


「えっと…単純に、何となくなフィーリングと直感…?かなぁ〜。私がもしマスターになったとしても、呼び出すのはセイバーじゃなさそうな気がするんだよねぇ…。…あ、別にセイバーの事が嫌いだとかいう事ではないからね?そこんとこ、絶対無いから安心して!」
「俺は!?なぁ、俺は…!?ランサーという選択肢は選ばねぇのかよ!?」
「え……いや、ランサーは何か違うな、って感じがするんだけど…」
「何でだよ!?槍も良いモンだぞ!特に其処の弓兵よりかは良いモンだぜ…っ!!」
「負け犬の遠吠えか?ランサー。素直に選んでもらえなかった事を受け入れたらどうなんだ?少々…いや、かなり見苦しいぞ」
「うるせえ!!ただの弓兵風情が…っ!」
「ハイハイ、選んでもらえなくて残念だったわね。あんまり騒ぐとうっさいからちょっと口閉じてなさい」


 騒ぎ立て始めたランサーにすかさず先制的に台詞を投げた凛ちゃん。
投げやりというか、ちょっと面倒くさそうに適当にあしらってる感が彼女らしい。


「な、何と言うか…ドンマイ、ランサー…。自分の英霊としては選ばなかったけど、ランサーの事は信頼してるし、頼りにもしてるからね!ランサーの事はこう、“ズッ友”みたいな感覚というか…近所に住んでるお兄さんみたいな感覚というか、そんなイメージしかないんだ。だから、その〜…御免ね?」
「いや…謝られっと逆に哀しくなってくるから止めてくんねぇ?惨めになってくるわ」
「あ、はははは………っ」


 思わず悄気しょげたランサーに、士郎は乾いた苦笑を漏らした。


「まぁ、そう思われても仕方ないかもしれないなぁー…。だって、ランサーってリアルに魚屋のバイトしてたり、花屋のバイトだったりカフェのバイトだったりもしてるからさ…。あまりにも周囲に溶け込み過ぎてて、俺もそういうイメージしか持てないわ」
「ちょ…っ、俺も英霊だって事忘れてません?あんまりにも酷い事言われたら、流石の俺もへこむし、泣くぜ」
「ふん…っ、惨めに一人部屋の隅ででも勝手に泣いていろ」
「ぁあ゙ん゙?テメェ喧嘩売ってんのか、コノヤロー…ッ!!」
「だぁっもう…!暴れるのなら外でやってくれ!!家が壊れるっっっ!!」


 そこですぐに煽るようにアーチャーが口を開くから、喧嘩っ早いランサーがそれを受けて苛立った様子で青筋を浮かべて睨む。
二人揃えばすぐに犬猿の仲で喧嘩になりかけるから、家主の士郎が声を大にして叫んだ。
本当、士郎は苦労が絶えないな…。
わちゃわちゃと言い争う二人を仲裁しようとする彼の様子を傍観しながら、そう他人事のように思うのだった。


 ―穏やかな喧騒が収まって、各々遣りたい事があると解散した後、変わらず衛宮家の居間に居座っていると、不意にアーチャーが向かいに座ってきてこう述べてきた。


「…先程は番犬風情のせいで失礼した」
「え…?や、別にいつもの事だし、気にしてないから良いよ」
「そうか…。だが、少なからず、君に私を選んでもらえて嬉しかったよ。まぁ、サーヴァントのクラス上として選択しただけ、という事は理解しているがね。君は恐らく、偶々この場に居合わせた三銃士を見比べた結果出した答えだったのだろう…?だから、てっきり君はランサーの方を選ぶのかと思っていたんだ」
「え、どうして…?」
「此れは、個人の勝手な見解だがね…。この場に居た三銃士の中から君が選ぶなら、私以外の者だと思っていたのだよ。何故かと問われたら……君がセイバーを選ぶとしたら、其れは同性であり何時も仲良さげにしているだろう?だから、セイバーを選んだとしたらそんな理由かと考えてね。…ランサーを選択するかもしれないと考えたのは、私が見る限りの中での君は、私よりランサーとの方が親しそうに接していた気がしたから…かな。単なる個人の感想だがね。そういった理由から、自分という選択肢は除外されるだろうと思っていたのだが…予想と反した答えが返ってきて、思いの外驚いたものだよ」
「う〜ん…確かに、セイバーを選ぶとしたならそういう理由だったのだと思う…。けど、私そんなにランサーと親しげにしてる空気あったっけ?」
「私が見る限りでは、だいぶ砕けた感じというか、柔らかな印象の接し方をしているなと感じたが…?」
「そ、そうだったの…?全然自覚無かったな…」
「だから、君がまさか私を選ぶとは思っていなくて…。まぁ、そんな意味合いも含めて、純粋に嬉しく思ったんだ。何となく、それを伝えておこうと思ってね。こうして皆が席を外した隙にと話に来たのだよ。…改めて礼を言う。私を選んでくれて有難う、スオウ」


 そう言って、照れたように、でも少し嬉しそうに微笑んできたから、私は不覚にもときめいて固まってしまった。
普段は寡黙で自分の事は語らないアーチャーが、珍しく自分の気持ちを素直に語ってきたという事も含めて、私は不意打ちを食らったようにドキドキした。
 本当にクラス適性というものが合えば、彼は私のサーヴァントに成り得たのかもしれない事実に思い至って、私は一人頬を赤らめるのだった。

…っていう感じの、えみご世界観での平和でふわっとした雰囲気のお話でした…!お話の中でセイバーは出てきていませんが、一応一緒に居て話を聞いていたという設定です。一言も喋っていないのは、士郎が作ったおやつを食べるのに夢中になっていた…と思ってください(笑)。


執筆日:2019.10.09
加筆修正日:2021.10.03
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